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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
巡礼の支度 想造育成機関_アトモス学園
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35.オリエンテーション⑥

 戦況をざっと確認する。

 サラルはルカと一対一で戦っていて、テッドくんはどう動けばいいか迷ったまま。

 エレンちゃんは誰かが攻撃を喰らわないか注視していて、エステルちゃんは……ちょっと疲れてる? 魔力の消費が激しいのかもしれない。

 後はバランが中央でどっしり構えていて、これで五人全員。まだ攻勢に出ていないバランとテッドくん、それに一瞬で防壁を作れるエレンちゃんは気を付けるべきか。


「おお……ッ!」


 叩くべきは敵チームの頭、バランだ。オレはヤツに向かって突っ込んでいく。

 あちらとしても、狙いはオレなのだから願ったり叶ったりだろう。


「ふんっ!」

「おっ……!?」


 剣と槍がぶつかり合う。……瞬間、オレは驚かされることになった。

 昨日とはまるで能力の強度が違っていた。


「甘くみるなよ」


 そのままバランはオレを押し返した。転ばないよう気を付けながら着地し、再び顔をヤツの方へと向ける。

 まさか、一日で能力を強化してくるとは……。


「お前がわざわざ修正点を教えてくれたからな、そこを直してきたまでだ」

「ちっ、そうなんじゃねえかとは思ってたが、案外努力家だよなあ」

「案外は余計、だ!」


 光の槍を両手で握ると、バランは鋭い突きを浴びせてくる。しっかりと盾でいなすものの、前回のように砕けたりする気配はない。

 一発一発が結構重たいし、防戦一方になると正直キツいな。


「……ふっ!」


 攻撃の間隙を縫って剣を振るい、バランの槍を弾く。

 槍に引っ張られて腕が高く上がったところで、盾を構えながら突進してヤツの体を突き飛ばした。


「くっ!」


 不意を突かれたバランだが、そこは持ち前の運動神経で器用に体勢を整える。

 ……と、そこを狙ってエスカーの矢が飛んできた。二段構えの攻撃に、バランもやや慌て気味に槍を振るう。


「おい、エステル!」

「しゃーないなあ……!」


 喋り方に訛りがあるな――なんて感想はさておき、エステルちゃんは再び虚空に色を生み出している。

 次は黄緑……イメージとしては風、というところか。なら――。


「――ペイント:グリーン!」

「エスカー、気を付けろよ!」


 描かれたるは風の刃。形無きその刃が恐るべき速さで駆け抜けていき、エスカーの足場にしていた枝をスッパリと切断した。

 その直前、エスカーは空中に身を躍らせて別の枝へと飛び移っている。


「問題ないよ」


 もう一度矢を番え、バラン目掛けて発射する。そこに、


「させません!」


 エレンちゃんが防壁を発生させ、氷矢を防ぎ切った。

 これにはバランも感謝くらいするだろうと思ったが、ヤツはさも当然というような顔をしている。

 そういうところだぞ。


「おいテッド、お前も加勢しろ!」

「ん、ほいさ!」


 指示を受けて初めてテッドくんが動く。あの子はさっき自分でもそれっぽいことを言ってたが、難しいことを考えたくないタイプなんだろうな。

 ただ、行動してからの速度は中々だ。能力を使っているルカほどではないにせよ、小柄な体を活かして俊敏に迫ってくる。


「行くぞー!」


 両手でしっかり斧を持ち、なんと縦にぐるりと一回転して振り下ろしてくる。まるで丸鋸のような攻撃だ。

 全身のバネを利かせたこの攻撃は想像以上に重いはず。注意しなければ。


「――クラッグス!」


 イオナが魔法で援護射撃をくれる。土属性の魔法で、発動と同時にオレの前方の地面が隆起して、分厚い板のような岩がやや斜め前に突き出てきた。

 範囲は狭いが、それでもバランとテッドくんの両方を巻き込めている。二人がそれぞれの得物で何とか岩を防ぎ、後ろへ飛ばされるのが見えた。

 体格と身体能力の違いだろう、下がった二人の距離には少し開きがある。


 ――この岩、利用出来ないか?


