44.ライセンス制度
「一ツ星依頼……。教官、今のブルースライム討伐の報酬は最後に書かれてる三千ペンドだな? こんなもんじゃ日銭を稼ぐレベルにもならんぞ。学園側が設定してる評点も一点というのは低すぎる。もっと高いのを受注しても構わないんだろう?」
「誰かがそこに食いついてくれると思っていました。今からきちんと説明しますよ、バランくん」
メルシオネ教官の思惑に嵌ってしまったことに、バランはチッと舌打ちをする。
失礼な態度なのだが、教官は特に注意することもなく説明を始めた。……まあ、気にしていても仕方ないことかもな。
「バランくんのように、もっと上位の依頼をこなしたいという人は結構います。ただし学園側としてもリスクある活動は見過ごせません。貴重なイマジネーターという人材を失う可能性もありますし、そうでなくとも依頼の失敗で信用を失うことだってあり得るのですから。……なので、実績に見合った依頼を請けてもらうために、イマジネーターにはライセンス制度というものがあるのです」
ライセンス制度……意外にも初めて聞く話だった。
理由から説明されると納得なのだが、これまでは全て自己責任だとばかり考えていた。
「これもテスタマイザーから確認出来るようにしていますが、依頼受注の画面にライセンスという項目がありますね? そこをタッチしてもらうと……」
言われるがまま、オレはライセンスと書かれた部分に触れてみる。
すると画面が切り替わり、上部に〇のマーク、下部に五級ライセンスという文字が表示された。
「入学したばかりの皆さんは五級ライセンスからスタートします。ライセンスは五級から一級に分かれていて、それにより請け負える依頼および遠征出来るワールドスクリプトの上限が決まっているのです」
教官の話によると、各ライセンスごとの上限は以下の通り。
五級ライセンス……一ツ星依頼のみ受注可。注意レベルまでのWSに接続可。
四級ライセンス……三ツ星依頼まで受注可。警戒レベルまでのWSに接続可。
三級ライセンス……五ツ星依頼まで受注可。危険レベルまでのWSに接続可。
二級ライセンス……七ツ星依頼まで受注可。厄災レベルまでのWSに接続可。
一級ライセンス……九ツ星依頼まで受注可。冥府レベルまでのWSに接続可。
「……つまり、新入生の皆さんは現状、一ツ星依頼を請け負うことと、注意レベルのワールドスクリプト内へ向かうことのみが許可されているわけですね」
「一ツ星のみ……? それは下に見過ぎじゃないか?」
説明を受けてなお食い下がるバランに、
「安全措置だと思ってください。もちろん、自分はもっと上の依頼がこなせると自信がある人もいるでしょう。その場合、週に一度の昇級試験に挑戦し、合格すれば上のライセンスへ昇格することが出来るのです」
昇級試験は雷曜日の午後と決まっており、それまでに試験を受けたい生徒はテスタマイザーでその旨を通知する事前予約制だという。
雷曜日は平日の最終日……黒・火・水・風・雷・土・光という七耀の五つ目にあたる曜日だな。
まあ、学園側にとっても毎週その時に生徒を待ち構えているより、予約を取っていた方が効率が良いのは当然だ。
しかし、現状では最低ランクの依頼しか受けられないのか。もう一つ上のランクくらい受けられてもとは思うのだが、やはり難易度がかなり変わってしまうのだろうか。
イマジネーターが貴重な人材だという主張も理解は出来るし、上に行きたきゃ大人しく試験を受けるべし、だな。
「七面倒臭いやり方だな……今はこの程度のものしか請けられない、か。ふん」
きちんとした決まりになっている以上、バランもこれ以上突っかかることは無かった。
……しかし、新入生の間はチーム制でやっていくはずだ。その辺との兼ね合いはどうなのか。
オレがメルシオネ教官に訊ねてみると、
「チーム制といっても、依頼や鍛錬の際必ず全員揃わないといけないわけではありません。単独行動は許可していませんが、三人以上で現地に向かうなら大丈夫です。そしてこの場合、現地に向かうイマジネーター全員がその難易度に応じたライセンスを所持していなければなりません」
「なるほど。一人はまだ四級を取れてないから、残り四人で依頼を請けて行きます、というのはアリと」
