42.二人のルーツ
二つの講義を終え、時刻も正午を過ぎたので、オレたちは食堂で昼食をとっていた。
歴史学と魔法学。初めはどんなものかと不安だったけれど、感触は良好だったな。あれならめげずに頑張れそうだと思う。
「魔法はいいよ、ボクも何とか使えはしたし。でもなあ、歴史学がなあー……」
頭を抱えているのはルカだ。こいつ、本当に座学に対して自信がないんだな。
評価はチーム制なわけだし、出来るヤツが勉強を見てあげないといけないこともありそうだ。
「座学は避けて通れないし、頑張るっきゃない。二科目だけなら何とかなるさ。……それより、昼からの訓練だけど」
「ああ、テスタマイザーに来てたね」
イオナが言いながら、テスタマイザーの画面を表示モードにして出してくれる。
メルシオネ教官からのお知らせはこのようなものだった。
『新入生の皆さん、お疲れ様です。本日午後からの訓練は校外で行うことになります。ただし集合場所については、A棟の依頼掲示室としますのでご注意を。午後一時までに集合をお願いします』
「今日も学園を離れて行う訓練、それに集合場所が依頼掲示室となると……」
「依頼の請負、だよね!」
ルカが元気よく答えた。……そう、今日の訓練はほぼ確実に、学園に舞い込んだ依頼をこなしてみるというものだろう。
とうとう仕事としてのイマジネーター活動に突入出来るわけだ。
「あら、嬉しそうねえ、ルカちゃん」
「そりゃね。誰かの役に立つためにイマジネーターになったわけだから。ボクもダインも、その根っこは同じなんだよ」
「そうなの?」
「ああ……オレとルカがイマジネーターを志すきっかけになったことがあってな。まだほんの五歳くらいの頃、家族旅行で訪れたリゾート地でオレたちは魔物に襲われたんだよ」
当時の話を、オレはなるべく簡潔に話した。時折ルカが自分視点の補足を入れたりしつつ。
「へえー……そんな昔話がね?」
エスカーオレたちを交互に見やりながら言う。
「リゾート地って言うとマルタワかな? 南東の方にある島だよね。私も行ったことはある」
「そうそう。あの時は混乱してて、ルカと別れの挨拶も出来ないままだったんだけど、こうして学園で再会することになろうとは。驚いたもんだよ」
「ねー。運命ってヤツかな?」
「それは言い過ぎかもしれねえけど……イマジネーターになったのは運命なのかもな」
その答えが何故か少しばかり不服そうだが、どうしてなのやら。
「しかし、お前もよくあんなところで一人でいたよな。後で親に怒られなかったか?」
「あ――うん、大丈夫だったよ。というかよく覚えてないんだけどさ」
「ふうん? 子どもの頃だったとはいえ、オレは結構印象に残ってるけどなあ」
独りぼっちで浜辺にいた幼少期のルカ。
それを子どもゆえのコミュニケーション力というか、寂しそうだからと遊びに誘ったオレは思い返すと大胆だなと思う。
泳いだこともなければ水着もないと零すルカに、大丈夫だと泳ぎを教え。
岩場で見つけた綺麗な石を、物欲しそうに見ていたこいつに……。
「そ、それよりさ。あの女の人って有名なイマジネーターだったのかな? 結局今でも誰か分かってないんだよね」
「ん……そうなんだよな。あんだけ強かったらさぞかし有名だろって、イマジネーターを目指し始めたときに調べてみたんだが、まるで分からなかった。確か、完全武装とかいう能力を使ってたことは覚えてるんだが……」
「うーん、私も分かんないや」
イオナが首を振り、エスカーとフェイも分からないと示す。
「二人の目にはヒーローのように見えたけれど、実際はあまり名の知られていない人だったのかもしれないわね。ダインくんの歳からして十年ほど前のことだし、今はもう活動もしていないんじゃないかしら」
「そうだな。コンストラクターの名鑑みたいなのまで見たこともあるが、それらしい顔はなかった」
イマジネーター時代の情報は見つからず、コンストラクターとして活動した形跡も無し。
今のところ、あの女性については何も分からないし追うことも出来ないのだ。
「まあ、イマジネーターとしてやってく中でその人のことを知る日も来るかもしれねえ。少しでも情報が手に入れば嬉しいし、もしも直接その人に会えるようなことがあれば……感謝は告げたいところだよな」
「そうだね。ボクもそう思うよ」
オレとルカは互いにうんうんと頷き合った。
「幼い日の思いを胸に、知らず同じ道を歩んで交わった二人か。良い話だねえ。……その辺り、イオナはどう思う?」
「はい?」
ニヤニヤしながら問うエスカーに、こちらは引きつり笑いで返すイオナ。……なんでそんな感じなんだ。ルカもちょっと面白そうにしているし。
ルカに関する話のとき、たまに置いてけぼりにされてるような気になるんだよな。オレの与り知らない事情でもあるんだろうか。
「……あ、もうそろそろ一時になっちゃうね。片付け始めた方がいいかも」
「っと、そうだな」
理由を突っ込んで聞こうかとも思ったが、生憎時間が無くなってしまった。
またそのうちにしておくか……ずるずる引き延ばさないようにはしたいけれど。
オレたちは、食事のプレートを返却台に届けて食堂を出る。
時刻は十二時四十五分。目指すはA棟の依頼掲示室だ。




