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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
巡礼の支度 想造育成機関_アトモス学園
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64.ブラッドベア討伐戦

「――クラッグス!」


 イオナの土魔法が発動し、ブラッドベアの眼前に岩の柱が突き出てくる。

 その柱と舞い飛ぶ落ち葉が目晦ましとなって、強襲するルカの姿を掻き消した。


「……てやあっ!」


 岩を踏み台にしてくるりと宙返りし、そのまま踵落としを見舞う。

 ルカの一撃は、さっきエスカーが付けた傷の部分にちょうどヒットし、そのおかげか割合大きなダメージを与えられたようだ。

 ぐらりとブラッドベアの巨躯が傾ぐ。倒れてほしいところだが、奴はギリギリ踏みとどまった。

 力強く大地を踏みしめ、その衝撃で周囲が微かに震動する。木々がざわめき、鳥たちが飛んでいった。


『グルル……!』


 鋭い牙を剥き出しにして、ブラッドベアは唸る。

 そのまま体を低く構え――こちらへ突進してきた。


「ぐうッ!」


 オレは大盾を具象化し、全力の突進をガードする。

 凄まじい衝撃――ともすれば吹き飛ばされそうになってしまうが、何とか気合で持ちこたえた。


「っと、うお――!?」


 これは予想外だった。ブラッドベアは大盾を片腕でがっしり掴むと、その腕力にものを言わせブン投げようとしてきたのだ。

 ただ正面からくるものを防ぐだけなら力の運用でどうにかなっていたが、持ち上げられてしまうのは正直、為す術が無かった。

 オレは盾ごと勢いよく投げ飛ばされる。このままだと、無防備になった後衛にすぐ攻撃が及ぶかもしれない。


「それなら……!」


 少しトリッキーな芸当だが、やってみる価値はある。

 オレは吹き飛びながらも盾を変質させ、薄い膜状に伸ばしていく。

 その両端が左右の木に巻き付くと、スリングショットの要領でオレそのものを逆方向に跳ね返した。


「わっ、と……!」


 上手くいけば恰好良かっただろうが、着地でバランスを崩してしまう。オレはごろりと前転しつつ、ブラッドベアが二撃目に入る前にイオナとフェイの前まで帰ってきた。


「やらせねえぞ……!」


 再び黒霧を盾に変え、今度は引っ掻き攻撃を防ぐ。

 一振り、二振り、三振り――結構なラッシュだったが、何とかやり過ごすことが出来たか。


「――ヴォルカン!」


 引っ掻きを凌いだところで、イオナが火属性魔法を発動する。

 地面から噴き出す火柱が、ブラッドベアの体を焼いた。近くにいたオレにまでその熱さが伝わってくる……凄い量の火の粉だ。


『オオォオ……ッ!』


 全身に火を纏い、ブラッドベアは悶絶する。そのままやられてくれればという気持ちもあったのだが、やはりそこまで甘くはなさそうだった。

 地面に身体を擦りつけて、ブラッドベアは火を消し止めた。あちこちに火傷は負っているものの、致命傷にまではなっていないようだ。


「タフなこった」


 そこにエスカーの氷刃が飛んでくる。

 再び時間を掛けて量産したらしく、小さいながらも刃は七つ連続でブラッドベアを襲った。

 火傷によって爛れた皮膚を狙い、全ての刃が突き刺さる――狙撃手かというほどの腕前だ。


「ふう、馴染んできたかな」


 エスカーはそう言って微笑を浮かべる。

 自らの能力をかなり正確に扱えるようになってきたらしい。オレたちの中で、あいつが一番器用だよなと思う。


「今だよ」

「はいはい!」


 そして、ルカの連携。

 低い姿勢から地面を蹴り、バネのように伸び上がって強烈なキックをブラッドベアの顎に喰らわせる。

 彼女の能力もだんだんと増してきているのか、三メートルはありそうな巨体が僅かに浮き上がるほどの威力だった。


「ダイン!」


 分かっている。

 ここまで繋いでくれたなら、防御役に徹したオレも最後に一手、決めてやるさ。

 盾は両手剣へと変化し、無防備なブラッドベアへと慈悲無き一閃を与える――。


「うおおぉおッ!!」


 全力で振り抜き、その体を両断する。

 断末魔の咆哮と激しい血飛沫を残して、ブラッドベアは大地に倒れ……その命の灯は消えるのだった。


「――ふう」


 息を整え、亡骸を見下ろす。


「これで……討伐完了だ」

「よおっし!」


 オレが宣言すると、ルカを始めとして全員が各々の言動で喜びを表した。

 拠点を出発してからまだ一時間と経っていない。最後までトントン拍子で運んでくれて良かった。


