51.巨大鼠との戦い③
こちらが五人に対して、魔物の数も五匹。これまでは散開して戦っていたが、ファットラットの高速回転攻撃はかなりのスピードだし、孤立した一人を多勢で集中的に狙われると危険だ。
初めのうちはむしろ固まって様子を見たい。オレが全ての攻撃を完璧に防ぎ切れるかと言えば、あまり自信はないのだけれど。
「……来るぞ!」
ボスの咆哮で、取り巻き四匹が一斉に動き出した。転がりながら半数ずつ左右に分かれ、その更に半数が木の幹にぶつかりながら変則的に移動してくる。
これだけ同時に向かってこられると対処が厳しい。ある程度は前衛に任せるほかなさそうだ。
「――パワーゲイン!」
フェイがルカとエスカーのそれぞれに補助魔法をかけていく。それを受けて二人は少しだけ左右に広がり、敵を迎え撃つ姿勢に入った。
「ふう――シェルゲイン!」
二人にだけではなく、フェイはオレにも補助をくれた。
連続で使うのはかなりマナを消費していそうだが、さっきのルカの感じからしてその分の効果は期待出来る。彼女には大感謝だ。
シェルゲイン、ということは防御能力が底上げされているはず。だったらそれに相応しい戦闘スタイルにしておくべきか。
オレはバランとの初戦で使った大盾を具現化させることにする。
「左から来るよ!」
イオナの声が飛び、オレは弾かれるようにそちらへ盾を向ける。
見ると、まさにファットラットの一匹が木の幹から跳ねて飛び掛かってくるところだった。
「ふん……ッ!」
盾をどっしりと構えて、そいつの攻撃を真正面から受ける。
さっきは受け流すしか出来なかった突進も、フェイの補助魔法と得物の形状変更によってあっさり受け止めることに成功した。
初級の補助魔法がこんなに効いてくれるとは……補助そのものが総じて凄いのか、或いはフェイのポテンシャルが凄いのか。両方ということもあり得るな。
「――サンダー!」
動きの止まったファットラットの頭上から、強烈な雷が降り落ちる。
盾にぶつかった衝撃でふらついていたゆえに避けることも出来ず、直撃を受けたファットラットは激しく悶え、そのまま感電死を遂げた。
――まず一匹目。
「えいやあっ!」
右手を見ると、ファットラットの一匹をルカが力強く蹴り上げている。
カウンターとばかりに、ファットラット側も引っ掻き攻撃を繰り出そうとするが、
『キィッ!』
その腕が反対側へ弾かれる。……氷の矢が突き刺さったのだ。
「ナイス、エスカー!」
「そのままトドメだ」
エスカーが言うよりも早く、ルカは動いている。
その身体能力を活かし、浮き上がったファットラットの頭部あたりまで跳び上がると、渾身の回し蹴りをお見舞いする。
ゴキリ、という鈍い音がこちらまで聞こえてくるほどだった。首の骨を圧し折られたファットラットは泡を吹いて倒れ、ピクリとも動かなくなる。
――これで二匹目。
「後ろだよ、ダイン!」
こちらを振り向いていたエスカーから注意が飛ぶ。
オレもそちらへ振り向くと、残る二匹のファットラットがいつの間にか後方へ回り込み、こちらへ突っ込んできていた。
狙われているのはイオナとフェイの魔法組だ。あまり動かないポジションであることを読まれているのか。
「間に合え……!」
全速力で駆けて行きたいが、落ち葉に足を取られる恐れがあった。
ならばとオレは、あの時のように霧を操って小さな足場を形成する。
着地する場所、一歩先に足場を作り出すことをイメージして、前へ。
最短距離で真っ直ぐに駆け抜け、イオナとフェイを追い越す。
「はあッ!」
大盾をズンと地面に突き立てて。
オレはファットラット二匹の巨体を受け止める。
二匹分の重みとなればかなりのものではあったけれど。
補助魔法込みの防御スタイルだったおかげで、この攻撃も問題なく防ぎ切ることが出来た。
「助かったわ、ダインくん……!」
「ありがと!」
二人の感謝を背に受けつつ、オレは尚も防御姿勢を崩さず待つ。
狙いやすいのがイオナたちであるというのは、こいつらも理解しているだろうから。警戒を解いてしまえば再び狙ってくる可能性は高かった。
ダメージを稼ぐのは現状、オレ以外のメンバーである方がいい。
「とうっ!」
的確なタイミングで、ルカとエスカーが追撃に来てくれる。
ルカは左の一匹に痛烈な踵落としを喰らわせ、エスカーは腕の先ごと凍らせて強度を増した氷刃で、右の一匹を斬り裂く。
どちらのファットラットも、手痛い一撃を浴びて地面に転がった。まだ息はあるが、もう一押しだ。
そこで、フェイとイオナが連携をみせる。
「――ミスティゲイン!」
魔法攻撃力を向上させる補助魔法がイオナに付与され、その間に練っていたイオナの魔法がすぐさま発動される。
「――シャイニング!」
発動とともに、敵付近にいたオレたち三人は後方へ退避。
強化された光魔法は、忽ちファットラット二匹の体を焦がし尽くした。
黒ずみ、固まったその身体に命の息吹は最早ない。
――三匹、四匹目。これで後は……。
「前座は終わって、残すは親玉だな」
オレたちは、静かに成行を見守っていた親玉ファットラットに目を向ける。
奴は、手下の醜態に呆れるような仕草を見せると、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
そして、
『……ギイィ……』
その巨体を震わせながら鳴き、オレたちを威嚇してきた。
「風格が違うねえ……」
「ね。ボク、ちょっと怖くなっちゃった」
とは言いつつ、エスカーもルカもやる気は満々だ。戦う以外の選択肢はないのだし、当たり前ではあるけれど。
「普通の個体は難なく倒せたが、あいつは一筋縄じゃいかねえと思った方がいいだろうな」
「上手く連携して、一気に叩きたいね……!」
「引き続き支援するわね。頑張りましょう、皆」
これがラストスパートだ。最後まで気を抜かず、しっかりやり遂げよう。
オレたちなら勝てる。そんな自信は不思議と湧いてくるのだった。




