30.オリエンテーション
「今回行うオリエンテーションには、六名一組の合計九チームを結成の上、全員で課題に挑んでもらいます。新入生五十名のうち、五名の方がオペレーターへの転向を志願されましたので、残ったのは四十五名。これを九つのチームに分け、転向した方も含めたオペレーターを各チームに一人ずつ割り当てた次第です」
いなくなった五人は、全員がオペレーターへ転向したようだ。早々に学園を去ったというわけではなくて、自分のことではないのにホッとしてしまう。
なるべくなら、辞めていく者は少なくあってほしい。
「でも、マルちゃんは新入生の中にはいなかったよな? 間違ってたら申し訳ないけど……」
テスタマイザーから表示される画面越しなので画質は荒いが、それでも彼女の顔は見たことがないように思う。
暗い銀色のおかっぱ頭、目は何というかジットリしていて疲れているようにも感じられる。
口元は普段からそうなのか、下唇が少し突き出していてむすっとした表情に見えた。
『……マルで構いませんよ。私は当初からオペレーター志望でこの学園に来ているので、新入生ではないんです』
オペレーター志望、か。イマジネーターとして入学したオレたちとは別口でアトモス学園に入ってきたわけだ。
「オレは知らなかったが……そういう仕組みもあるんだな」
「その存在同様、裏方だからあまり知られてないけどね。毎年何名かは採用してるみたいだよ。学生じゃなく事務員として」
イオナが補足情報をくれる。確かに、イマジネーターよりも仕事感は強い気がするし、学生ではなく事務員というのは納得だ。
機械操作が得意な人を優先採用……みたいな感じかね。
『はい。例年採用枠がありまして、私を含め数名がオペレーターとして働かせてもらうことになりました。転向組だけでは新入生のチーム数に対応出来ないので、私たちもすぐこちらへ参加することになったわけです』
「オペレーター志望ね、珍しいなという気もするけど」
「いいじゃねえか、エスカー。オペレーターがいるからイマジネーターが救われる場面だって多い……命を守るという意味では同じ仕事だ」
『……貴方も珍しい人ですね、ダインさん。オペレーターとイマジネーターを同じ仕事だなんて』
「コーネリア校長が、オペレーターも仲間の一人だって熱弁してたからな。それでだよ」
マルは納得したのかしなかったのか、とにかくそれ以上は何も言ってこなかった。
不機嫌そうな顔のせいで、感情も読み取りにくい。
「オペレーターとなる方との挨拶も済んだところでしょうかね。ではそろそろ、オリエンテーションの詳細について説明させていただきましょう」
パンと軽く手を叩いて注目を促し、メルシオネ教官は再び話し始める。
「これから皆さんに、ヒントが書かれた紙を一枚お渡しいたします。そのヒントが示す先には『合格証』が置かれているので、それを一つここまで持って帰ってくればクリアとなります。クリアチームには今回も報酬金を用意していますが、順位によって金額が変わりますので、他チームよりも早く見つけてここへ帰り着くことを目指してください」
「……つまり、単なる宝探しゲームということか?」
下らん遊びだとでもいう風に、バランが問いかける。それに対しメルシオネ教官は、
「基本的にはそう考えてもよいでしょう。ただし、ここ一帯には魔物が出現するので最低限それを倒せる実力は必要です。そして、大事なことなのですが……」
そこで一度溜めを作ってから、教官は大事な部分について語る。
「他チームと出会った際、攻撃による妨害行為については認めます。無論、大怪我を負わせるほどの攻撃はご法度ですがね」
「ほう……」
バランはこのルールを聞き、ニヤリと笑った。妨害する気満々だな、あいつ。
……しかし、他チームへの妨害ありとは。かなり広い場所とはいえ、九チームもあると出くわす場面も頻繁に訪れそうだ。
積極的に攻撃するか、大人しく退散して温存するか……考えることが増えるな。
「ちなみに、攻撃以外の妨害行為は禁止とします。たとえば相手の合格証を奪ったり、破壊したり、或いは指定地点に置かれている合格証の場所を変えてしまったり。そうした行為については問答無用で失格としますので、気を付けてください」
一度合格証を手にしてしまえば、それを奪われたり壊されたりすることはない、と。ただし入手後も、妨害されて他チームよりも帰りが遅くなることはあり得るわけだ。
「あのー、もしも二チームが同時に帰ってきた場合はどうなります?」
質問したのはエレンちゃんだ。……彼女、バランが笑っているのを嫌そうな顔で見ていたし、他人への暴力行為を良しと出来ない子なのだろう。何というか、ご愁傷様だな。
「僅差だと私が判断出来ない場合もあるでしょうし、同時に帰ってきたチームがあれば、それはどちらも同じ順位とさせてもらいます。代わりに次が繰り下がり……二位が二チームあった場合、次は四位になるわけですね」
自分たちが先だ、いや自分たちの方が……なんて大喧嘩になったら面倒だし、本当に僅差だったら同着にするのは無難な選択だろう。
あくまでこれはオリエンテーション。親睦を深めるものであって、バチバチの対立関係を作るようなものにはしたくない……と。
「他に質問が無ければ、そろそろ始めるとしましょうか……長丁場になることでしょうしね。では、各チームから代表を決めて一人、ヒントの紙を取りに来てください」
チームの代表、ね。オレとしてはイオナが適任だと思うのだが……他の意見はどうだろう。
「え? ダインでいいんじゃないの」
「俺もダインでいいかなと思ってたけど」
「私も……」
「って、お前らなんでそういうときだけ謙虚なんだよ」
ルカもエスカーもイオナも、全員オレを指名してくる。おまけにフェイもマルも、皆がそういうならそれでいいのではという顔だ。
「交友関係で苦労しそうな性格してるもんね、ダイン」
「だから適任じゃない?」
さっきは口喧嘩していたルカとエスカーなのに、俺に対しての意見はピッタリ合うらしい。
というか、交友関係で苦労しそうな性格ってなんだよ。それで代表指名されるのかよ。
「分かったよ! とりあえずこの場は代表ってことで行ってやる」
これに関しては味方もいなさそうなので、早々に折れることにする……覚えておけよ、お前ら。
心の中で情けない捨て台詞を吐きつつ、オレはメルシオネ教官のところへ向かう。
教官はニコリと笑って、そのままオレに細長い紙切れを手渡してきた。……思ったよりも小さいな。
――どれどれ。
書かれていることも少なそうなので、オレは皆のところへ戻る前に一度、文面を確認してみる。
『艶めく赤を掲げしもの』
……ヒントと呼ぶに相応しい、ひどく抽象的な文言だ。
これが何を示しているのかを解読し、そこへ向かえばいいのだな。
イオナたちのところへ戻り、彼女らにもヒントを見せる。
皆の反応も、大体オレと変わらないものだった。
「全チームにヒント用紙が行き渡りましたね。……結構、これで準備は完了です」
メルシオネ教官はぐるりと生徒たちを見回し……そして、宣言する。
「それでは只今から、オリエンテーションを開始します。皆さん、どこよりも早い合格証の発見を目指して頑張ってください!」
その言葉に押し出されるように、全チーム一斉に拠点を出発するのであった。




