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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
巡礼の支度 想造育成機関_アトモス学園
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40.歴史を紐解き

 翌日、午前十時。

 オレたち百期生は昨夜の連絡に従い、A棟の一号講義室に集まっていた……ちなみに棟の補修は来週になると張り紙がしてあった。

 講義室にはレメディオの姿もあったし、オペレーターに転向した生徒も座学は受ける決まりになっているようだ。

 ただ、元々オペレーターとして採用されたと言っていたマルは来ていない。本当に、生徒じゃなく事務員という立場なのだな。

 座席の指定まではなかったが、オレたちは自然とチームごとに固まって座っていた。

 この方が気楽なのはそうだけれど、私語が多いと減点されてしまいそうなので注意しなければ。

 時間になってやって来たのは、メルシオネ教官ではなく別の人だった。……女性の教官だ。


「おはようございます……皆さん、初めまして。私が歴史の講義を担当する、ヴァージニア=フランクリンと申します。どうかよろしくお願いしますね」


 ヴァージニア教官は非常に物腰の柔らかい、優しく語り掛けるような声の女性だった。

 年齢は恐らく四十歳前後、菫色の髪は肩辺りまでの長さで先だけがふわりとカールしている。

 黒縁の眼鏡を掛け、書籍を小脇に抱えて教壇に立つ。その姿は教官というよりかは、教会のシスターのようにも感じられた。

 そして、オレの感覚は誤りではなかったようで、


「私は五年前までセラフィス教会で司教を務めていまして、前任の方が退職されることになり、その後を引き継ぐ形でこちらの教官になりました。この星の歴史は教会の者が詳しいだろうということで、学園は毎回セラフィス教会から人を呼んでいるようですね」


 ヴァージニア教官も元セラフィス教会の人で、前任者も同様だったわけだ。そういう人ってやっぱり雰囲気に出るものなんだろうか。


「もちろん、私のように知識を必要とされて呼ばれるだけでなく、イマジネーターとしての力を得るため学園へ入学するシスターも昔からおりますよ。エレンさんもそんな一人でしたね」

「あ、はい……まだまだ未熟者ですけど……」


 急に名前を呼ばれたエレンちゃんは、しどろもどろになりながらそう答える。

 やっぱり彼女も教会のシスターだったわけだ。この歳だと序列は恐らく助祭くらいかな。


「少し話が脱線してしまいましたが、そういうわけで元セラフィス教会所属の私が、これまでに得てきた知識を一つでも多く皆さんにお教えしていけたらと思っています。ああ、先に言っておきますけれど、各期末には試験も行う予定ですので心積もりはお忘れなく」


 試験、という言葉を聞いてルカが天を仰ぐのが見えた。……無いことに一縷の望みを賭けてたのか。

 座学において評価を決めるのがほぼ試験の点数だというのは、多分どんな学校でも共通だと思うが。


「講義の時間はちょうど一時間。今日は十時に集まっていただきましたけれど、正式に講義が始まる来週からは毎日九時五十分にはここへ集まってくださいな。私の講義が終わってから十分の休憩を挟んで、次の魔法学の講義がまた一時間という流れになりますからね」


 歴史と魔法の講義がそれぞれ一時間ずつ、これが午前の活動になるわけだ。三年間はこのスケジュールをこなし、四年目以降はもう座学が無くなると。

 中等学校までの授業に比べれば、午前中だけというのはまだ楽な気はする。魔法学はちょっと特殊そうだから不安はあるけども。

 ……というか、今週は正式な講義じゃないんだな?


「今日のところは、歴史学の講義がどのようなものか、皆さんに分かってもらうためのお話とさせていただきます。……ということで、これは新入生に毎年聞いていることなのですが、歴史上で最初のイマジネーターが誰か分かる人はいますか?」


 分かる人は手を挙げてという風に、ヴァージニア教官は自身も挙手しながら室内を見回す。

 この質問には、エステルちゃんがバッと手を挙げ、


「はい! アディム=ゴルディウスいう人ですよね?」

「ええ、正解です。星歴一〇八年、魔術工房イマジナルによってブースターおよびコネクターというイマジネーターとしてのアイテムが製造され、適性者に選ばれたアディム=ゴルディウスが初代イマジネーターになりました。彼はその時既に二十歳で請負人として活動していて、戦闘能力の高さから選出されたそうです」


