57.アルカード星書院
オレたち新入生とメルシオネ教官、全員で四十名以上が列車に乗り込む大移動。
線路は東へと伸び、目的地のアルカード星書院を目指す。
道中、右手側にトライ・タワーの一つが見えた。セント・ロウディシアの北側にそびえ立つあの塔は、確か龍の塔と呼ばれていたはずだ。あれ以外の二つは、それぞれ獣の塔と人の塔なんて名が付けられていたのだっけな。
「この路線を、何度も往復することになるんだろうねえ」
「だな。最短距離なのは助かる」
緊急性もそうだが、単純に移動が長いと退屈してしまうだろうし。
アルカード星書院がどうして首都や学園から離れた場所にあるのかと言えば、それはひとえにワールドスクリプトの危険性ゆえだ。
書物という『アイテム』に物質化されて保管されているとはいえ、そこにはロウディシアとは違う別の世界が内包されていて、魔物が襲い来るような世界も多い。
万が一ワールドスクリプトが暴走したとしても、直ちに生活圏へ影響がないように、あえて近くに何もないような場所で創設されたわけである。
「コンストラクターも星書院からワールドスクリプト内へ遠征に行ったりするんだよね?」
「そうだね。セラフィス教会の人たちも、別世界に教えが必要と判断したら出向いたりするみたい」
「へえ……」
ルカとイオナの会話だ。……コンストラクターもイマジネーターと同様に異世界へ赴くのは知っていたが、セラフィス教会もそうなのか。
だとすると、教会の人たちには戦闘能力がないはずだし、イマジネーターかコンストラクターを護衛につけたりしているのかもしれない。
……いや、或いは。
「異世界へ出向ける人材作りのため、イマジネーターになるのを推奨してる面もあるのかな。エレンちゃんとか」
「そうかもしれないわねえ……」
エスカーは一通り新入生の情報を調べたのだったか。エレンちゃんのことも、事前に知っていたんだろうな。
「私はセラフィス教会のこと、あんまり知らないのだけれど……宗教はやっぱり、どんな場所にも求められるものなのかしらねえ」
「どんな場所にも、か」
フェイの言葉を、オレは繰り返すように呟く。
本の中の世界――ある種現実と定義し難いその世界に、現実と同じ宗教は必要なのか。外側の理からの救いは必要なのか……。
確かに難しい問題ではある。
「……あ、見えてきたんじゃない?」
ルカが前方を指差す。オレは彼女と向かい合うように座っているから、反対を向かないとそちらが見えない。
「お……本当だ。あれがアルカード星書院か……」
無数の書物が収蔵されている施設、とだけ説明すれば図書館のようにも思えるのだが、そこは佇まいからしてもう別物である。
建物の形は円柱のようになっており、天井はドーム状……全体的に丸みを帯びた外観と言えよう。
外壁は黒と白の長方形が交互に配置された、まるで本棚のような模様。そしてよく見れば、黒い部分には白の、白い部分には黒の小さな星マークが所々に散りばめられていて、本の中に世界があるというのを比喩しているようだった。
「神秘的だねえ」
「エスカーでもそんなこと言うんだ?」
「でもは余計。……しかし、本の中の世界ね」
彼はそう呟いて笑う。どこか自嘲するように。
「どうかしたか?」
「いや、ホントにメルヘンな表現だよなあと思って」
「でも、実際にその通りだからね。星書院の中には無数の本が収められ、その一つ一つに世界が存在している……」
それがどういう原理なのかまでは、世間一般に知らされてはいない。
どうして本の形をしたソレに、一つの世界という巨大なものが詰め込まれているのか。
どうしてオレたちは、その世界の中へ飛び込んでいくことが出来るのか。
そもそもどうして、ワールドスクリプトなんてものが存在しているのか……。
イマジネーター稼業を続けるうち、そういう一般に浸透していない秘密めいた部分にも、触れられるのではないかとオレは思っている。
もしもその結果、世界平和に繋がる何らかの発見に繋がれば鼻が高いだろうな、なんてことも思いつつ。……高望みだろうけれど。
「そろそろ到着ですね。皆さん、忘れ物の無いよう」
駅が近づき、メルシオネ教官が言う。……テスタマイザー以外の私物を持ってる人があまりいないし、忘れ物は特になさそうだ。
それから二、三分ほどで列車は駅の中へ滑り込んで、オレたちはホームに降り立つのだった。
「壮観だね……」
建物を見上げながら、イオナが嘆息を吐く。
彼女以外の者にとっても、同じような感想しか出ないくらいに、その建物は事実圧倒的な存在感を持って佇んでいた。
「そうでしょう。ここがロウディシアで発見、固定化されたワールドスクリプトを保管する施設……アルカード星書院です。当然ながら一般人は立ち入り禁止になっており、イマジネーターやコンストラクターが各機関のライセンスを提示して初めて入ることを許されます」
なるほど、ここでもライセンスの出番があるわけか。考えてみれば、これは立派な身分証だものな。
「さあ……それでは星書院の中へ入りましょうか。異世界へと繋がる門の中へ」
メルシオネ教官は珍しく、そんな風に星書院を例えつつ、オレたちを中へと誘うのであった。




