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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
巡礼の支度 想造育成機関_アトモス学園
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66.カインズ商工会


 土曜日の朝。

 アトモス学園での最初の休みが始まる朝だ。

 ありがたいことに、天気も快晴だった。せめてこのまま日曜までは晴れていてほしいものだ。

 今日の予定はとりあえず、カインズ商工会での素材の換金。時間も指定していないから、朝の遅いルカから連絡が来るのを待とうと思っていた。

 それから、確か今日は部活動の勧誘日なのだったか。ヒマなら顔を出してみるのも悪くないかもしれない。

 気楽に過ごしたい人間だから、見るだけで結局所属することはなさそうだけれど。

 ルカから連絡が来たのは九時過ぎ。そろそろ一人で朝食を取りに行こうかと思っていたころだった。

 朝食もついでにどうかと誘われたので、ギリギリのタイミングだったな。


『じゃあ、エレベーター前で待っとくよ』


 メッセージを返し、オレはすぐに部屋を出る。

 ルカの方は準備に手間取るかなと考えていたものの、彼女は案外早くに来てくれた。


「おはよ、ダイン」

「ああ、おはよう」


 挨拶を交わし、オレたちは食堂へ向かう。

 昨日もこうしてホール前で鉢合わせしたけれど、その時はやっぱりまだぎこちなかったよな。


「……どしたの?」


 何となくルカの方を見ていると、彼女が不思議そうに小首を傾げてくる。

 その仕草は、なるほど女の子らしいものだなと思わされた。

 こう表現すると怒るのかどうか、それが分からないのだが――可愛らしい顔をしている。

 ……密室で何を考えているんだと、オレは雑念を振り払うのだった。


 食堂での朝食を済ませてから、オレとルカはいよいよカインズ商工会へと向かう。

 商工会出張所があるのはC棟、演習場の右手側に位置する棟だ。

 初日の案内で生徒会長のシエラさんと話したのが少し懐かしくなった。


「あそこだな」


 通路沿い、南北に二つの店舗が連なる形で、手前側がカインズ商工会、奥側が魔術工房イマジナルとなっていた。

 通路側の外壁はガラス張りになっていて、今はそこから明るい店内が透けて見える。

 入口は自動ドアになっていて、オレたちをすんなり通してくれる。店内にはレコードがかかっているらしく、ゆったりとした音色が耳に心地良い。


「いらっしゃいませ」


 オレたちを迎えてくれたのは、若い男性店員だった。

 焦げ茶色の短髪に、白めの肌。頬のところには微かにそばかすがある。

 瞳は黒く、垂れ気味の目尻ゆえ優しげな印象にみえる人だ。


「初めて見る……ってことは、新入生の子っすかね?」

「あ、はい。どうも」


 口調は割と砕けていて、親しみやすそうだ。

 まだ二十歳ちょっとだろうし、メルシオネ教官と近いくらいかな。


「僕はサンズ=シムソンという者っす。カインズ商工会からここに派遣されてきてて、アイテムの売買を任されてるっす。こちらから言うのもアレっすけど、学園にいるうちはしょっちゅう利用することになると思うんで、ご贔屓に願いますね」

「そうでしょうね。結構すぐに素材って貯まりますし、週に一度は足を運ぶことになりそうだ」


 とりあえずオレとルカも軽く自己紹介をして、そのあとこの出張所の利用方法をサンズさんにレクチャーしてもらうことになる。


「利用については単純明快、素材を売りたいときはここへ持ち込んで貰えれば、市場の適正価格で買取させてもらうっす。その価格がどう決まっているかというと、ウチが需要と供給に合わせて随時変動する価格表を策定してて、それに基づく感じっすね」