「ええ、そういうことです」
この質問に、ルカが寂しそうな眼差しでこちらを見つめてきた。いや、別にルカが試験に受からなさそうとかは思ってないんだが。
強さが求められるライセンスの試験なら、筆記なんかは無さそうだし。
……一応試験の中身を聞いておくと、どうも能力測定と学内評点の基準値達成にプラスして実戦などがあるようだった。やっぱりそんな感じだよな。
「ただ、現地に向かうのは三人以上ですが、他にオペレーターは必須とします。緊急事態が発生した際、それが誰にも伝わらないという事態は絶対に避けねばなりませんからね」
オペレーター無しで遠征して、全員が意識を失うような負傷をしてしまったら。
身の危険を誰も認識してくれないまま、最悪永久に帰れなくなってしまう。……考えただけでも恐ろしいことだ。
マルには大きな負担になってしまうだろうが、やはりオペレーターは欠かせない存在だな。
「最後に、依頼の報告方法についてですが、こちらについては場合によって依頼掲示室へ足を運ぶことが必須になってきます。単純に魔物の討伐だけなら、テスタマイザーが討伐を記録するのでそれで事足りるのですが、指定素材の納品となると事情が違ってきまして」
「アイテムバンクはあくまでその人のテスタマイザー内にアイテムが入ってる状態だから、ですね?」
「そうです、イオナさん。素材の転送機能……などという画期的な技術までは流石にまだ実現できていないので、納品依頼の場合は窓口に指定された素材などを持ってきていただきたい。平日の午後五時までは、こちらの窓口が開いています」
物品の転送なんて技術が生まれたら、さぞかし世界は便利になることだろう。荷物の配送に割くコストがほとんどゼロになってしまう。
ワンタッチで納品して依頼完了……良いなとは思うが、それはまだ夢物語だ。
テスタマイザーに現在備わっている機能だけで、十二分に有用なのだし。
「……以上でざっと流れについては説明出来たかと思います。疑問点のある人はいますか?」
メルシオナ教官はそう問いかけ、オレたちを見回す。
疑問は今のところ無いのだが、それは実際に試していないからだ。まずはやってみないと分からない、というのが生徒たちの本音だろう。
それを教官も分かっているようで、
「もちろん、やっている内に疑問が浮かんでくることもあるでしょう。なので分からないことがあればいつでも相談してくれて大丈夫です。私や他の教官、或いはこちらのフィンクスにでも」
「あんま一度には来んといてほしいけどねェ」
指名されたフィンクスさんは、そう言いながらまた頭を掻いている。
見た目が気さくそうだから、本人は面倒でも多くの下級生から頼られてしまいそうだなあ。
「さあ、それでは皆さん。いよいよ実践の時間です。今から各チームごとに一ツ星依頼を一つ受注し、今日中にそれをこなして報告まで行ってください。ただし、ロウディシア内の依頼に限ります。どれも命に関わるような依頼は無い難易度ですが、それでも雲行きが怪しいと判断したら即、学園に連絡を入れること。一ツ星依頼を失敗……というのはちょっとよろしくないですからね」
失敗は許されない、ということか。スライムレベルの魔物を倒せなかったという話が世間に広まったら、学園として恥ずかしいものな。
請け負ったのが新入生だとしたって、任せる判断をしたのは学園だ。生徒と同様、学園にも当然に責任が生じるから、バックアップで最終的には必ず依頼を達成しなければならない。
これは仕事なのだから。
「報告の期限は本日午後五時、今回に関しては訓練を兼ねたものですから、テスタマイザーでは報告せず一度この依頼掲示室まで戻ってきてください。健闘を祈ります」
メルシオネ教官が話を締め括り、オレたちに選択の時間が訪れた。
一ツ星依頼を一つ受注し、五時までにやり遂げる……イマジネーターとして初めての、仕事だ。
「……っし、やるか」
「うん。よろしくね、リーダー」
イオナがニコリと笑みをくれ、他の奴らも暖かな――それなりに暖かな視線を送ってくれる。
せっかくのデビュー戦、華々しいスタートを切りたいものだよな。せいぜい、頑張るとしようじゃないか。