 アディム=ゴルディウスの名は非常に有名で、イマジネーターを志す者なら誰でも認知しているレベルだとは思う。


「彼はまた、イマジネーターからコンストラクターへ移籍出来る連携協定を成立させ、その権利を行使した最初の人物でもありますね。これは元々彼がコンストラクターとして優秀だったから容易に実現したことであり、またイマジネーターは優れた人材だとギルド側が認めてくれたことで、以後も協定が継続することになったわけです」


 イマジネーターとしての活動限界は二十五歳。だからアディムが実際に活動したのは五年で、すぐコンストラクターに戻ったことになる。

 本当はもっとこの便利な能力を使い続けたかったことだろうな。


「アディムという人物については、勤勉な皆さんならよくご存知でしょうね。では、そもそもイマジネーターが誕生することになった具体的な契機についてご存知の方はいらっしゃるかしら?」

「コンストラクターには太刀打ち出来んような魔物が出てきた、とかやないんです?」


 最初に回答したエステルちゃんが、小首を傾げながらそう返した。


「大雑把に言えばその通りです。ただ、そういう魔物が出現して人々を恐怖に陥れた大きな事件がありましてね。百年祭事件と呼ばれることになるそれは、まさに星歴百年を記念するお祭りの最中に起きたものでした……」


 国を挙げての記念祭には、当然ながら地方からも大勢の人が集まり、首都セント・ロウディシアは大変賑わっていたという。

 それを知覚したのかは定かでないが、まさに祭りが行われている最中に悪魔級、下手をすると魔王級と呼ばれるランクの魔物が出現してしまったそうだ。


「この大事件を機に、強力な魔物に対抗するための、より大きな力を生み出すことが国策となりました。当時の教皇が百年祭事件で犠牲になったことも、人々に大変なショックを与えましたからね。誰もが平和を……そのための力を必要としました」

「教わったことがあります。百年祭で教皇が魔の手にかかったので、以降の教皇は安全面から表に出なくなったと……」

「エレンさんの仰った通り。第五代教皇からはほとんど人前に姿を現さなくなりましたね」


 セラフィス教会についてはあまり詳しくないが、言われてみれば教皇とされる人物――トエル=ラ=セラフィスという名前だったか――の姿を目にしたことはない。テレビや本などにも出てきたことは無かったし、公への露出がないよう徹底されている証なのかもしれない。

 実際に国を回しているという意味では星定議会……バランの父親であるヨーゼフ=カーファ氏の方が重要な人物にも思えるのだが、やはり政治より宗教の方が人の心を大きく左右する、というわけか。あまり良くない例えではあるが、ヨーゼフ議長が斃されるよりもトエル教皇が斃される方が国民のショックは大きい……と。


「イマジネーター計画は第五代教皇と、新たに就任したユリアン=ブレイズという星定議会の議長、それにコンストラクターギルドも関わりつつ進められていきました。そして百六年に魔術工房が創設、翌々年にイマジネーターが誕生したのです。人々の期待を一身に背負う形で生まれた新たな英雄は、その期待に見事に応えて活躍し、魔物を退け続けました。そうしてアディムから始まるこの系譜は今日まで続き、今の皆さんに至っている……というわけです」


 知識として、百年祭事件については中等学校までに教わってはいた。

 ただ、こうしてイマジネーターの歴史として語られるのは新視点であり、そしてとても腑に落ちるものだった。

 人々の喜びが一瞬にして絶望へと変わる瞬間。強く求めたのは、悪しき魔を討ち払うための新たな力……。

 

「と、こんな風に歴史上の出来事を説明しつつ、それがイマジネーターとどのように結びつくかを紐解いていく。これがアトモス学園で教える歴史学なのです。……少しでも面白いと感じてもらえたなら、何よりですけれど」


 単純な史実の説明なら今までの勉強と変わらないが、イマジネーターを主軸として見た歴史学というのは新鮮で面白いと思えた。

 そりゃ、皆憧れてこの学園に入ってきているのだ。イマジネーターに関することなら退屈だとは思うまい。眠たそうにしている奴は一人もいなかった。


 その後もヴァージニア教官は、イマジネーターに関する雑学にも似た歴史を語ってくれた。これがまだ正式な講義でなく、触りにしか過ぎないのがびっくりするくらいだ。

 オレたちは講義終了を知らせるチャイムが鳴るまで、ヴァージニア教官の話に耳を傾けるのだった……。



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