38.オリエンテーション⑨
二チームが合わさった十人の集団が、平原を横断して拠点へと帰り着く。
メルシオネ教官はキャンプ用の簡易的な道具で紅茶を沸かして優雅に楽しんでいたが、オレたちの帰還を認めるとすぐに立ち上がり歓迎してくれた。
「おかえりなさい、お疲れさまでした。ご覧の通り、皆さんが一番乗りですよ」
「やったー! さっすがダインだね」
ルカやエステルちゃんはガッツポーズをし、他の面々もそれぞれ喜びを露わにする。
オレ自身も良かったと安堵した。柄にもなく自分があれこれ指示を出したし、これで成績が悪ければ結構へこんでいただろう。
「ダインチームだけじゃなく、バランチームも一緒というのは……フフ、意外ではありませんよ。良い経験になったんじゃないでしょうか。二チームとも一位でクリアです、おめでとう」
「はあ……ありがとうございます。中々苦労はしましたよ」
「あくまで訓練の一環であって、遊びではありませんから。ですが、戦闘経験も親睦も深められたことでしょう」
「否定はしませんけどね」
この訓練で養ってほしいと期待されていることはちゃんと実践したつもりだ。
メルシオネ教官の表情を見て、それが間違いじゃなさそうなことは分かった。
「あの……ありがとうございました。こちらが迷惑をかけたのに、こうして引っ張って来てくださって……」
「ダイン殿がいなければ、もっと下の順位だったであろうな」
「ホンマになあ。ありがとうな、ダインくん」
「よしてくれ。そっちのチームと情報共有出来なきゃオレたちも下の順位だったろうから。歩み寄れて良かったってとこだろ」
「また謙遜しちゃったよ、ダインてば」
ルカがそう言って笑う。……別に謙遜しているわけではなく、自惚れないようにしているだけなんだけどな。
あまり自信過剰になり過ぎたら、失敗したときに絶対辛いし恥ずかしい。常に予防線を張っておきたい人間なだけなのだ。
「……おい、ダイン」
「何だ?」
それまで無言を貫いていたバランが急に名前を呼ぶものだから、オレは訝しげな声で返してしまう。
しかし、彼が口にしたのは意外な言葉だった。
「これは借りだ、いいな? そうしなければ俺が納得出来ん」
「……ああ、分かった。そう思ってくれるなら一つ貸しにしとく」
こいつも素直じゃないだけで、卑怯過ぎる考えは嫌う、ある程度筋の通った男だとは思っている。
まあ、借りだというならどこかで返してもらうのを気長に待っているとするかな。案外忘れるかもしれないが。
「さて皆さん。お早い帰還でしたし、他のチームが帰ってくるまではまだまだ時間がかかるでしょう。せっかくですから、私と一緒に紅茶でも飲んで落ち着きませんか」
「あ、賛成! ぜひご一緒します、教官」
イオナが真っ先に手を挙げ、他の皆も同意を示す。
こうしてオレたちは、全チームが拠点に戻ってくるまでの間、メルシオネ教官とともにのんびりと午後を過ごすことになるのだった。
*
残りの七チームが全て帰還したのは、それから約二時間後のことだった。
この頃になるともう、ルカやテッドくん、エステルちゃんなんかは眠そうにしていたし、イオナとフェイ、それにエレンちゃんは女子会を開いて談笑に花を咲かせていた。
エスカーはサラルと手合わせしていたし、バランは相変わらず一人で木陰に座り込んでいる。オレも欠伸を噛み殺しつつ、そういう面々を眺めていたところだった。
他のチームは単独で帰ってきたところもあれば、複数チームで帰ってきたところもあった。最後の一チームだけは合格証を発見出来ず、メルシオネ教官から帰還指示が出た時間切れというヤツで、とぼとぼと帰還してきたその顔には悔しさが滲んでいた。
「これで無事、全員が拠点に帰り着きましたね……改めて、オリエンテーションお疲れさまでした」
生徒たちに集合をかけ、全員をぐるりと見回しながらメルシオネ教官は話す。
「この訓練については、あえて情報を少なくしたので人によっては難しかったかもしれません。ですが、ほとんどの皆さんが他チームの情報を得るという選択を思いつき、きちんと答えに辿り着いてくれました。惜しくも一チームはクリアならずでしたが、八チームもクリア出来ましたから上々です」