「回収、回収っと」


 荷物が溢れそうなオレの代わりに、ルカが戦利品を回収してくれる。

 内訳としては、爪と毛皮が得られたようだった。

 ……いやしかし、苦戦するかと思いきや案外あっさりと倒せてしまったものだ。

 昨日相手にしたファットラットと同格くらいの強さだったはずだが、オレたちがその分成長しているということだろうか。


「実感出来るくらい、皆強くなってるよね」


 イオナがニコリと笑う。しかし、そこでエスカーが、


「でもほら、トライ・タワーのことがあるでしょ。ここは異世界だから、力が増して感じられるんじゃない?」


 トライ・タワーか。そう言えばあれの影響で、ロウディシアの指定範囲内では魔力が抑制されるから、異世界に来ると抑制が無くなる分、強くなったように感じるという話だった。


「それもあるとは思うけど、測定してもらったときよりはステータス、上がってるんじゃないかなあ」


 ……ステータス、か。たしかテスタマイザーで簡易的には分かるんだっけ。

 異世界にきたから力が増しただけとは思いたくないし、少しは変化があってほしいものだ。


「ちょっと見てみるかな」


 簡易測定機能を呼び出し、自身のステータスを計測する。

 初日にコーネリア校長が使ったときと同じく、電子音の後に光の輪が生じ、オレの全身をスキャンしていった。


 ダイン=アグナス 年齢:15 性別:男性

 想造能力:門を開く者(アルニオン)  ……練度:D

 

 体力値    ……180 D

 魔力値    ……130 E

 想造値    ……*** 測定不能

 攻撃値    ……170 D

 魔法攻撃値  ……140 E

 防御値    ……160 D

 魔法耐性値  ……140 E

 敏捷値    ……160 D


 能力総合ランク:D(要検証)


 スキャンが終わり、結果がスクリーンに表示される。

 確か簡易測定での能力値は一桁目が切捨てだったはずだから、前回より下がっていることはないだろう。

 魔法耐性と敏捷以外は十の位が上がっているから、間違いなくステータスは伸びている。加えてイマジネートの練度もEからDにランクアップしているな。

 これだけ短期で上がるのなら、翻って言えばEとDの差がそれほど大きくないのかもしれないが……それでも、データとして一つ上のランクに上がったという事実は嬉しいものだ。


「――測定不能?」


 エスカーの訝しげな声が聞こえた。

 いけない、どうもデフォルトの設定が外部へも表示されるようになっていたようだ。

 オレのステータス、想造値がおかしいんだったな。自分だけが確認するつもりだったから、あまり他人の目を気にしていなかった。


「あー……前回測定してくれた事務員さんが言うには、オレの想造値は常にブレがあるせいで測定が出来ないとか何とか」

「そうなんだ? 確かに、想造値は心の力なわけだし、常に揺れ動くような人がいてもおかしいってことはなさそうだけど」


 イオナもあのときの事務員と同じことを言う。心の力はそういうもの、というのは共通認識なのだな。

 一般人からしてもそりゃそうだよなと思う話だし。


「……けど、ブレがあったら丸きり測れないってのもねえ。大体このくらいですってだけでも出してくれないと、測定装置として形無しでしょ」

「ま、オレも大雑把な結果くらいはみたいと思ってるけどさ」


 エスカーでさえそれだけ引っ掛かるのだ、当人のオレが気にならないわけがない。

 しかし、結果が出ない以上はどうしようもないんだよなあ。


「気になるのは分かるとして、ダイン。ステータス表示の機能はオフにしておく方がいいと思うよ」

「あ、ああ。それもそうだな」


 イオナに指摘されて思い出す。これ、大体の機能が周囲にも見える設定になってるからな。

 チームで行動することが多いし、それでいい項目もあるけれど、プライバシーに関わるところはちゃんと見直しておかないと。


「皆も見せてくれて構わねえんだが」


 オレだけが見られてしまったのも癪だし、冗談交じりにそう言ってみたものの、


「生憎そこまで明け透けにはしたくないからねえ」


 と、にべもなくそう断られた。エスカーだけじゃなく、他の皆も進んで開示したくはないらしい。

 他と比べられてしまうことを考えれば、まあ気持ちは理解出来る。


「はあ……まあいいや。そんじゃ、帰るとしますか」


 リーダーとして締まらない感じになってしまったが、仕方ない。

 目的のブラッドベアを倒したオレたちは、元来た道を戻って拠点を目指すのであった。


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