 人工の地面だと岩も魔法によって生成されるが、今この場所は自然の大地なので、突き出た岩はホンモノだ。このまま残り続ける。

 後方へ押し飛ばされた二人のうち、バランの方はこの岩からまださほど離れてはいない。

 ……チャンスはあって数秒。オレは即座に判断を下す。


「――うおおッ!」


 黒い霧の能力、それを切り替えながら腕を横ざまに振るう。

 そしてドンピシャなタイミングで、霧は武器の形を創り上げて岩に激突した。


「ハンマーだ!」


 イオナが愉快そうに声を上げる。そう……上手くいくかどうかは半信半疑だったが、成功すれば意表を付けると考えたのだ。

 ハンマーで岩を叩き割り、バランの方向へ倒す――そんなことが出来れば、と。

 結果としてこの作戦は上手くいった。イオナが作り出した岩柱が、バランとテッドくんを巻き込むため横に長く、傾いていたのがプラスに働いたのだろう。


「う、わ――」


 バランは予想外の展開に対処することが出来ず。

 倒れてくる岩に圧されて、そのまま下敷きになってしまったのだった。

 ……テッドくんの方はかなりギリギリのところだったが、岩に轢かれずに済んだようで良かった。うひゃあ、という声を漏らしている。


『アニキッ!』


 倒れた岩の下から、テスタマイザー経由の音声が聞こえてきた。……レメディオか。

 こいつ、ちゃんとオペレーター出来てるんだろうか。要らぬお世話だろうが何か心配になるな。


「よっと。……やるねえ、ウチのリーダーは」

「お前もお疲れ、エスカー」


 エスカーが木から降りてくる。こいつは安全圏をしっかり確保した上で戦っていた感じだし、そんなに疲れてはないのかもしれないが、労いの言葉は一応かけておくことにした。


「ルカもイオナもだ。ま、これで勝負あったろ」


 被害も可能な限り抑えられたとは思う。少なくともこちらは無傷で、フェイの活躍しそうな場面が用意出来ないくらいだった。

 あまり言いたくはないが、完勝というわけだ。


「終わっちゃったか」

「いい勝負でござった」


 ルカとサラルも、バランがやられたのを見て戦いの手を止め、こちらにやって来る。

 それにつられるように他の面々もぞろぞろと集まってきた。


「あ……そうだ、フェイ。こういうときこそ君の出番だな」

「ふふ、そうですねえ」


 倒れた衝撃で割れた岩を幾つか除けると、バランの姿が現れる。

 彼は気絶こそしていないが、痛みに苦悶の表情を浮かべていた。……欠片一つ持っただけで結構重かったから、そりゃ圧し潰されれば相当痛いだろうな。


「頼むよ」

「ええ。――片翼の天使(リグレッサー)


 フェイが能力を発動させると、彼女の背中の右側から白い翼がゆっくりと伸びていった。

 やがてその翼がバサリと羽ばたき、雪のような羽が何枚か、ひらひらと舞う。


「き、綺麗……」


 イオナのイマジネートも綺麗な部類ではあるが、そんな彼女をしてフェイの能力には見惚れてしまう。

 片翼の天使、か。その名の通りだが、見事なものだ――。


「わ、治ってく……」


 エレンちゃんが驚きの表情で呟く。そしてそれは、オレたちも同様だった。

 バランの体が淡く光ると、ゆっくりと傷が癒えていく。

 癒える……というよりも、むしろ戻っていくという方が正しい表現のように思えた。傷だけでなく、衣服の汚れまでもが元通りになっていったからだ。

 回復――いや、これは《《回帰》》と言うべきなのではないだろうか。


「ぐっ、うう……」


 まだ痛みはあるようだが、バランの傷はすっかり治ってしまっていた。

 彼はゆっくりと起き上がり、痛む部分を手で押さえ、


「何だ? ……まさかお前たち、治療を……?」


 信じられないというような目で、バランはこちらを見つめてくる。

 そりゃあ、お前にとっては信じられないことかもしれないが、別におかしなことじゃあないはずだ。


「やりすぎちまった感もあるしな。怪我させたままにしてこっちが失格になっても困る」

「……くそっ……!」


 また情けをかけられたという風に、バランは顔を歪ませる。しかしこれ以上戦いを続行する元気もないようだ。

 しぶとく立ち向かってこられても猶更困るし、引いてくれるとありがたい。


「助かったよ、フェイ。……にしても凄い能力だな?」

「そうかしら……でも、そう言ってくれると嬉しいです」


 能力の凄さは無自覚なようだが、今でも回復として十分機能しているし、成長次第ではもっと優秀な力になりそうな気がする。

 治療するのではなく元の状態に復元する……例えば嫌な仮定だが、腕や脚が切断されるようなことがあっても元通りにくっつけられるかもしれない。

 そこまで出来るかは、試す機会が訪れないと分からないけれど。


「ふう……とにかくこれで戦闘終了、でいいよな」

「私たちはもちろんいいんですけど……」

「ウチらのリーダーがどうか、やなあ」


 エレンちゃんとエステルちゃんがそれぞれ口にして、バランの方を見る。

 サラルやテッドくんも、彼女らに続くようにしてリーダーの言葉を待った。


「……ふん。揃いも揃って仲良しごっこを……」

「バラン殿。そうは言うが、ここは学び舎でござる。チームで分かれたとしても、仲間には違いないでござるよ」

「そうそう。サラルくんの言う通りだと思うよ?」


 イオナは良いことを言ってくれたとばかりに何度も頷く。

 オレも丸きり同意見だ。切磋琢磨するライバル関係ではあるが、仲間じゃないなんてことはないだろう。

 ……少なくとも、このオリエンテーションはそれを認識させるためのものでもあるとオレは踏んでいる。


「落ち着いたところでさ。実はオレたち、他のチームに確認したいことがあったんだよ。聞いてくれると嬉しいんだが」

「こちらは勝負の敗者でござる。勝者には従うべきでござろう」


 サラルの言葉に、バランは顔をしかめたが反論はしなかった。

 バランチームの他の面々は、特に不満そうな顔もしていないし、素直に話を聞いてくれそうだ。

 ……バランがやる気じゃなければ最初から話だけで済んだんだろうなあ。


「分かった。お願いしたいのはさ」


 オレは言いながら、ヒントの用紙をひらひらとなびかせる。


「そっちのチームのヒント用紙を見せてほしいんだよ」


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