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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
巡礼の支度 想造育成機関_アトモス学園
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46.農村グロリヤ

「いやあ、景色を眺めながらお菓子食べるのっていいよねー」


 アトモス学園を出発して、かれこれ四十分。中間地点のセント・ロウディシアから列車を乗り換え、オレたちは農村グロリヤへ向かう列車に揺られていた。

 せっかくなら何かつまむものが欲しいと言い出したのはルカだ。列車が出るまでの短い時間に、ルカは売店で小さな菓子を何種類か買って戻ってきたのだった。

 欲望に忠実というか何と言うか。


「なに、ダイン。一つあげよっか?」

「ん……くれるんなら欲しいけどさ」


 オレも惹かれる気持ちはあったが、仕事中に買い食いするのもな、と留まったのが正直なところ。

 分けて貰えるのならありがたくいただきたい。結局オレも欲望には抗えないのか……。


「私もほしいなあ」

「そうねえ、こういう時間にはお菓子が良いお供かもしれないわね」

「じゃあ俺もお言葉に甘えて」

「あっ、少しは遠慮してよ!?」


 オレに分け始めたら、そりゃあ皆も食いつくよな。何だかんだ言って全員子どもには違いないんだから。

 いやあ、それにしても懐かしい。必死に勉強していた頃は、こういうお菓子を片手でつまみながらノートを埋めていたものだ。手軽に食べられるし糖分補給も出来る、甘いものが気に入ってたな。……そうそう、ちょうどルカが買ったこのチョコレート菓子だった。食べる前から味が思い浮かぶ。


「――でも、本当に良い景色だね」

「やけにセンチなこと言うね?」


 イオナが遠くを見つめながら言うのに、エスカーが茶化すように返す。

 するとイオナは苦笑して、


「自分でもビックリ。……実を言えばアトモス学園でやっていくのって、もっとギスギスしたものかと思ってたから。こんな風に話しやすい人とチームになって、お菓子をつまみながら魔物退治に向かうなんて想像してなかったなあって」

「ハハ、それは俺も同感だね。バランみたいな子がもっといたっておかしくないとは考えてたよ。最終的には強い者だけがやっていける世界なんだし」

「こういうのも今のうちだけ、かもしれねえもんなあ……」


 チームでやっていくのも一年間だけ。二年目以降はその縛りも無くなり、各人がそれぞれの判断で活動していくことになる。

 ついていけない奴はどんどん遅れをとっていき、どこかで諦めを付けるしかなくなっていくのだ。

 ……それでも。


「私としては、出来た縁を無下にはしたくない……そう思っているわ」

「……だな。オレもだ」


 フェイの言葉に、オレも全面的に同意だった。

 仲良く菓子をつまみながら、列車の旅は二十分ほど続いた。首都周辺の近代的な街並みはもう影も形もなく、眼前には極めて牧歌的な風景が広がっている。

 列車が停まった終点のグロリヤ駅も、辺りに住宅のない平地の中にあった。

 駅の隣には、レンガ造の巨大な倉庫が併設されている。中等学校で学んだ内容によると、セント・ロウディシアに作物などを出荷するため貨物列車が使われており、この倉庫は出荷物を一時的に置いておく場所なのだとか。……首都に住まう人たちの食料の大半を供給してくれる重要な拠点。それこそが農村グロリヤなのだ。


「ボク、実際に来るのは初めてだなあ」

「オレもないな。首都暮らしだと機会がないし」

「私は何度か。ほら、いちご狩りとか農作物の収穫体験も出来たりするんだよ」

「へえ……そうなのね。面白そう」


 収穫体験か。都会に住んでる人間にとっては新鮮な経験だし、採った作物をその場で食べたり持って帰れたり出来ると確かに楽しそうだ。

 幼少期に来ていればハマっていたかもしれない。もしかすると、イオナに会えていたりもしたんだろうか。……それは流石にないかな。


「それにしても、村は駅を降りてすぐってワケじゃないんだね?」


 ルカが辺りを見渡しながら言う。


『グロリヤとセント・ロウディシアを結ぶ路線自体は、鉄道の創業から比較的すぐに開通されたようです。ただ、作物や家畜への悪影響が懸念されたために、駅を少し離れた場所に建設することにした……という経緯があるそうですよ』

「そっかあ……煙とか騒音とかの問題はどうしてもあるもんね」


 グロリヤ産の食料品は、量だけでなく品質の面でも随一を誇っている。

 その功績の裏にはやはり、様々な努力や気配りがあるというわけだ。


「依頼としてはあくまでファットラット十匹の討伐だから、村に行くのは必須じゃないけど……どうするの、リーダー?」


 エスカーが訊ねてくるのに、オレは少し考えてから、


「一旦は村を覗いてみよう。時間はあんまりねえが、被害の詳細を聞けた方がファットラット探しの役に立つかもしれねえ」

「ま、俺たちはファットラットのこと知らないしね」


 討伐数が二、三匹なら適当に森の中を探索してもいいが、十匹ともなればどこを探すかアタリをつけておきたい気持ちがある。

 初めての依頼遂行だ、行き当たりばったりよりは少し慎重めにやっていこう。

 立て看板には、グロリヤまで道なりに一キロという表記がある。薄っすら住宅のシルエットは見えているし、そこまで遠くは無さそうだ。

 道路は都会にあるようなコンクリートで舗装されたものではなく、土が踏み固められて出来たもの。左右には田畑や牧場の敷地があって、麦の穂が風に揺れていたり、牛や豚が日陰に寝そべっていたりと普段見ない風景で飽きない。

 村までの道中もこんな風になっているのかと感心しながら歩いていると、一キロという距離もあっという間だった。


「……ふう、到着だな」


 駅から歩くこと約十分。オレたちは村の入口にあたる門に辿り着いた。

 首都とは違い、魔物を強固に阻む外壁などは無い。ただ門を境にした向こう側から、住宅が並び建っているというくらいだ。

 せめて村を囲うくらいの壁は造らないのかと思ったりもするが、外にある農耕地の様子が分かるよう高い人工物は極力建てていないのだとか。

 それに、古くからの景観を維持していきたいという考えも住民にはあるらしい。……確かに、都会には無い美しさがここにあるのは事実だ。

 農村グロリヤ――自然を慈しみ、その恵みを世界へ届ける豊饒の村……。


「さて、それじゃあ作物被害に遭ってる農家を――」

「おやまあ、あんたたちもしかして……イマジネーターさんかい?」


 オレが音頭をとろうとしたところで、遠くからそんな声が飛んでくる。

 目をぱちくりさせて声のした方を見ると、そこにはタオルを首にかけ、鋤を手にした初老の男性が立っていた。


「グロリヤへよういらっしゃったな。さあさ、まずは村長さんとこへ案内しよう」


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