教官の予想では、クリアチームはもっと少ないと踏んでいたのか。
オレたち百期生も中々やるもんだな。
「イマジネーターはワールドスクリプトを通して異なる世界へ遠征に出ることが多い。その状況では臨機応変な判断が求められます。何もかもを疑ってかかるのも一つの選択ではありますが、時には信じてみることで道が拓けるときもある。特に、同じ仲間ならば信頼しあうべきでしょう」
異世界へ遠征に出た際、偶然に他のイマジネーターと遭遇することもあり得る。そういう時に無条件で協力しあえるなら、きっと心強いだろう。
自分の取り分が減るのは嫌だなんて気持ちでいたら、下手を打って命を落とす危険性だってあるんだもんな。
「今回のオリエンテーションが、イマジネーターとして活動していく上での考え方に僅かでもプラスとなってくれることを、私は願っています」
メルシオネ教官は、そう言ってオレたちにそっと微笑んだ。
「……さて。説教がましいことはここまでにして、皆さんが楽しみにしているであろう報酬についてお伝えしましょう」
報酬と聞いて、生徒たちはざわつく。現金なものだが、やはりお金の話が一番気になるのは仕方ないことだ。
「複数チームが同順位というのが多かったので……一位が二チーム、三位が三チーム、六位が三チーム、九位が一チームとなっていますね。なので配分はこうなります」
メルシオネ教官がテスタマイザーから画像を表示させる。
そこに出ていたのは、このような表だった。
順位 報酬 評点
1位 2,000ペンド 10点
3位 1,400ペンド 6点
6位 800ペンド 3点
9位 400ペンド 1点
「報酬については、実戦訓練の時と同様に本日中には支給されますので、バンクを確認しておいてくださいね」
報酬のことはもう説明されなくても分かる。……気になるのはもう一つの方だ。
ここに来て、評点というのが急に出てきた。学園である以上評価のシステムはあると推測していたけれど、こんなタイミングだとは。
一体どうして――。
「そして、この評点について皆さんも気になったことでしょう。実はですね、今回チームを組ませてもらったのには理由がありまして、新入生の評価については個人ではなくチームでの評価を採用しているのです」
「……チーム評価?」
なんだか、嫌な予感がしてきた。
「ええ。皆さんには一年生の間、今回組んだチームでイマジネーターとしての活動を行ってもらいます。そしてその中で、活躍に応じてチーム毎に評点が加減算され、一年の終わりに最終的な成績が決定する……というわけです」
要するにオレは、イオナたち五人とこのままのチームで一年間活動することになるわけで。
いや、それはまあ悪くないかなと思うのだが、もっと大事なことがあるわけで。
……テスタマイザーから通知音が鳴る。
恐る恐る、オレは腕を上げてその画面を見る。
そこには、今しがたメルシオネ教官が説明してくれた評点……オリエンテーションで一位になった証の十点が入ったことを知らせる通知があり。
チーム名が、『ダインチーム』になっていた。
「なお、チームの代表についても今回決めていただいた人に設定してあります。一年間固定になるので、よろしくお願いしますね」
「……マジ、かよ……」
そういうことは先に言っておくべきだろ、と心の中で悪態をつく。
ああ、分かっている。それだと代表の押し付け合いになって時間がかかると判断したんだろうさ。
でも、学園側にとっては些末な問題だとしても、生徒側にとっちゃ大きな問題なこともあるじゃないか。
まさか、ダインチームなんて名称で、オレがリーダーとしてやっていくだなんて……。
「……ダイン」
オレの背後から、ポンと肩に手を置く奴がいる。
そんな奴は、エスカー以外にありえない。
そしてこういうとき、こいつが何と言うかも予想がつく。
絶対にムカつく一言を、こいつはぶつけてくる。
「ご愁傷様」
……後で一発、殴ってやるべきか?




