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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
巡礼の支度 想造育成機関_アトモス学園
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56.世界の記述書

 今日も今日とて朝がやって来る。

 悪夢を見なくなったのは良かったものの、昨日の一件が影響して寝付くまでに時間がかかってしまった。

 若干の眠気を感じながらも、オレは何とか体を起こす。

 時刻は七時半ぴったりだった。

 昨夜、風呂上りのタイミングで新入生宛てに来たメルシオネ教官からの連絡。

 そこには、明日の午前九時にキャンパスの前庭へ集合することとの指示があった。

 講義室や屋内の施設でもなく、かといって演習場でもない……それなら考えられるのはやはり、遠出。

 キャンパスの前庭で集まるのなら、そのまま列車に乗って別の場所へ向かうという線が濃厚だった。


「……メシ食いに行くか」


 オレは朝の準備を済ませ、部屋を出る。


「――あ」


 エレベーターホールまでの廊下で、珍しく早起きしたらしいルカと鉢合わせする。

 だから、女子寮から出てくる彼女に、オレはそうだったなと再認識させられて。


「……おはよう」

「ん……オハヨ」


 そのときこそ多少のぎこちなさはあったものの、それも雑談の中でだんだん解消されていく。

 食堂に着く頃には、ほとんど昨日までと同じような感じで話せていた、と思う。


「おはよー、二人とも」


 最早オレたちのチームの指定席ともなった場所には、既にイオナとフェイがいて、料理に手を付けていた。

 二人に挨拶を返してから、オレとルカも朝食を選んで席に着く。エスカーが来たのはちょうどそのあたりだった。


「……で、二人は無事仲直り出来たと」

「そもそもケンカしてないけど?」


 挨拶代わりのエスカーの皮肉に、ルカは鋭く食いつく。

 この時ばかりはオレもルカの味方をして、


「お前の頭の中だけの話は止めとけ?」

「ハハ、仲がよろしいことで……」


 エスカーはそう言って笑ったが、分が悪いとみてそれ以上は何も言ってこなかった。

 ……進んで茶化すようなこと言わなきゃいいのに。損な性格をしている奴だ。


 普段通り、和やかな食事の時間を終えて、オレたちは指示を受けた前庭へと向かう。

 サラルやエレンちゃんなど、他の新入生たちも同じタイミングで動き出したので、合流するような形になった。


「朝から集められるとは、今日の訓練はどのようなものでござろうな」

「オレたちは、ワールドスクリプト絡みじゃないかと思ってるんだけど……」

「あ、私もそんな気がしてました。まだ教わってないですもんね」


 エレンちゃんは胸の前で手を組みながら、嬉しそうに言う。

 大人しめの性格に見えるけど、割と訓練に対して積極的だな。


「しかし、聞いたで? 昨日の依頼、教官から褒められるくらいの内容やったって」

「ふふ、ボクたちにかかれば難しい依頼だって難なく達成出来ちゃうのさ」


 自慢げにルカが言うけれど、難なくというのは誇張し過ぎだ。かなり苦労したし、時間もギリギリだったんだから。


「ふん……俺たちが先にあの依頼を請けていれば、功績も俺たちのものだったんだ。少し早かったからと言って、浮かれるなよ」

「ま、逆に言えばそういうのも実力だからさ。次は頑張りなよ、バラン」

「なっ……エスカー、貴様……」

「はいはいケンカは売らない、買わない」


 険悪になりかけたところで、イオナが仲裁に入る。

 彼女が止めなきゃオレが、とも思っていたが、バランのことだしオレだと火に油だったかもな。


「っと、メルシオネ教官だ」


 時刻が九時になり、メルシオネ教官がオレたちの元へやって来る。

 彼は今日も素早く全員が揃っているのを確認すると、


「おはようございます、時間通りの集合ありがとうございました」


 そう言って軽く頭を下げた。


「さて……本日が新入生へ向けた導入の最後を飾る訓練となるのですが、この時間に集まってもらったことから分かるように、午前と午後を通しての長い訓練になることをまずはご了承ください」


 ここで驚くような生徒はいない。既に一日仕事になることは皆予想している。

 大事なのは、その訓練の中身だ。


「では、一日をかけて行われる訓練とは何か。それは今日までの四日間で未だ皆さんに教えていない、しかしイマジネーターの職務において避けては通れぬもの」


 ――やっぱり、そうなるよな。


「そう、世界の記述書……ワールドスクリプトと呼ばれる下層異世界。本日は皆さんに、その異世界へと赴いてもらうことになります」


 これを聞いてようやく、生徒たちからどよめきが起きた。期待と不安が合わさった声だ。

 本の中という異世界への旅立ち……これまでで最も遠く、そして危険な場所での訓練になる。

 難度からして、最終日に教わるというのも納得だ。


「ようやくか……」


 バランが待っていた、という風に笑う。威勢は良いが、それで怪我をしないよう気を付けてほしいものだ。あいつもチームを纏めるリーダーなのだし。


「一応説明しておくと、ワールドスクリプトはこのロウディシアに時折出現する時空の歪み……それを固定化させたものです。元は本当に空間が歪んだようなものが存在しているのですが、特殊な装置で物質化させると書物の形になるため、そう呼ばれるようになったのですね。ワールドスクリプトはもちろん、取扱いの難しい危険なものですから、古くより一所に集められて厳重に管理されています。なので異世界へ赴くにはまず、管理施設を訪れる必要があるのです」


 つまり、これからオレたちはワールドスクリプトを収蔵する機関へ向かい、そこから異世界へ出発する……と言う流れになるのだな。


「施設へは列車で三十分ほど。地方の村などと違って、こちらは例外的にアトモス学園と直通の路線があるので比較的早く向かうことが出来ます。イマジネーターにとっては頻繁に利用する場所ですからね」


 一般人の利用が少なくとも、平和を維持するための緊急性の高い理由だからしっかり整備されているわけだ。

 仮にワールドスクリプトが暴走したとして、施設への移動が遠回りで一時間以上も掛かったらまずいものな。


「……さあ、では列車が出る時間が近いので、そろそろ移動を始めましょう。向かうはワールドスクリプトの収蔵施設――」


 メルシオネ教官はくるりと身を翻し、歩き出しながらその名を告げる。


「――アルカード星書院せいしょいんです」

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