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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
巡礼の支度 想造育成機関_アトモス学園
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52.巨大鼠との戦い④

 ファットラットのボス個体――ボスラットとでも呼ぶことにしようか――は、自分からは動かずこちらの出方を窺っている。

 近づける雰囲気ではなかったので、まずはエスカーが遠隔攻撃をぶつける。


「――氷刃!」


 放たれた三つの刃、それをボスラットは軽々と前脚で払った。

 外皮にはかすり傷一つない……恐るべき強度だ。


『グルル……』


 怒りを表すような唸り声。その口元からはだらりと涎が垂れている。

 今にもオレたちを喰い千切ってやろうかと言わんばかりだ。


「……あっ!?」


 最初に声を上げたのはルカだった。

 ボスラットがいきなり跳躍し、近くまで迫ってきたからだ。

 警戒は強めていたので、オレは即座に大盾を構える。

 しかし――。


「な……!」


 ボスラットが仕掛けてきた攻撃は予想外のものだった。

 近くにあった細めの木に体当たりし、それをこちらへ倒してきたのだ。

 メキメキと音を立て倒れてくる木……オレはそれが誰にも当たらぬよう、盾で何とか受け止めた。


「……せいッ!」


 重量はあったが、倒木を別な方向に逸らすことには成功する。

 やってくれるな、とボスラットの方に向き直ったのだが、既にヤツの姿は無く。


「ダインくん、次が来るわ!」


 フェイの声で視線を動かすと、ボスラットは右手の方で別の木を倒そうとしていた。

 こいつ、木をぶつけて広範囲に攻撃してくる上、その倒木がオレたちの移動を阻害することも考えているのか……?


