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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
巡礼の支度 想造育成機関_アトモス学園
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43.想造者としての本業

 A棟の依頼掲示室。コーネリア校長の学園案内時は中にまでは入らなかったが、いざ入室してみるとその雰囲気に圧倒された。

 講義室二つ分の広さの室内には、脚付掲示板がずらりと並んでおり、板面には所狭しと依頼の用紙が貼り出されている。

 それ以外にも懸賞金のついた危険な魔物の情報や、レアな素材の買取情報といったものも壁面にピン留めされていた。


「壮観だな……」


 イマジネーターはこんなにも頼られているのか、と実感する光景だ。それだけ人々が魔物の脅威と隣り合わせ、ということでもある。……まあ、中には雑用レベルの依頼も紛れているだろうが。


「学園に入学出来る人数も毎年五十人くらいで、半分以上の人が辞めていく。そう思うと、需要に対してはまだまだイマジネーターの数が少ないね」

「そうなのねえ……もっと増やせないのかしら?」

「うん。議会とかでも話は出てるけど、教える立場の人間も少ないことと、設備面でのコストからも現状難しいとか。あと、実はコンストラクターギルドの意向もあるみたい?」


 ギルドの意向、というのはどういうことだろう。イオナに訊ねると、


「イマジネーターの数が急増したり、或いは活動期間を伸ばせるような技術が出来上がっちゃったら、コンストラクターの立場が無くなっちゃうじゃない? それを懸念してるんだよ」

「あー……そういうことか」


 コンストラクターは、イマジネーター誕生よりも前から存在する魔物退治の先駆者だ。しかし現代では、イマジネーターが適齢を過ぎてから収まる受け皿という印象が強い。

 如何にイマジネーターが優れているからと言っても、これ以上コンストラクター側の立場が劣ってしまうのは御免被ると考えているのだ。あちら側からすれば、その主張は自然なことだな。


「皆さんお集まりいただいてますね。ありがとうございます」


 定刻になってメルシオネ教官がやって来る。彼はオレたちの方を見て頷いてから、室内の前方……受付カウンターのある方を向いて首を傾げた。


「おや……彼の方がいない」


 コーネリア校長の話では、受付担当がいるはずだった。その人物がまだ来ていないのか。

 教官が一つ溜め息を吐いたところで、


「いやー、すんません。ちょっとお昼長うとり過ぎました」


 ガラガラと扉が開いて、一人の青年が慌ただしく入ってくる。

 ……この人が受付なのか。腕にテスタマイザーをしているし、教官か生徒という風に見えるのだが……。


「フィンクス、五年目でほぼ自由に過ごせるとは言え、ここを任せてるんですからだらしないのは良くないですよ」

「面目ない。おまけに今日は新人指導の日ですもんねェ」


 フィンクスと呼ばれた青年は、頭を掻きながら笑う。


「どもども、新入生の皆さん。ボクは九十六期生のフィンクス=サザールいうモンです。アルバイトみたいな感じでここの受付させてもらってますんで、まあよろしゅう頼んますわ」


 エステルちゃんと同じような訛りのフィンクスさんは、五年目ということだからシエラさんより上……学園で一番上の生徒なわけだ。

 髪色は赤が強めのオレンジで、端に行くほど赤みがかっている感じ。天然パーマらしく、あちこちくるりと跳ねている。

 目はキツネのように吊り目で、ヘラヘラと笑うその表情は軽薄そうではあるけれど、どこか憎めないような愛嬌があった。


「以前は事務員を一人充てていたのですが、イマジネーターの経験が無い人だと判断が難しい場面もありまして。学園内で検討した結果、こういう形に落ち着いたのです」

「同期は他にも何人か残ってるんやけどね、将来見据えて忙しくしてるもんで、暇なボクが手ェ挙げたいうワケ」

「貴方がここにいるのも、将来を見据えてのことなんでしょう」

「それはそうなんやけどねェ」


 五年目ともなれば、教官とも親しく話せるものらしい。年齢も近いんだろうしな。

 ……ひょっとすると、一時期は二人ともが生徒だった期間すらあったかもしれない。


「紹介はこんなところにしておいて、早速本題に移りましょうか。……既にお察しとは思いますが、本日は皆さんにイマジネーター活動の基本となる仕事……請け負った依頼をこなしてもらうという流れを実践して貰いたいのです」


 ここまで来たらもうそれ以外を疑っちゃいないが、やはり依頼の請負だったか。

 ようやく飛び込む、イマジネーターの『仕事』の部分。その期待に、オレは胸の高鳴りを抑えられなかった。


「まずは皆さんに、依頼の請負方法をお伝えします。一つはシンプルに、この依頼掲示室へ来て現在掲載されている依頼を確認し、受付に受注を申し出る方法。例えばですが……」


 メルシオネ教官は室内の一番端にある掲示板の依頼を吟味してから、


「一ツ星依頼に掲載されているこちら、ブルースライム三匹の討伐依頼。この紙に依頼番号が振られているので、フィンクスのところに行って番号――七十一番を受注したい旨を伝え、彼が了承して手続きしてくれれば請負完了となります」

「簡単やろ? こっちは請け負ったイマジネーターの入力作業とか、オペレーターへの情報提供とかあるから若干手間やけどね」

「そういう仕事ですから文句は言わないこと」

「分かってますって」


 礼儀正しく紳士的なメルシオネ教官も、フィンクスさんとのやり取りではボケに対するツッコミ役みたいになってしまうようだ。

 フィンクスさん、愉快な人だな。


「そしてもう一つはこれ……テスタマイザーからの遠隔受注です。普段から使用中に目にしていたかもしれませんが、メニューの中に依頼受注という項目がありましてね。こちらからでも依頼掲示室とほぼ変わりなく依頼の確認、受注から報告までが出来るようになっています」


 学園案内の時に、コーネリア校長からも聞いたことだな。便利な世の中になったとあの人も話していた。


「ほぼ変わりなくっていうのは?」


 エスカーがメルシオネ教官に訊ね、


「中には広く知られたくないような依頼もあるようです。レアなモンスターを見つけたけれど場所は広めたくないとか、多くの人が入ると生態系がおかしくなってしまう可能性があるとか、そういったケースは見てきましたね」

「なるほどねえ……」

「滅多にない案件ではありますがね。どちらかと言えばアナログのメリットは、フィンクスに大まかな難度を聞けたり、アドバイスを貰えるところでしょうか」

「あんま期待せんといてほしいけどねェ」


 フィンクスさんはまた頭を掻く。自信無さげには言うものの、彼はイマジネーター五年目のベテランだしなあ。

 アドバイスが役に立たないなんてことは無いだろう。コーネリア校長の話を聞いたときにも思ったが、最初はここで話を聞き安心して依頼を請けたいし、慣れてきた場合には危険そうな依頼の判断を仰ぐ、なんて利用方法をとりたいものだ。


「昔はテスタマイザーの操作に慣れない、なんて人もいましたが、最近の生徒は皆機械操作に強いですし、そういうことは無くなりましたね。もしかしたら、依頼掲示室の役割もいずれなくなるかもしれません」

「そうなったらボクもお役御免やけど、あと一年じゃならんやろなァ」

「ええ、しっかり仕事に励んでくださいよ」

「こら手厳しい」


 テスタマイザーのことが分からない、という話は確かに聞かない。皆直感的にちゃんと使いこなせているのだ。

 機械操作に強い、か。科学技術の発展した現代に生まれたことに感謝しよう。

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