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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
巡礼の支度 想造育成機関_アトモス学園
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54.仕事終わりの

「お疲れー!」


 ルカがグラスを高々と掲げ、オレたちも遠慮がちに真似をする。

 ……昨日も同じことをしてなかったか? 連日めでたいのは確かだけれど。


「ふふ、いいんじゃない? 新入生としてはこれ以上ないくらいのスタートを切れてることだし」

「イオナの言う通り。頑張った分だけボクたちしっかり評価されてるし、喜ぶべきだよ」


 喜ぶべきというのはまあ、その通りだ。

 多分、今回の依頼達成で評点はトップに躍り出ているんじゃないだろうか。他に四点も獲得出来るような依頼は無かっただろうし。

 依頼掲示室での報告後、その報酬はすぐに反映されていた。お金に関してはリーダーのオレに全額が入ってきていたので、五人平等に八百ペンドずつ分けた。

 当初はマルにも分けようとしたのだが、オペレーターは給与システムが別だから依頼報酬は受け取らないのだと断られた。

 違うルートでお金がちゃんと支払われるのなら、それで問題はないけれど。彼女にも見合った金額が振り込まれることを願っておこう。


「ここから先も失速せず、ダインチームの名を轟かせたいもんだね?」

「ダインチームを強調するな、エスカー。言われる度に恥ずかしいんだよ……」

「ボクは嫌じゃないけどねー」

「自分の名前だったら嫌だろ?」

「そりゃモチロン」


 ……やっぱり。


「明日はどんな講義になるのかしらねえ。座学は来週からが本番のようだったけれど」

「だな。午前中に何もないことになるわけだが……」


 今日の訓練がハードだったから、午前中は休みにするとかだろうか? 昨日は実際、午後からのオリエンテーションだけだったし。

 もしくは、丸一日を使った訓練があるのかもしれない。新入生だけの時間は、明日までのはずだから。


「そのへん、事情通のイオナは何か知らないのかい?」

「私、別に事情通じゃありませんけど。……でも、まだ私たちが教えてもらってない、イマジネーターにとって最も重要な役目があると思うよ」

「と言うと……」


 エスカーは口元に手を当てて、一人合点がいったように頷く。

 ……イマジネーターにとって最も重要な役目。単に依頼をこなすだけではない、イマジネーターに求められている役目と言えば。


「ワールドスクリプト――」


 そう、世界の記述書と呼ばれる書物の世界。

 魔物どもが襲い来る、本の中に存在するという異世界……。


「言われてみれば、ボクたちまだ全然そっち方面の説明受けてないもんね。そろそろ教えてくれそうかも」

「本の中の世界って表現はメルヘンだけれど……実際はどうなのかしらねえ」


 フェイは首を傾げながら言う。

 オレも基本的な情報だけはあるけれど、あくまで世間一般の浅い知識だ。

 イマジネーターという当事者の立場から知る『ワールドスクリプト』はもっと深く、きっと違った印象を持つものなんじゃないかと思う。


「ま、明日になれば分かることかな。夜にはまた教官からのお知らせが来るかも」

「だねー。前日とか数時間前に知らせてくることばっかりだったからなあ」


 エスカーの言葉に、イオナがそう返して溜め息を吐く。

 一週間の予定表、なんてのがあれば分かりやすかったのだが、そこは訓練の内容を事前に教えたくないとか、事情があったのかもしれないな。


「今日も仲良く団らんのようだね……?」


 料理を食べ終えたあたりで、こちらに話しかけてくる人物がいた。

 一つ上の先輩、ユベールさんだ。


「こんばんは。どうしたんです? 先輩」


 イオナがまず声をかけると、


「いやなに、さっきまでメルシオネ教官と話していたんだけどね。きみたちが素晴らしい成果をあげたというものだから」

「……ユベールさんって、案外社交的ですよね」

「案外というのはちょっと傷つくなあ、ダインくん」

「あー、すいません……」


 独特の喋り方だから、話す相手が気疲れしそうだなあとは思ってしまうのだが。