「くっ……!」


 二本目の木を盾で防ぎ、また別方向へと流す。

 その間に、ルカがボスラットへ接近して攻撃を仕掛けた。


「とりゃあっ!」


 勢い込んで放った拳は、確かにボスラットの腹部を直撃した――のだが。

 その巨体に決定的なダメージを与えることは出来ず、逆にルカの方が反動で地面に落ちていく。

 上手く受け身をとれたのでオレは胸を撫で下ろしたが、ルカは有効打を浴びせられなかったことを悔しがっていた。


「太ってるわけじゃなくて、恐ろしく筋肉質なんだね。物理ダメージは通り難そうだ」

『でしょうね。先ほどのシャイニングは通常個体によく効いていましたし、魔法の方がダメージを期待出来そうです』


 エスカーが分析するのに、マルが同意して補足する。

 ボスラットが強靭な肉体を誇っているのはオレも十分理解しているし、魔法を浴びせるべきという判断は間違いないと思う。


「ちょっと頑張ってみますか……時間を稼いでほしいかな」

「お願いね、イオナちゃん。――ミスティゲイン」


 フェイがイオナに補助を掛け、イオナは魔法発動の準備に入る。


<……始めに光あり。聖なるもの、生み出したる眩き連なり――>


 ――詠唱だ。


 難度の高い魔法なのだろう、彼女は初めてその発動に言の葉を乗せる。時間がかかるというのも納得だ。

 稼げというなら、要望に応えてなるべく時間を稼がなければ。


<――やがて輪と化し悪しきを捕らえん――>


「次が来るよ……!」


 注意を促すエスカー。見ると、ボスラットが既に三本目の木にぶつかっているところだった。

 轟音とともに倒れてくる木。防がなければと身構えたところで、


「こういうのは、どうだ……っ!」


 倒木の前に躍り出たのはルカ。彼は今まさに倒れようとする木に蹴りを食らわせ、その方向を逆転させた。

 まだ勢いが付いていなかったからこそ出来た技だ。こちらへ来るはずだった木は、ボスラットの方へと倒れていく。

 ただ、敵も動きが鈍重なわけではない。見た目にそぐわぬ敏捷さで、あっさりと倒木を回避する。

 雑に木を倒すだけでは場を支配出来ないと分からせただけでも十分、か。


<――集束せよ――>


「――氷刃」


 エスカーが能力を発動させるが、使い方に少し変化をつけていた。

 ボスラットが向かいそうな先の枝に、鋭利な氷の棘のようなものをゆっくりと伸ばしていたのだ。

 まるで獲物を絡め取る罠のように嫌らしい配置……こいつとの対人戦は遠慮願いたいなと思うくらいの攻め手だ。

 しかし、味方ならば心強い。オレもその罠に貢献することにしよう。


「――ダーク!」


 立ち込める闇が、ボスラットの視界を奪う。

 移動中に周りが見えなくなって着地点を見誤ったボスラットは、上手い具合にエスカーの仕掛けた棘に引っ掛かってくれた。

 生成に時間をかけたものだからか、今度の氷は奴の体に薄っすらながら傷をつけている。

 大きなダメージにならずとも、近づくことを警戒してくれれば時間稼ぎになるから、それでよかった。


「……よし」


 ボスラットが二つ目の棘に掛かろうかというところで、イオナが呟いた。

 魔法の準備は完了、ということらしいな。


 ――頼むぜ。


 オレはイオナを見つめる。

 彼女は不敵に笑っていた。


「――アウレオール!」


 ……その光魔法の名を、初めて耳にする。

 ランク一でも二でもなく、であればきっとそれは、ランク三に達する魔法。

 新人イマジネーターがそう易々と詠唱出来るとも思えない、初級を超えた魔法だ――。


『ギ……キイッ!?』


 ボスラットを覆っていた闇が消えた直後。

 まるで入れ替わるようにして、光が満ち溢れていく。

 それはボスラットの周囲ぐるりを取り巻く大きな光輪となって。

 凝縮されたその光の輪は、しばらく滞留した後……一気に収縮した。


『ギイィイイッ!!』


 物理攻撃ではほとんどダメージを与えられなかったその強固な体躯も、強力な魔法の前には脆いもので。

 光輪の収縮によってボスラットは上半身と下半身がバッサリと切断され……断末魔の叫びとともに、地上へと墜ちていった。

 鈍い音が二つ。そして、落ち葉を汚していく赤い血の流れ。

 あれだけ猛威を振るったボスラットは今、物言わぬ骸へと変わっていた――。


「……はあっ……はあ……」


 大量の魔力消費によって肩で息をしていたイオナは、一瞬戦いがどう決着したのかを理解出来ていないようだった。

 しかし、ボスラットが真っ二つになって倒れているのをしばらく見つめ、


「……勝っ……た……?」


 小さく、震える声でそう呟いたのだった。


「……勝った! やったあー!」

「おわっ」


 勝利に気持ちが昂ったのか、イオナは叫ぶが早いかオレに飛びついてきた。

 避けるわけにもいかず、オレは彼女の体を抱き止める格好になる。


「ひゅう」

「あらあら……」

「ちょっと、何してるのさっ!」

『ダインさん……』


 待て、何故かオレが悪者にされようとしている。

 慌ててイオナを引き剝がすと、彼女は照れたようにはにかんだ。


「えへへ……ちょっとテンション上がっちゃった。でも、本当に嬉しい……皆で頑張って、強敵を倒せたんだもん」

「……ああ、そうだな」


 正直、かなり苦しい戦いだったと思う。ボスを含むファットラットの群れを大した怪我もなく倒しきったというのは、大金星と言ってもいいんじゃないだろうか。

 新人イマジネーターとして期待される以上の成果を、オレたちは挙げられたと感じる。


『強引にでも一時撤退すべきか、という考えも過りましたが……杞憂でしたね。お見事です』

「マルのアドバイスも役に立ったさ。感謝してるよ」

『そ、そうですか……』


 相変わらず表情はむすっとしているが、少しだけマルも照れたように見えた。

 別にオレの言葉はお世辞じゃなく、彼女の一言がイオナの魔法による決着を導いたのだと素直に思っていた。

 フェイの補助魔法も今回大活躍だったし、ルカとエスカーもダメージソースになってくれた上、よく危機に気付いて注意を促してくれた。

 そしてイオナの強力な魔法……この戦いは真実、全員の力による勝利だ。


「これで無事、依頼達成だね?」

「ああ。胸を張って村長に、それにメルシオネ教官に報告出来る」

「ボクが選んだ依頼だし、失敗したら嫌だなって思ってたけど、ホント良かったあ……」


 オレたちなら、それくらいで発案者を責めたりはしなさそうだが、自責の念ってのはあるもんな。

 自分だって、たとえ慰められても落ち込みそうだ。ルカがそうならなくて良かった。


『テスタマイザーの画面上でも、討伐目標数達成になっていますね』

「あ、そうなのか」


 マルに言われ、オレはテスタマイザーの画面を確認してみる。

 すると、ファットラットの討伐数が『10/10』という表記になり、達成という文字が表示されていた。

 ボスラットが敗走してきた手下を殺していたので、それがカウントされているか不安だったのだが、幸いちゃんと数に入っていたようだな。

 システム上も文句無しに依頼達成だ。

 テスタマイザーを起動したついでに、収集品の回収も忘れず行っておく。

 ここで倒したファットラットの数は五。かなりの収穫が期待出来るだろう。


「……お、ファットラットの大牙……普通の牙とは区別されてるのか」

「ボス個体のだろうね。珍しかったりするかな?」

『他より優れた個体から採取出来る素材は、上質なものとして別扱いされるようです。価値もそれだけ違いますよ』

「おー、いいじゃん!」

「ふふ、お宝なのねえ」


 苦労しただけの価値はあったわけだ。はてさて、この大牙は他と比べてどれくらい高い値がつくものか。

 既にワクワクするけれど、結果は休日の売却時に、だな。


「……ふう、とにかくこれで一件落着だ。一度村に帰るとしようか」

「そだね。学園でも報告するとは言え、村長さんに何も言わず帰るのも悪いし」


 というわけで、勝利の興奮は冷めやらないままではあるけれど、オレたちは村へと戻ることにした。

 気持ちも足取りも軽く、他愛のない会話も弾んで。

 それはとても気分の良い、帰路なのであった。

 

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