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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
巡礼の支度 想造育成機関_アトモス学園
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62.戦う道は父を継ぐ

「ごちそーさまでした!」


 料理の皿をすっかり綺麗にしたルカが大きな声で言う。

 彼女が一番早く食べ終わり、残りのメンバーも各々のスピードで料理を平らげた。


「ふふ、美味しかったね。材料も器具も限られた中でこれだけのものが食べられたのは良かったかな」

「ええ、満足だわ。ありがとうね、ダインくん」


 フェイが礼を言ってくれるが、オレは特に功労者というわけでもない。

 マルの情報提供に沿って方針を決めただけだし、料理はイオナとフェイも頑張ってくれた。

 エスカーとルカも文句を言わずに雑用を頑張ってくれたしな。


「しかし、リーダーが料理のスキルをお持ちとはね。さっき母子家庭だとか言ってたけど……?」


 聞いてきたのはエスカーだ。結構遠慮なく踏み込んでくるなとは思ったが、こいつなら人の情報を知りたがるのも不思議じゃないか。


「オレの家は母親とオレ、それから双子の妹の三人家族でな。父親は、オレと妹が生まれる前に亡くなったらしいんだよ」

「そうだったの……」


 フェイが沈鬱そうな声を漏らす。

 そういう反応が返ってくるだろうなと言うのは予想していた。だから、自分から進んでは言わなかったことだ。


「それは、病気か事故で?」


 エスカーの問いにオレは首を振り、


「いや、どうもオレの父は魔物退治を生業にしてたみたいでさ。しかも、イマジネーターでもコンストラクターでもなく、独自に仕事を請け負ってたんだとか。そこそこ戦えたそうだけど、やっぱりイマジネーターほど強くはなれなくて。どこかで魔物に負けちまって帰らぬ人に……ということらしい」


 この時代に、どの組織にも所属せず魔物退治に勤しむというのは珍しい。

 誰かの後ろ盾も無いし、助けだって来ない。あまりにも危険な生き方だとオレは思ったし、実際それで父は命を落としている。

 イマジネーターの素質が無かったとしても、コンストラクターには所属していれば良かったのに。

 父が何故そういう生き方をしたのか、オレにはさっぱり分からなかった。


「確かに、無所属なのにはメリットがないだろうね。何か理由があったのかな」

「さあ……別に入れなかったってワケじゃなさそうだが」

「父親の名前は?」

「グイグイ聞いてくるな、エスカー。……ユリアンって名前だったらしい。母さんが言うにはな」


 ユリアン=アグナス。ヴァージニア教官の講義でもユリアン=ブレイズという議長の名が出ていたように、ユリアンという名前はさして珍しくもない。

 しかし、同姓同名の人間は流石に少ないはず。いつかどこかで父の生きた証を見聞きすることもあるんじゃないかと考えている。

 けれど、残念ながら今の時点ではまだその機会に巡り合えていない。


「ユリアンか、俺も知らないねえ。少なくとも無所属で魔物を退治するような人は特異だから、ある程度名が知れててもおかしくはなさそうなのに」

「オレもそう思ってるけどな。イマジネーター稼業を送ってる内、どこかでふと耳に入ってくるかなってのはまあ、期待してるよ」

「そっか。聞いた手前、一応言っておくけど、どこかで分かるといいねえ」

「その前置きは要らんだろ。……ありがとな、エスカー」


 オレが感謝を告げると、エスカーはやめてくれとばかりに手をぷらぷらと振る。


「……もしかして、ダインがイマジネーターになったのってお父さんのこともあって?」


 遠慮がちに訊ねてきたのはルカだ。それにもオレは首を振り、


「いや、父親の影響はあんまないかな。そもそも父親のことをほとんど知らないし、憧れるのもけなすのも難しい。……オレがイマジネーターを目指したのは結局、ルカと同じさ。母さんと妹に良い生活をさせられたらなって気持ちも幾らかはあるけど」

