4.式が終わって
コーネリア校長の話が終わってからは、何人かの上級生が入れ替わり立ち代わり、学園生活の思い出を語ってくれた。
中でも興味を惹かれたのは、セアル=ムツキという人の話だ。彼は九十七期生……つまりオレたちより三つ上にあたる大先輩なのだが、その優れた戦闘力から既にコントラクターとしてのオファーが来ているのだという。本人もそれを受け入れており、卒業次第すぐにコントラクターとして活動するつもりなのだとか。
実はこうしたイマジネーターからコントラクターへの転向というのは古くから受け入れられ、きちんとした契約として成り立っているらしい。
アトモス学園創設よりも以前、ブースターが開発された当初に世界で初めてイマジネーターとなった男、アディム=ゴルディウス。彼は全盛期を過ぎた二十五歳のとき、コンストラクターへの転向を希望。その戦闘力の高さは誰もが認識しており、元々イマジネーターになる前は一度コンストラクターとして活動していた実績もあって、取り纏めを行うギルド側も快く了承したのだった。
これが契機となり、イマジネーターを辞めた者の受け入れ口としての機能をコンストラクターギルドが担うというルートが出来上がったのだ。そりゃあ、強いのが分かっている人材を入れる方が、コンストラクター側にとってもいちいち審査しなくていいから楽に決まっている。
まあ、イマジネーターになれず最初からコンストラクターを目指すしかなかった人にとっては、鬱陶しい仕組みのようだが。彼らはいわゆる転向組を、目の上のたんこぶのように思っているとかそうでないとか……そこは同業者間の抱える闇、という感じだな。
『今はイマジネーターとして日々活動しているが、それはコンストラクターになったとて変わらない。魔物と戦い、世界の秩序を守る。その役目を担うからには、常に全力で向き合い続けるのみだ。君たちもそうであることを祈っている』
大先輩の含蓄ある話に、新入生たちはまた大きな拍手で応えた。セアル=ムツキさんは満足げに一つ頷き、舞台袖へと引っ込んでいく。
その姿が消える直前、どこか座席側の一点に目を向けていた気はするが……ううむ、勘違いだろうか?
ともあれ、これで入学式はほぼ終了だ。中等学校までは校歌なんてものもあったが、この学園には特にないので歌うこともない。
後は何だったか、新入生代表の宣誓があったような。
『それでは、最後に新入生を代表しまして、バラン=カーファくんより宣誓をしていただきます』
進行役の人がそう言うと、座席の最前列、しかもど真ん中にいた一人の少年がすっくと立ち上がった。
あれは……ここへ来るまでに見た、絶対トップになるとか言ってたヤツだな。オレンジ色の短髪をワックスでしっかり固め、高級そうなスーツに身を包んだいかにもな少年だ。……しかし、カーファか。なるほどそのファミリーネームは聞き覚えがある。
ロウディシアの政治を担う機関、星定議会。計七十一人の議員によって構成されるその組織のトップ、要するに議長の名前がヨーゼフ=カーファといったはずだ。十中八九、あいつはその議長様の息子なのだろう。正真正銘のお坊ちゃまだったんだな。
『ご指名いただきありがとうございます、アトモス学園第百期生代表、バラン=カーファです。本日より私たちは、この伝統あるアトモス学園へ入学し、イマジネーターとして日々研鑽を重ね、諸先輩方のようにこのロウディシアの平和を守るため尽力していく所存です。まだまだ未熟な身ではありますが、皆さま何卒ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします』
台本のようなものも見ず、彼は一息に長い台詞を言い切った。さも当たり前、という顔でいるのは若干鼻につくものの、ああやってスラスラ話せるのは純粋に凄いものだ。オレなら五秒と持たずに噛んでしまうことだろう。
新入生と、そして教職員からも惜しみない拍手。バランくんはさっきのセアルさん以上に満足げな笑顔を浮かべて静かに着席した。
『それでは、以上で第百回アトモス学園入学式を終了いたします。皆さま、ありがとうございました――』
さあ、これで本当に入学式も終わりだ。この後は施設案内に移って、一通りキャンパスを巡った後に寮へ向かう流れだったはず。
入学案内は結構読み込んでいたから、初日にやることはもう頭に入っていた。
「はあ……終わったねえ。話を聞いてるだけでもワクワクしちゃったや。校長先生のアレも凄かったし」
「だなあ。あれで四十五歳ってのはビックリだ」
興奮気味に話しかけてきたルカに、オレはそう返す。ルカも本当にねと同意し、首をこくりと縦に動かした。
『えー、それでは新入生の皆様は、これより学園生活について簡単に説明をさせていただいた後、施設案内に移る予定となっております。少々お待ちいただければ……』
進行役の男性がそこまでを言ったところで、ふいに空気が変わったような気がした。
……いや、気のせいではない。他にも何人かの新入生は変化を感じ取ったようで、ルカも眉をひそめてこちらに目を向けてきている。
壇上にいる学園関係者も、もちろんこの異変を察知したようだった。
――すると。
「な、何だ?」
明らかに平常時に出すものではない、警報音のようなものが流れた後、女性職員によるアナウンスがホールに響いた。
それは、まさに非常事態を知らせるための緊急連絡だった。
『臨時放送です。つい先ほど、学園内に魔物とみられる個体の出現を確認いたしました。脅威度は『中級』程度と推定されますが、各所に複数の個体が出現しているものと見られます。非戦闘員の方々は演習場への退避を、戦闘員の方々は魔物への対応をお願いいたします。繰り返します――』