 この価格表についてはアトモス学園へ提供していないものの、店内にある端末から確認することは可能で、名称を入力することで絞り込み検索をかけることも出来るという。

 たとえばテスタマイザーで討伐依頼を確認し、対象の魔物から手に入る素材の値段を検索、良し悪しを判断するという使い方が出来るわけだな。

 テスタマイザー自体にこの検索機能が追加されたら嬉しいけれど、そこはカインズ商工会の貴重な情報資源、ということだろう。


「反対に、もし素材を買いたいという場合には、僕に言ってくれれば適正価格で販売させて貰うっす。イマジネーター側が素材を買うっていうのは少なそうに思えるでしょうけど、たまにあるんすよ。工房でこの素材が必要だから欲しいんだって」


 最初の演習で、メルシオネ教官が説明していたことだ。ブースターは魔術工房で新調出来たり、或いはカスタムも出来るのだと。

 お金に余裕があって、中々手に入らない素材が欲しいという事態が発生したら、オレたちもここで素材を買うことになるのかもしれないな。


「ま、物は試しっす。ここに来たということは売りたい素材があるんでしょうし、まずは出してみてくれれば」


 サンズさんに促され、オレたちは素材を一つずつテスタマイザーから取り出していく。

 元の状態に戻すとかなりかさばるので、お店のカウンターに乗せてはサンズさんが奥へ移す、という作業が何度も繰り返された。

 これ、あんまり大量に持ってくると互いに負担だな。貯めこまないようにしよう……。


「ふう……これで全部です」

「オッケーっす。そんじゃ今から査定するんで待っててくださいな」


 言うが早いか、サンズさんは自身の近くにある専用の端末で作業を始めた。

 待つこと四、五分ほど。よし、と小さく呟いたサンズさんは、


「お待たせしたっす。査定結果が出ましたよ」


 とオレたちに告げ、作業していた端末をくるりとこちらに向けてきた。モニターの下部が回るようになってるのか、それ。


 査定価格一覧


 ウルフの毛皮     ……230ペンド×2

 ウルフの牙      ……170ペンド×3

 ウルフの骨      ……190ペンド×1

 サイズマンティスの鎌 ……230ペンド×1

 ポイズンアントの毒針 ……170ペンド×2

 ファットラットの毛皮 ……200ペンド×5

 ファットラットの牙  ……150ペンド×4

 ファットラットの大牙 ……450ペンド×1

 ボアの牙       ……130ペンド×1

 ブラッドベアの爪   ……230ペンド×1

 ブラッドベアの毛皮  ……260ペンド×1

 エレキタケ       ……20ペンド×5


 以上       総計4,500ペンド


「こんなモンっすね。他にも新入生の子は何人か来ましたけど、多分一番じゃないかなと」

「そうなのか……」


 率直に言ってしまうと、喜べるような金額ではなかった。沢山持ってきてもこんなものなのか、という気持ちだ。

 五人で割ると、一人あたり九百ペンドにしかならないし。

 ただ、イマジネーターになりたての新人が一週間で稼いだ金額だと思えば、サンズさんが言うように多い方なんだろう。

 これからランクアップして、強力な魔物を倒せるようになればそれだけ単価の高いものを獲得出来るようにもなっていくはずだ。


「新入生は一ツ星依頼しか請けられないでしょうけど、もっと上の依頼を請けてる上級生なんかは結構稼いでるっすよ。単価で千ペンドくらいはいく素材をゴロゴロ持ってきますから」

「へえー……ボクらも早くそれくらい稼ぎたいもんだなあ」


 その領域に辿り着くまで、果たしてどれくらいかかるものなのか。

 少なくとも三年目くらいにならないと、若手の殻は破れなさそうだが。


「で、どうしましょ?」

「あ。じゃあ売却で」

「まいどありっす!」


 こうして素材の換金は完了し、オレのテスタマイザーにその代金が振り込まれる。

 忘れないうちにと、オレはすぐにそれを五等分してチームメンバーへ送金しておいた。

 ありがたかったのは、売却完了後に詳細が記されたレシートが発行されたことだ。

 これなら明細が欲しいと言っていたエスカーも納得してくれるだろう。手間が省けて助かった。


「またのご来店、お待ちしてるっすよー」


 サンズさんの声を背に、オレたちはカインズ商工会を後にする。

 次はもっと高いものを沢山持ち込んでやろう、などと二人で話しながら。

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