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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
巡礼の支度 想造育成機関_アトモス学園
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36.オリエンテーション⑦

「ヒント用紙を?」


 オレの言葉を、呆けたようにエレンちゃんが繰り返した。どうしてそんなものが見たいんだろう、と。

 どうやらバランのチームは用紙の不自然さに気付いていないようだ。


「バラン、お前はオレたちに遭遇したときこう言ってたよな。お前たちがどうしてこんなところまで来てるのかは知らないが……って。その言葉で確信が強まったんだ」


 もしもバランたちが持っているヒント用紙もオレたちと同じものだったなら、そんな台詞は出てこないはずだ。

 何故ならここは艶めく赤を掲げている、リンゴの木がある場所なのだから。もしもヒントが同じで、彼らの考えている答えだけが違っていた場合でも、ああリンゴという可能性はあるなとは思うはず。

 まるで合点がいっていないのなら、それはつまり。


「見せてくれるか?」


 渋々といった面持ちで、バランはズボンのポケットから用紙を取り出した。これはコイツが持ってたんだな。

 オレはバランから紙を受け取る。形はほぼオレたちが持っているものと同じ紙だ。しかしその文面は――。


『晴れ空を映す青き鏡』


 ……予想通り、オレたちのヒントとは全く異なるものだった。


「ふうん……晴れ空を映す青き鏡、ね。ルカは何だと思う?」

「あ、また馬鹿にしてるでしょ。……多分これ、池とか湖なんじゃないの」

「ハハ、俺もそれが正解だと思うよ。この答えなら、森の中は可能性低そうだよねえ」


 オレが手にした紙を勝手に覗き込みながら、ルカとエスカーがそんなやりとりを交わす。

 まあ、二人の言うようにこれが指すのは池や湖といった水の張った場所なのだろう。それも空に対して遮蔽物のないような場所の、だ。

 晴れた日の陽光によって、海などは青く見えると言われている。だからこういう鬱蒼とした森に池があっても、青く見えるかと言えば微妙なため、必然的に森林側じゃなさそうだという結論になるわけだ。


