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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
巡礼の支度 想造育成機関_アトモス学園
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47.村長の邸宅で

「ほっほっほ。今年も若いイマジネーターさんが来てくださったのう」

「はあ……どうもです」


 一枚板で作られた見事なダイニングテーブル。そこに用意された紅茶を啜りつつ、オレは頭を下げる。

 ここは農村グロリヤの村長宅。そしてオレたちが向かい合っているのは他でもない、村長のエディンさんだった。

 村に入るなり住民の男性に声を掛けられたオレたちは、あれよあれよという間にここまで連れてこられてしまった。

 そして応接室まで案内されると、趣のあるテーブルを挟んで向かい合い、対談する運びになったというわけだった。


「わ……美味しいですね、この紅茶。リンゴの香りがする」

「そうじゃろう、お嬢ちゃん。村で採れたリンゴを乾燥させ、それを茶葉に混ぜておる。こういうフレーバード・ティーも名産品になっておってなあ」


 エディン村長は自慢げに語る。それは自身が統括する村を、そこで営まれる農業を愛しているがゆえの、邪気の無いもので。


「この村の者は皆、愛情を持って農業、牧畜に励んでおる。全ての恵みを無駄にせず、享受出来るようにな。じゃからこそ、魔物の被害には頭を悩まされておる」

「……そうですよね」


 魔物はマナの変異による産物。奴らは常に飢えていて、それは破壊衝動へと向かう。

 魔物が欲するのはより多くのマナだ。強くなるため、満たされるために奴らはマナを取り込もうとする。

 作物からでも微々たる量は取り込めるのかもしれないが、そこには恵みへの感謝も何もない。命が廻るわけでもなく、ただ破壊と略奪があるだけ。


「それでも、儂が若かった頃よりは被害も減ったんじゃがな。『三霊塔トライ・タワー』が稼働して以降、周辺の魔物は力を弱めていったようじゃ」

「へえ……あの塔、そんなに効果てきめんだったんだ」


 ルカは感心している。オレもあの塔にどこまで効果があるのかはあまり知らなかったので、実感している人の話を聞けてようやくその有用性が分かった。

 ……村長の言うトライ・タワーとは、首都セント・ロウディシアを中心として少し離れた三方に建設された三つの塔――正確には塔の形をした装置のことだ。

 北、南西、南東にそれぞれ建てられた塔は、周囲のマナを抑制する障壁を張ることによって、魔物の持つ力と出現頻度を抑制することに成功した。

 代わりに人が扱えるマナの力も弱まってしまったのだが、実生活においてはさして不便もなく、メリットの方が大きかったので国民からの評価が高かった政策だ。

 ロウディシアで戦う時とワールドスクリプト内に遠征して戦う時では、戦闘者の力に差が出ると言われているが、それはこの塔が理由である。

 また、オリーブ丘陵以北は魔物が強く人が住めないとされているのも、トライ・タワーの効果範囲がオリーブ丘陵までであるためなのだった。

 歴史の授業で習ったことだが、確か星歴一七〇年くらいに建設が完了し、稼働が始まったはず。十年が経つ頃には魔物もそれなりに弱体化したそうだ。


「今ではイマジネーター向けの依頼を出すことも年に数回ほどになっての。弱い魔物なら村の腕っぷしで対処して、歯が立たなければコンストラクターに、それも難しそうなら……という感じじゃ。まあ、この村以外も大抵はそんな感じじゃろう」


 戦闘能力がその順なので、どんな場所でも流れがそうなるのは自然なことだろう。

 イマジネーターはやはり、最後の砦になるわけだ。


「村長さん、今年も若いイマジネーターさんがって仰ってましたけど、それは?」


 エスカーが訊ねるのに、エディン村長は微笑んで、


「去年も同時期に依頼を出したもんでのう、その時に来てくれたのも新人さんじゃった。初めての依頼で緊張が顔に出とったから、家に招いて紅茶を振る舞ったんじゃ。ちょうど今のようにの」

「なるほど。それが先輩方に好評だったから、今年も招いてくれたんですね」

「そういうことじゃ。君らはそれほど緊張しとらんようじゃがのう」


 他人から見ても分かるくらい緊張感が無いのか、オレたち。

 まあ、ガチガチになっているよりは良いんだろうけど。


「それで、村長さん。依頼はファットラット十匹の討伐ということでしたが」


 そろそろいいだろうと、オレは本題を切り出す。

 エディン村長は一つ頷き、


「うむ、今年はどうもファットラットが多く発生しておってな。去年より作物の被害が増加しておるんじゃ。早朝、畑を見に行った若者が、荒らされた畑と森の方へ帰っていくファットラットを目撃しておるから間違いあるまい」

「被害は一定の場所に固まって発生している感じですかね?」

「そうじゃの。魔物は同じ場所から来て付近を荒らして回り、また森へ帰っているんじゃと思われる。今は作物の被害のみじゃが、いずれ人にも襲い掛かってくると近隣住民も怯えておる……」


 農作物よりも人を襲って得られるマナの方が濃いのは違いない。襲える、と判断したら魔物は容赦なく牙を剥くだろう。


「こちらとしてもそんなに時間がないですし、早速被害のあった畑付近に行ってみるとしますよ」

「そうかい。なら、畑までの案内はさせてもらうとしよう」


 村長が立ち、近くにあった通信機でどこかへ連絡を取ると、ものの数分で二十代くらいの若い男性がやって来た。

 話によれば、この人が被害に遭った畑を所有する一人だという。


「こんなに早く来ていただけるとは……助かります。ご案内しますので、ついてきてくだされば」

「ええ、お願いします」


 村長宅を一旦辞去し、オレたちは案内されるまま畑へと向かった。

 村の西端にある畑は、パッと見では分からなかったものの、奥の方にある野菜が踏み潰されたりかじられたりしているようだ。


「魔物……ファットラットの群れは、ちょうど僕の管理してる畑から森へと帰っていくところでした。なのでもしかしたら、足跡が残っていて辿れるかもしれません」

「了解です。ちなみに貴方が見たファットラットの数は?」

「三匹くらいだったかと。ただ、それだけの数で頻繁に荒らしに来るとは思えないので」


 この畑だけでなく、周辺の畑七、八箇所くらいは被害に遭っているという。

 その中で、魔物の通っているルートが恐らく彼の畑がある地点のようだ。


「これで目星は付けられたね」


 ルカが言うのに、フェイが頷いて、


「実際にどれだけいるかは分からないし、慎重に進まないとねえ」

「ああ。空は晴れてても森の奥へ入ったら視界は悪くなるし、落ち葉なんかに足を取られることもある。地の利は魔物にあると考えて、注意深く行こう」

「オッケー。油断はしません!」


 案内をしてくれた男性にお礼を言って、オレたちはファットラットの目撃場所から森の中へと入っていく。

 正式な入口ではないので、始めから道なき道だ。

 歩き辛いけれど、この先に目標がいる可能性は高い。頑張って進んでいくとしよう。


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