65.導入訓練を終えて
拠点へ帰還したオレたちを、再びメルシオネ教官が迎えてくれる。
オペレーター室を通して既に情報は入ってきていたようで、第一声でおめでとうございますと労ってくれた。
「見事、本日の訓練目標を全て達成しましたね。ブラッドベアの討伐はバランチームに次いで二番目ですし、昼食もこの状況下では文句無しの出来栄えでした。チームワークの賜物でしょうね」
「ありがとうございます。チームワークがいいかどうかは自分たちじゃ分かりませんけど……」
「結果に出るものですよ。少なくとも、対立なく方針を決定出来るところは評価に値すると私は思います」
……確かに、オレが決めた方針が真っ向から嫌だと否定されることはない。
もちろん、各自の意見に合わせて立案はしているつもりだが、承服しかねる部分は各々あるだろう。
それを呑み込んでも、オレに付いてきてくれる、オレを信用してくれるというのはチームの強み足り得るのかもしれなかった。
こんなリーダーでいいのかなと、思うことも間々あるけれど。
「さて、今回の報酬と評点についてですが、報酬が満額で三千ペンド、評点は満点で十点になっています。ダインチームは……どちらも満点評価とさせていただこうかと」
「ま、満点?」
教官の言葉にルカは一瞬目を丸くして、
「やったあー! ありがとうございます、教官!」
「フフ、減点すべき部分がありませんからね。自信を持ってください」
「自信、か。そうですね、良くやったと思っておきます、メルシオネ教官」
オレがそう言うと、メルシオネ教官は微笑で返してくれた。
「この訓練を以て、新入生のための導入訓練は全て終了となります。翌週からは固定スケジュールで、午前中は歴史学と魔法学の講義、午後からはイマジネーター活動というのが基本になると思ってください」
「了解です。討伐依頼を請け負っても、最悪何もしなくてもいいって感じですかね」
「ええ、その認識で問題ありません。研鑽するも良し、休息するも良し。昼の活動は自分たちにとって良きものとなるよう、自由に行ってください」
それは気楽である分、全ては自己責任だということでもある。
のんびりしていればいるほどに、きっと周りは研鑽を重ねて自分たちより上に行くだろう。
目に見えるところでは評点。サボり続ければランキングがどんどん下がっていき、落ちこぼれになってしまうのは道理だ。
「イマジネーターという肩書きに恥じないよう、考えてやっていかなくちゃな」
「その心構えが肝要ですよ。今後の活躍、大いに期待しています」
……そう言えば、導入訓練が終わってしまうとメルシオネ教官の実践的な訓練がごっそり無くなることになる。
となると、この人に教わることもしばらくは無くなってしまうことになるのか。
「メルシオネ教官が関わる訓練は、今後あるんですか?」
フェイも同じことが気になってようで、教官に訊ねる。
「月に一度くらいは、演習や遠征訓練などを行っていく予定です。ただし不定期なので、事前にお知らせするという形になるでしょうね」
「そうなんですか。ちょっと寂しいかも」
ルカが言うのに、メルシオネ教官は嬉しいことを言ってくれますねと笑った。
「キャンパス内で出会う機会はいくらでもあります。他にももしかしたら、遠征先でばったりということもあるかもしれませんね。……とにかく、これで皆さんも胸を張ってイマジネーター生活をスタート出来るということですから、最後に私から言えるのはこれだけです」
教官はコホンと咳払いを一つしてから、オレたちに告げた。
「この一週間、おつかれさまでした。一流のイマジネーターを目指して、これからも尽力してくださいね」
その激励に、オレたちは力強く頷くのだった。
*
他のチームより先に――バランたちに次いでだが――異世界コリンシアから退去したオレたちは、アンナさんからも労いの言葉を貰った後、列車に乗ってアトモス学園へ帰還した。
今更だが、この交通費も実費だったわけだ。もしも入学早々とんでもなく散財していたら、列車で移動出来ない事態にもなるのだろうか。……過去に例はなさそうだけど。
列車の発車時刻もあって、学園に帰り着いたときの時刻は午後三時半ごろ。それでも予想よりもだいぶ早く帰って来れた。夕食までの時間が少し余ってしまったくらいだ。
どうせなら、この余った時間で戦利品の換金でも済ませてしまおうかと思ったものの、換金場所であるカインズ商工会はこの日、午後から店を閉めていた。後になって分かったことだが、雷曜日は午後にライセンスの昇級試験がある兼ね合いもあって、商工会も魔術工房も午前中のみの営業となっているようだ。ちなみに定休日は週の始め、黒耀日なのだとか。
閉まっている商工会出張所の入口を見て、今日の換金は諦めざるを得ないと結論付ける。
ルカも戦利品の一部を回収してくれているため、オレは明日の朝、二人でまた換金に来ようと提案し、彼女も快諾してくれたのだった。
「一週間おつかれ!」
今日もそんなルカの号令で、夕食は始まる。
まあ、おつかれなのは事実だ。入学してからの一週間、導入訓練の日々は目まぐるしかったな。
「休みを挟んで翌週からは、基本自由なイマジネーター活動か」
「好調な滑り出しだったから、なるべくならこのまま上位をキープしたいね」
イオナが言い、他の面々も頷く。
恐らくは今日の結果を踏まえても、新入生チームの中でも一番の好成績だろう。
それを陥落させようと、他チームは躍起になるのに違いない。
果たしてどれだけ頑張れば、トップを維持出来るやら。
『初めのうちこそ慎重でも、手慣れてくると効率良く依頼をこなすチームが増えてきて、接戦になりやすいですからね。常に油断は出来ないでしょう』
マルがそう忠告をくれる。何だか見てきたようなコメントだが。
「過去の生徒の情報とか見れたりするのか?」
『ああ、いえ……先輩オペレーターから聞くことがあっただけです』
素っ気なくそう返された。はぐらかされた気もするけれど、まあいいか。
「負けたくない気持ちも分かるけれど、それが焦りに繋がっちゃうのもいけないわ。私たちは私たちのペースで、着実に頑張っていきたいものね」
「……そうだな。フェイの言う通り、後ろを見て焦りながら進むより、前だけ見据えて進んだ方がいい」
バランのように、必死に追いすがってくる奴らがいたとしても。
オレたちはオレたちなりに、今週やって来たのと同じようにやり抜いていく。
それがきっと、イマジネーターらしい向き合い方だ。
食事を終え、皆と別れ、この日も夜が更けていく。
入学してから初めての休みを待ち遠しく思いながら、オレは就寝までの長くはない夜を、穏やかに過ごすのだった。