「ええと、私たち実は早々に大きな池を見つけてまして」

「せやけど、なんも見つからんかったんよね。で、腹いせとばかりにダインくんらのとこに……」

「腹いせじゃない! 妨害ついでに情報を得られると踏んだだけだ」

「はいはい……」


 エステルちゃんはバランに対しても結構明け透けに物を言える子なのだな。というか、基本的にこのチームメンバー、権力がどうとかは意識してないのかもしれない。

 バランにとってはやりにくい環境かもしれないが、その分精神的に成長出来るんじゃないか? もしかして、学園側もそういうところを狙っているのだろうか……はてさて。


「じゃあ、池は拠点からほど近い平原にあったんだな」

「うむ。位置にして西北西というところか。しばらく調査したものの無駄足になり、ダイン殿のチームを追う方針となった」

「何で? って思ったけどリーダー命令なら仕方ないかあってね」


 サラルとテッドくんが順にそう話す。池がやや北側にあったなら、スタート時に各チームの進行方向にバラつきが出たのも頷ける。

 『艶めく赤』組は森林を、『青き鏡』組は平原を調査地に定めて動いていったのだ。


「オレたちはこれ……『艶めく赤を掲げしもの』ってのがヒントだったんだ。それでここまで来たけど、そちらさんと同じく無駄足に終わったわけ」

「なるほどー……って、そんなこと教えてくれていいんですか?」

「別に、タダで情報を貰おうとは思ってなかったからな」


 嫌々でも、バランがヒント用紙を見せてくれたのならばこっちも開示しておこう、というだけだ。

 それで対等になる。


「んで……この用紙なんだが」


 オレは自分が貰った紙とバランチームの紙をそれぞれ持ち、


「オレんとこは下の辺が、バランのとこは上下の辺が綺麗な切り口になってないだろ? 要はこれ、ヒント用紙が分割されてるってことなんだよ」

「分割? そうやったんか……」


 エステルちゃんは紙をまじまじと見つめ、ホンマやと声を漏らす。


「この破れ方からすると、少なくともダインさんたちのチームが一番上で、私たちのは二番目以降ってことになりそうですね」

「ああ。この二種類以外にもヒントがあるってことにもなる」


 判明したのは一番上と間部分。後は最低でも一番下の部分があるし、間が何枚あるかも確定は出来ない。


「じゃあこれ、他チームの情報がないとクリア出来ないってことじゃん!」


 テッドくんが悔しそうに声を上げる。きっとこの子はヒントの池で真剣に合格証を探し回ったんだろうな……ご苦労様だ。


「ふん……やはり他チームを妨害して情報を奪うのは正解だったってことだ。あの教官、その辺はあえてぼかしたか」

「いや……表現をぼかしたのはそうだろうが、オレはメルシオネ教官が妨害を推奨したとは思ってねえ」


 バランの言葉を、オレは即座に否定する。

 それが気に食わなかったようで、彼はどうしてだと突っかかってきた。


「ヒントが複数あることが判明して、他チームの情報が欲しくなったとき、一番効率が良いのはどんな選択肢か。……バラン以外はすんなり答えられるだろ」

「他のチームと情報を共有する……ですかね」


 おずおずと手を挙げながら、エレンちゃんが答える。


「そう、互いに協力しようと手を取り合うのが一番早い。戦って奪うにはそれだけで時間と労力がかかるからな」

『……まあ、それは性善説を信じるということでもありますけど』

「マルが言いたいことも分かるさ、あくまで最良の選択肢であって、バランみたいに最初から奪うって選択肢しか浮かばない奴も当然いる」


 でも……だからこそ。

 このオリエンテーションはまだ右も左も分からない新入生のために用意されているのだと。


「けど、メルシオネ教官はこんな風に話していた。六名一組の合計九チームを結成の上、全員で課題に挑んでもらいます、と。全員で……これは多分チーム単位のことじゃない。その垣根を越えた新入生全員を指してるんじゃないかな」

「あ――」


 その考え自体、性善説かもしれないけれど。

 彼はイマジネーターを導く学園の教官なのだから、そう考えているに違いない。

 俺はそう思いたかったのだ。


「エレンちゃんもあの時良い質問をしてたろ。二チームが同時に帰ってきた場合の順位はどうなるのかって。教官が本気で競争をさせたいなら、厳しく順位をつけそうなもんだ。けどルールとしては、どちらも同じ順位にさせてもらうと答えていた。協力するチームに甘い判定になってるんだよ」

「で、ですよね。思ってました」


 自分の考えを肯定されたからだろう、彼女の声は少し弾んでいた。

 エレンちゃんも、いや他のメンバーもほとんどが性善説を信じたい人間なんじゃないだろうか。


「だから、こうして話の分かるチームと情報共有して、同時にゴールインする。それが出来れば俄然上位に食い込める確率は上がるのさ」

「道理でござるな」

「……ん? せやけどそれって……」


 エステルちゃんが不思議そうな顔でこちらを見つめてくる。


「ウチら、ダインくんのとこに乗っかってもええってこと?」

「ここから競争相手に戻るのも面倒だろ」


 この言葉に、バランチームの全員が目を丸くした。


「ダイン殿……」

「ふ、ふざけるな! 勝者の余裕のつもりか? お前らの施しなんて……」

「うるさいバラン。繰り返すけど面倒なんだよ、またお前が妨害しに来ないとも限らないからな。だから大人しくついてくる、以上だ」

「な……っ」


 足を引っ張り合った結果、ここで築いたアドバンテージが失われる方が問題だ。

 だから、バランがどう思っていようが丸め込んでやるつもりでいた。

 コイツもプライドはあるし、頭だって切れる。ここまできて、あえて悪手は選択しないだろうさ。


「……好きに、しろ」


 バランは振り絞るように言い、拗ねた子どものようにぷいとそっぽを向くのだった。

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