45.受注:一ツ星依頼
オレたちが引き受けられる依頼の難易度は一ツ星のみ。
それが掲載されているのは、依頼掲示室の端にある掲示板一つだけのようだった。
簡単な依頼ゆえ、そこまで数も多くないのだ。マルが簡単に説明してくれたが、一ツ星程度だとコンストラクターで余裕、一般人でもある程度の戦闘能力があれば達成することは可能な難易度なのだという。
「どれどれ……」
他チームも同じ場所を見ているので若干気を遣いながら、オレは依頼に目を通していく。
さっきメルシオネ教官が例に挙げた、ブルースライム三匹の他、キラーウルフ五匹やポイズンモス五匹といった討伐依頼。
或いはスライムの心核を三個とか、ハンマークラブの大爪を二個といった納品依頼。
先日戦ったキラーウルフに関する依頼もあったが、これは討伐だ。牙を三つ納品という依頼であればこの場でクリアになるものの、訓練を兼ねたこの依頼受注でそれはご法度だろう。何もしてないじゃないか、と怒られるに決まっている。
「ね、ダイン。これなんかどう?」
ルカが掲示板の上部を指差す。その方向にあったのはこんな依頼だ。
『農村付近の森にファットラットという魔物が出没し、農作物を食い荒らしてしまうので困っています。数は多いですが、十匹ほど倒していただければ被害も格段に減るかと思いますので、どうかよろしくお願いします』
ファットラット十匹の討伐依頼。農村の村長から出ているもののようだ。
報酬は……四千ペンドか。報酬欄の隣は加算される評点も記載されていて、これは三点になっている。
さっきのブルースライム三匹を物差しにしてみると、十匹討伐という数に対して金額はやや少なめだが、評点はこちらが多い。
まず、一ツ星依頼は貰える評点が一点か二点ばかりだ。三点あるのは良い方なのだろう。
「今日に関しては請けられるの、一つだけだしな」
慣れてくれば、こういう低ランクの依頼は同じ地域のものを複数請けて次々こなしていく、というやり方が主流なんじゃないかと思う。
でなければ、バランの言っていたように日銭を稼ぐレベルには至らない。複数人でやるから余計に、だ。
「他も見てはいるけれど、ルカちゃんの見つけたものより良い条件は今のところなさそうねえ」
「こっちもそんなにかな。俺はルカので異存ないよ」
フェイとエスカーが順にそう報告する。オレ自身もざっと全部確認はしてみたが、効率からしてルカの見つけた依頼が一番良さそうだ。
「ふう……ルカの手柄だな。そんじゃ、こいつを請けるとしようか」
「やったね!」
自分の案が採用されたルカは、笑顔でガッツポーズをする。
まだ受注段階なのにテンションが高いな。やる気があって何よりだけども。
オレたちは、依頼の番号を覚えて受付まで向かう。
フィンクスさんは既に他チームの依頼を受け付けていて、忙しそうにしている。二チームくらいは待たないといけなさそうだ。
良案件だったので先を越されないかと心配したものの、
「はいはい、七十九番のファットラットね……うん、受付完了や。頑張ってな」
と、フィンクスさんは普通に受付処理を行ってくれた。被ってなくてホッとする。
……などと思っていると、
「七十九番を請けたいんだが」
あ――この声は。
「あー、スマンなあ。七十九番はちょうど請けたチームがおるから締切やわ。他のにしてくれへんかな」
「なっ……!」
そこであいつと――バランと目が合う。
こういう時でもかち合うのかよ。
「ちっ、こんな時まで立ち塞がって来やがって……」
好きで立ち塞がってるわけじゃないんだが。
思わず溜め息を吐いてしまう。
「……まあいい。ルールはルールだ、選び直す。レメディオ、他にいいものを洗え」
『は、はいアニキ!』
今日もレメディオは忙しそうだ。オペレーターとして大成する前に挫けなければいいけれど。
「……はあ、引き下がってくれて良かった。まあ、あいつも選ぶくらいだから良い案件なのは間違いなさそうだ」
「その辺は信頼してるよね、バランのこと」
「育ちが良いしオレより学はあるだろ。性格はともあれ」
「辛辣だあ」
とか言いつつ、イオナも笑ってるんだから同意見だろ。
まあ、オリエンテーションで襲われてるし好ましい感情をあんり持たれてなくとも仕方ないが。
「それはさておき。依頼はちゃんと受注出来たし、お次は現地へ出発と行こう」
「そうねえ。目的地はグロリヤかしら?」
「ああ、農村グロリヤ。列車も通ってる場所だから移動にもそう時間はかからないんじゃないかな」
ロウディシアの鉄道網は比較的整備されていて、大陸南側……人の住める環境の大部分は列車で移動出来る。
ただし、セント・ロウディシアを中心にしてほぼ放射状に伸びるような形であるため、学園から農村に行くとすると一度はセント・ロウディシアを経由しなければならないはずだ。
鉄道も商売だし、利用客の少ないところにレールを敷かないのは道理である。多少の不便さは我慢して、列車を乗り換えていくしかない。
「学園を出て列車に乗って、目指せ農村グロリヤだね」
「こういうお友だち同士で列車の旅っていうのもいいものよねえ」
「フェイ、厳密にはチームだと思うんだけど……」
「まあエスカー、いいじゃない。もしかしてお友だちはイヤなの?」
「そんなことは言ってないだろう、ルカ」
相も変わらず賑やかなメンバーを宥めつつ、オレたちは学園から出て駅に向かう。
駅はほぼ学園直結というところにあるので、ここで疲れるなんてことはない。
『既にご存知かもしれませんが、公共機関の支払いもテスタマイザーのポータルバンク機能が対応してますので、切符は買わなくて大丈夫ですよ』
「あ、そうなのか」
これもイマジネーターの特権ということか、運賃の支払いを始めとして、カード決済が対応しているお店ではテスタマイザー決済も可能なのだとか。しかもイマジネーターには割引対応している店や公共機関も多く、列車の運賃についてはなんと半額になっているそうだ。
マルに言われた通り、テスタマイザーを改札口の読み取り部にタッチしてみると、決済が完了してそのまま改札を通ることが出来た。
業務上だけでなくプライベートな場面でもこの機能を使っていいのは嬉しい限り。生活が便利になること間違い無しだ。
「ふふ……それじゃあ、グロリヤへいざ出発だね」
「おう。しばらくはのんびりと、列車に揺られるとしよう」
学園に来て三日で、また列車に乗るとまでは思っていなかったが、イマジネーターの活動は世界規模なのだし、長距離移動は思えば当たり前のことでもある。
とにもかくにも、乗り換え含め一時間近くは列車の旅になるだろう。気が緩まないよう注意しておかなくちゃな。