「ふふ……家族思いなのねえ、ダインくん」


 家族思い、か。自分で思ったことはないが、周りから見ればそうなのかもしれない。

 女手一つで子ども二人を育ててくれた母、そして年相応にツンツンはしているけど、愛らしい妹。

 家族のことを疎ましく思ったことは全くない。この関係を末永く、良いものにしていきたいのが本心だ。


「……あれ、イオナ大丈夫? ぼーっとしてるけど」

「うん? ああ、大丈夫だよ。いやあ、ダインって苦労してきたんだなあって思っちゃって」

「苦労してきたのはオレじゃなく母さんだけどな」


 取り繕うようなイオナの台詞に、オレはそう返す。

 ……確かにルカの言う通り、さっきの彼女は考え事をしていたような感じだった。

 本当にオレの境遇について考えていたのか、それとも別のことなのか。気にしても仕方は無いが。


「でも、悪い夢にも影響してるんじゃ?」

「さて、どうだろうな。……ああ、そういや悪夢のこともイマジネーターになった理由の一つか」

「悪夢?」


 エスカーがその単語を繰り返して問うてくる。


「昔っからしょっちゅう悪夢を見ちまう体質でね。イマジネーターが自分の心象世界を武器に昇華させて戦うんだって聞いて、もしイマジネーターになったらオレの心象世界……悪夢を見る理由について何か分かったり、解消出来たりするのかなあってのも思ってるのさ」

「ふうん……それは難儀なことだね」


 言いながら、エスカーは口元に手を当てて考え込む仕草をする。

 オレの悪夢が意味するところを探っているかのように。

 オレ自身もさっぱり分かっていないことだし、他人にゃ余計分からないことだとは思うが。


「ま、世界には苦労してる人間なんざ沢山いる。まだ皆のこともよく知ってるわけじゃないし、イオナが名前で苦労してきたように誰しも抱えてることはあるだろ。特に気にしてもらうようなことじゃないさ」

「ダイン……」


 当たり前のことを言っただけだが、思いのほかイオナの心には刺さったのか、彼女は僅かに目を潤ませているように見えた。

 女神と同じ『イオナ』という名前は、やはり彼女にとってかなりの重荷になってきたのかもしれない。それをオレたちは知らないだけで。

 流石に空気が重たくなってきたので、ここは適当に流しておくことにする。


「エスカーの背が低いのもそうだしな」

「ん? きみの首を切ったら俺より低くなるだろうね?」


 ……中々物騒な返しをされた。怖えな、コイツ。


「ふう。こうして話すのもいいけど、飯は食い終わったしそろそろ切り上げて、メイン目標達成に向けて動くとしますかね」

「そうだね。もう一時も近いし、午後の部を始めてもいいかも」


 他チームはまだ料理に苦戦している。……というかオレたちよりも断然食材が少なく、まともな昼食を作れそうにない状況だ。

 この感じなら、恐らくどこも昼の出発は遅れそうだし、早く出るのはこちらのアドバンテージになるだろう。


「じゃ、急いでお片付けしちゃいましょうか」


 フェイが言い、オレたちはすぐ片付けを始める。元が綺麗な状態だったので、食器や調理器具を洗うのはかなり丁寧にやっておいた。


「教官、帰ったぞ」


 片付けが済んだところで、そんな声が拠点にこだまする。

 誰の声かは明らかだ。あれはバラン=カーファをおいて他にいない。


「バランチームですね、おかえりなさい。拠点への一時帰還は最後になりましたが、午前中にブラッドベアを討伐出来たのは貴方たちだけですよ。お疲れさまでした」

「ホンマに!? やった~!」


 エステルちゃんがぴょんと跳ねて喜びを表現する。

 ただ、その後方でエレンちゃんは不安げな顔をしていた。


「後は昼食を作っていただければ、今日の課題は全て終了です……が。どうしました、エレンさん?」

「えーっと、その……」


 昼食、という言葉が出た瞬間に、バランチームは気まずそうに互いの顔を見合わせた。

 そして、テスタマイザーから幾らかの果物を取り出す。


「この果物を食べたら昼食ってことで大丈夫ですか?」


 苦し紛れの一言に、メルシオネ教官は苦笑しつつ、仕方ないですねと頷くのであった。

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