300.古代都市の決戦⑤――赤剣
再び目を見開くと、そこはもう現実の世界。
忘れていた感覚が戻ってきたように、獣にやられた痛みを再び感じ始めるが、気にしている時間は無い。
終末ノ獣はまた、攻撃の準備に入っている。
仲間たちが治療中で身動きのとり辛い今、二度目の落雷が来たら壊滅は必至だ。
――そうはさせるか。
新たなる門を開き、手にしたこの力。
今すぐ解放させてもらうとするぜ……!
「来い……!」
願いは力となり、オレの身体に宿る。
足元から激しい炎のような魔力が噴き上がり、相応しい武装を形作っていく。
深紅のラインがまるで血管のように身体全体へ伸びていき、微かな光を帯びる。
頭髪も長く伸び、こちらも燃えるような赤へと変化していた。
背中には螺旋状の紋様が浮かび上がり、そこから火が生じている。
そしてオレの手元には――燃え滾る炎を凝縮したような赤き大剣が出現したのだった。
「――アルニオン=イース・ミュール」
世界との繋がり、その第二の名。
アルニオン=イース・ミュール……この力を以て、オレはあの終末ノ獣を、討つ。
「何だあ、ありゃあ……!?」
遠くから、アルゴニオさんの驚く声がする。
オレの姿がまた突然変貌したのだから、驚愕するのも無理はない。
そもそも、イマジネートとしても他に例が無いくらい異質な能力だ。
ほら、ユベールさんやシャーロットさんだって驚いている。
「も、燃えてますわ……」
「熱く滾る炎の戦士……フフ、いいじゃないか……」
ユベールさんの方は不敵に笑いながら、ハープを何度も弾いている。
インスピレーションが湧いてきたとか、そういう感じだ。
「それが新しい力、なんだね……ダイン」
「ああ……そうらしい」
イオナの問いかけに、オレはそう答える。
巡礼の旅をここで終わらせないため、与えられた武装だ。
「うわあ、カッコイイ……!」
ルカはテレビ番組に出てくるヒーローを見た時のような眼差しでこちらを見つめてくる。
そういうキラキラした目を向けられると、小恥ずかしいな。
「頼むよ、リーダー……!」
「はいよ、とりあえずは任せといてくれ」
アルニオン=イース・ミュール。この能力がどんなものなのかは、自然と頭の中に入っている。
だからそれを実行に移すだけ――便利なものだ。
大地を強く蹴り、空中へ跳び出す。
背の紋様が浮力を生じさせているようで、およそ常人ではあり得ないほどの高さまで一飛びだった。
恐らく、ルカの脚力よりも高い場所まで到達している。
そして、これだけではない。
黒霧を足場にしていたように、この能力中は足元に炎を出現させ、弾かれるようにもう一度跳躍することが出来た。
これを繰り返せば、どこまでも高く跳んでいくことすら出来そうだ。まあ、その前に魔力が切れるか、息が出来なくなりそうだが。
「さあ、追いついた――」
たった三歩跳躍しただけで、オレは終末ノ獣と同じ高さへ辿り着く。
獣の側面に位置取り、赤熱する大剣を振り被る……!
「――赤き戦乱の剣士ッ!!」
振り抜いた瞬間、赤い剣の軌跡が五倍ほどに引き延ばされる。
斬撃を飛ばす闘技である黒月とは違い、振り抜いた剣がオーラを纏うような感じで、そのまま伸びたのだ。
振り終わる瞬間にはもう、剣のオーラは消えて元の長さに戻っている。
『****……ッ!?』
予想外の攻撃に、終末ノ獣も成す術が無かった。
脇腹を深く斬り裂かれ、痛みに呻きながら地上へと墜落していく。
斬られた箇所は、まるで焼きごてを当てられたかのように黒く焦げ付いている。
赤き戦乱の剣士――この剣は色だけじゃない、途轍もない熱量を有した業火の剣なのだ。
「まだだぜ……!」
今回の形態は、アルニオン=エイヴスとはまた違う制限があるらしい。
あちらは光の矢……白き勝利の弓士を二本放つと終了するが、こちらは攻撃の残数などがない。
その代わり、背の紋様の赤が上部から少しずつ消えていっており、全て消えると能力も消えてしまうという制限時間制のようだった。
だから、手早く決めなければならない。
紋様は既に三分の一ほど消えている……恐らく持って五分というところ。
この力が使える内に、獣を倒し切る……!
