34.オリエンテーション⑤
軽薄な笑みを浮かべながら、しかし敵意溢れる眼差しを向けるバラン。
やはり彼は、オレに対して要らぬ敵愾心を持ってしまったらしい。
ようやく見つけたという台詞から、わざわざこちらを探していたようにも思えるし、ご苦労なことだ。
他のメンバーはあまり乗り気じゃないみたいなのが余計、なあ。
「お前たちがどうしてこんなところまで来てるのかは知らないが、理由はあるんだろう。どうせこのまま行けば、お前たちは上位に食い込むに違いない。だから――」
バランはそう言いながらブースターを取り出し、
「ここで動けなくしてやる。妨害なら構わないそうだからな」
すぐさま自身の能力を発動する。……高貴なる救済、見た目には美しい光の槍だ。
「ちょっと待て。オレたちは別に戦う気がないんだが……」
一応、言うだけ言ってみるかとそう答えたものの、
「これは妨害なんだぞ? はいそうですかって止めるヤツがいるか」
と、予想したままのことを返された。まあ、その理屈は正しい。
「さあお前たち、やるぞ!」
「ふう……承知した」
不服そうではあるが、代表であるバランに逆らおうとまではしないらしい。
サラルもまたブースターを出すと、能力を発現させる。
「――神和月」
昨日のイマジネート実践で見た独特の武器、カタナ。イザヤ村で昔から用いられてきた刀剣のようで、彼の能力が完全にそれと同じものになったのは、相応の思い入れがあったからなのだろう。
「強者揃いのチームだ、胸を借りるつもりで戦わせてもらうのがよかろうな」
「こういう場面でもマジメだなあ」
多分皆が思っていたことを、ルカが代弁してくれる。どんなときでも真剣、それがきっとサラル=ムツキという男だ。
「難しいことは抜きにして、俺もやるとすっか!」
続いて元気良く大声を出したのは、テッドという少年だ。
同い年にしては少し小柄、百六十センチにギリギリ届いているかというくらいの身長で、緑の短髪、額にはハチマキを巻いている。
この子の能力もあのとき見ていたな。確か……。
「――落とされた斧!」
そう、テッドくんのイマジネートは斧を生み出す力だった。こちらもサラルと同じく武器そのものを形成していて、使い勝手が良さそうだ。
後ろに控えている女子二人――エレンちゃんとエステルちゃんは、男たちよりも戦意は薄い。
迷惑かけてすいませんという顔をしているが、それでも放棄まではしないようで、
「――抑圧と解放」
「――完全なる虹!」
各々の能力を仕方なしに発動させていた。
エレンちゃんの方はブースターが消失し、両手には何もない状態になる。そしてエステルちゃんはペンが筆に、本がパレットに変化していた。
男性陣に比べ、女性陣の能力の方は癖がありそうだ。そう言えば、エレンちゃんは壁のようなものを出現させていなかったっけ……?
「やるっきゃないかあ」
「だろうねえ。昨日の実戦訓練の延長と思うとしよう」
「ボクもエスカー以外とやってみたかったのはあるしね」
……結構こっちのメンツは乗り気だな?