 この人の交流は結構広く、積極的なもののようだ。


「何でも、農村に被害をもたらす魔物を討伐したとか……初めての依頼としては大仕事だ」

「ハプニングと言うべきか、ボス級のファットラットがいましたしね」

「その窮地を乗り越えられたところが流石だよ。良いチームだ……」


 ユベールさんは微笑を浮かべながらそう評する。

 先輩から褒められるのもありがたいことなのだが、この人の場合素直に受け止められないというか、どうして褒めてくれるんだろうという疑問の方が大きいんだよな。

 そんなオレの微妙な心境を読まれたのか、


「フフ、こうして話をさせてもらっているのは、作曲のためと思ってくれればいいさ」


 ……ああ、一昨日そんな話を聞いたっけ。曲を作るためにインスピレーションを沸かせたいとか何とか。

 本当にオレたちがそれに寄与するのか、訝しいところではあるんだけど。


「それに、僕が一年生だった頃のことを少し思い出したのもある」

「ああ……やってることは例年同じみたいですもんね。もしかして、ユベール先輩も農村に?」


 ルカが訊ねると、ユベールさんは頭を振って、


「いや、僕たちは首都近郊に珍しく現れた魔物の討伐だった。比較的強力な個体だったことが似通っていてね。……農村に行った子もいたけど、あれは確かフォル――」


 そこまで言ったところで、何故かユベールさんは言葉を切った。


「……まあ、別チームのことだ。村長さんから話でも聞いたのかい?」

「ええ、まあ。去年の子たちは緊張していたけど、オレたちはそうでもないと……良いことやら悪いことやら」

「良いことだと思うよ、僕は」


 ユベールさんはニコリと笑う。

 ……さっき言いかけて止めたのは何だったのか。別チームのリーダー名とかか?

 気にはなったけれど、聞いても多分はぐらかされそうだ。辞めた子はしたくないとか、そういうヤツなのかもしれない。


「それじゃ、僕も夕食をいただくとしようかな。明日もまた大変だろうけれど、頑張るんだよ……」


 ウインクを一つすると、ユベールさんはそのまま料理を取りに向かった。

 ……やっぱり変な人だな、彼は。

 ユベールさんが帰っていったところで、食事も終えていたことだしオレたちはそろそろお開きにしようかという運びになった。

 上級生も来始めているし、席を長くとっているのも良くないだろう。


「じゃあ今日は帰って休むか」

「そだね。大浴場に行く人は……やっぱいなさそう」


 オレたち、大人数で風呂に入るのが苦手な人間揃いなのか。

 苦手な立場からすれば、そうだよなと思うだけではあるが。

 食堂を出てエレベーターに乗り、自室のある階層へ上がっていく。

 そう言えば、こうして全員で部屋に戻るのは意外にも初めてだった。


「新入生は全員七階なのかしら」

「じゃない? 入学年度別に固められた方が学園側としても把握しやすいだろうしさ」


 フェイの疑問に、エスカーがそう答える。学園側の都合ももちろんあるだろうが、もしも一人だけ上級生の階に放り込まれていたら、毎日廊下を通るのに緊張するとか有り得そうだし、そういった点からも同学年で固める配慮はされていそうだ。


「ここで女性陣とはお別れだな」

「だね。オヤスミー」


 イオナが欠伸をしながらぷらぷらと手を振る。……いや、寝るにはまだ早い時間じゃないか? 疲れたのは事実だけど。

 さて、イオナとフェイはあっちで、オレとルカ、エスカーは男子寮だ。

 この際だから部屋番号くらいは聞いておくことにしようか。

 ……なんて、思っていると。


「ん……?」


 ちょっと待て。

 どうして男子寮の方に向かおうとしているのが、オレとエスカーだけなんだ。


「ルカ……?」


 もう一人いるべき奴は。

 ルカは、オレの死角に入るようにしてあちら側へ行こうとしていた。


「お前、何でそっち……」

「うん? どうかした?」


 イオナもフェイも、それが当たり前という顔をしている。

 エスカーは笑い出しそうだし、ルカはどういうわけか顔を真っ赤にしている。

 ……いや、本当にどういうわけだ?


「何でもなにも」


 緩々と首を振りながら、エスカーは笑みを崩さないまま告げる。


「ルカは女子なんだから当然だよ?」


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