「それより、あいつらに確認しなきゃいけないことがあるだろ……」
「後でもいいんじゃない? 向こうもやらなきゃ満足しなさそうだし」
「皆イマジネーターの力にウキウキしてんだなあ……」
本質的なところはそれなんじゃないかな、と言いながら思う。
まあ、事実オレもイマジネートの力をもっと高めたいという欲はある。それを人に向けるのは抵抗があるとして。
「仕方ない。向こうの戦闘能力は分からねえが、怪我はさせないようにな」
「リーダーも勝つ気は満々だね」
「そりゃ負けようとは思わんだろ、エスカー」
「言えてる」
こちらもそれぞれ能力を解放する。
さっきまでの対魔物戦とはワケが違う、人数も同じだし、僅かな油断も命取りになると思っておかねば。
「……参る!」
先陣を切ったのはサラルだった。身を低くして素早く駆ける。落ち葉などで足場は悪い方だが、全く影響を感じさせないのは凄い体捌きだ。
「負けてないぞ!」
ルカも負けじと高速で向かっていく。こちらは足場が悪ければ跳躍すればいいのだと、能力によるゴリ押しで一歩の距離を伸ばしている。
ものの数秒で両者は互いの間合いに突入した。サラルがカタナを振るい、それをルカは軽やかに躱す。
……あまりのスピードバトルに見惚れてしまうが、そうしている間にもあちら側は他の攻撃を練っていた。
「――ペイント:レッド!」
「うお!?」
エステルちゃんが筆を振るうと、オレたちの近くに赤い軌跡が描かれる。
その軌跡がそのまま炎に変化し、こちらへ飛んできた。
描いたものを事象に変える能力……面白いな。それに、絵というのがオレとしても評価が高い。
彼女とはこれが初対面といってもいいくらいだが、妙な親近感を感じた。
濃い銀色の、跳ね放題の髪はヘアピンで雑に留められている。服装は、女子にしては少し無頓着にも思える素朴な服とスカート。そんな服や髪に本物の絵の具が所々飛んでるのを見るに、普段から絵を描いているような子なんだろう。
「見惚れてばかりもいられねえ、がな……!」
炎を盾で防ぎ、仲間を守る。こういう防御モードだと、盾そのものよりも大きい魔力の防壁も生じているようだ。範囲の広い炎が全て消失するのを見て分かった。
「ひゅう! 助かるよ、リーダー」
「その分の働きは頼むぜ」
「了解」
エスカーは強く大地を蹴り込むと、そのまま近くの木の枝に手を伸ばし、くるりと体を回転させて枝の上に着地する。
こいつ、こんな芸当まで出来るのか……普通に運動神経が良過ぎるだろ。
「――氷弓」
彼の手元に氷が集い、弓の形を成していく。
狙いを定めて引き絞り、エスカーは矢を放った。
「……って、ちょっ!?」
「むっ!」
接近戦を繰り広げるルカとサラルの元へ矢が飛んでいき、まさに二人が激突しようとする中心を抜けていく。
その敵味方関係無しの弾道に、サラルは驚きルカは憤慨した。
「こら! 冗談じゃ済まないぞー!」
「君なら当たらないって信じてるからさ」
「良い風に言うな!」
罵倒を涼しい顔で無視しつつ、エスカーは次の矢を番える。
ヤツのことだし冗談半分で撃ったわけじゃない。その速度と正確さを見せ、相手の動きを牽制する意味もあったのだ……多分。
「――シャイニング!」
イオナもイオナで、着実に魔力を練り上げ光魔法を発動させる。
さっきマンティスを焦がした光魔法だ、直撃すれば大火傷を免れない。加減はしているだろうが……。
「落ち着いて、落ち着いて……えい!」
エレンちゃんがブツブツと繰り返してから、両腕を振りかぶり、前方に突き出す。
するとそこに半透明の壁が瞬時に現れ、イオナの光魔法とぶつかって相殺された。
「ふうー……何とかなった」
「わ、面白い能力だなあ……」
魔法を遮られて残念そうな顔をするかと思いきや、イオナはそんな感想を呟いている。余裕そうだ。
……とりあえず、これで一通りバランチームの能力を見ることは出来たか。
後は上手い攻め方を思いつければいいのだけれど。
「どうした、怖気づいたか?」
「……ま、いいメンバーだな」
問題は、それを束ねるリーダーの気質だが。
――ゴチャゴチャ考えてても仕方ないか。
とにかくバランの戦意を削ぐ。それでこの戦いは終わるだろう。
基本的にはアイツを狙うようにして、上手く対処していくしかなさそうだな。
「攻めてくぞ、皆」
「はーい!」
既に十分攻めの姿勢だとは思うが、こうして号令をかけるのもリーダーの仕事だ。
指示を出してからオレもまた武器を構え、バランを見据えて臨戦態勢につくのだった。