「うおお……ッ」
背の紋様は、地上を駆ける際にも速度を上昇させるブースターとなる。
着地してすぐに獣の元へと走り、再び赤剣の一閃を見舞う。
終末ノ獣は必死の抵抗で、オレだけに狙いを絞って落雷を放ってくる。
しかし、このスピードなら何とかそれを掻い潜って行けそうだ――。
「喰らえッ!」
勢いのままに、斬り上げる。
致命傷を回避しようとした終末ノ獣は翼で庇おうとしたが、その翼が易々と切断され、吹き飛んだ。
片翼を喪った獣は、もう空を飛ぶことは出来ない。
最大の逃げ場を、これでお前は失った……!
「――クラッグス!」
そこで、後方から獣に向けて魔法が発動される。
雷属性に効果が高い土魔法――イオナの攻撃だ。
「――ロックフォール!」
「――オパール・ボルダー!」
続いてフェイとシャーロットさんも土系統の攻撃を叩き込む。
地中から突き出す岩の棘、そして上空からも巨大な落石と、身動きのとれない終末ノ獣は容赦ない連打を浴びた。
「スフォルツァンド……!」
ユベールさんが放つ力強い一矢も、獣の残った翼に風穴を開ける。
悲鳴を上げる間もなく、次々に攻撃は繰り出されていく。
「ほら船長、やるよ!」
「わーってるさ。ったく、ちょっとは敬えっての!」
などと掛け合いながら、海族団の二人は同時に銃を発射。
その弾丸が二つとも終末ノ獣の左目を撃ち抜き、視力を奪った。
「やあ、良い目をしてるねえ」
「流石は海族だね!」
と言いながら、エスカーとルカも近接攻撃を打ち込んでいる。
もはや獣には抵抗する気力も失われている様子だった。
「パレス様の想いも、この剣に乗せましょう――」
静かに祈っていたセイルさんが、そう呟いて走り出し、全力で曲刀を振り抜く。
天使の遺志を乗せて振るったその刃は、獣の胸部を斬り裂き、そして右腕を吹き飛ばすまでに至った。
この星に生きる者が、終末ノ獣にここまで深い傷を与えられるとは。彼の強さは本物だとオレは思う。
……そして。
「これで、終わりだ――!」
満身創痍の獣の前へ立ち。
オレは赤剣を空へと掲げ。
全霊を以て、振り下ろす――。
『**……***……』
あれほどの巨体を誇り、脅威を感じさせた終末ノ獣が。
赤の軌跡によって真っ二つに裂かれ、断末魔の声とともに崩れ落ちていく。
獣は最期に僅かだけ、足掻くようにこちらへ腕を伸ばしたけれど。
その腕もすぐに力を失って、ぱたりと地面を叩くのだった。
終末ノ獣は斃れ、古代都市は静寂に包まれる……。
「……ハ……」
静寂を破ったのは、
「ハハハハハッ! すっげえぞ……本当にやっちまいやがったッ!!」
アルゴニオさんの高らかな笑い声だった。
「やったあっ! 今回も大勝利だー!」
「凄いわ、ダインくん!」
仲間たちがわいわいとオレの元へ集まってくる。
灼熱の武装を纏っているのが怖かったのだが、ちょうど時間切れになったらしく、皆が近づいてくる前には綺麗さっぱり消失してしまっていた。
『光の矢の次は炎の剣……ふう、とても理解の追いつかない力ですね』
「いやあ、流石はリーダー。毎度驚かせてくれるねえ」
「ありがとう、ダイン! ダインのおかげでまた終末を阻止出来た……本当に良かったあ……」
チームメンバーの輪には入らないものの、遠巻きから先輩二人も暖かい眼差しを向けてくれている。
「フ……まさに英雄と呼ぶのに相応しい活躍だったね……」
「全く、不思議な力ですわね。ひょっとすると彼、イマジネーターの歴史を塗り替えたりするんじゃないかしら」
「それもまた楽しみだ……」
また一つ周りの評価が上がってしまった感がある。あまり持ち上げられ過ぎるのも困るんだよなあ。
……でも、まあ。
「オレたちの、勝ちだ。オレたちの手で、イース・ミュールに平和を取り戻した」
「うん! 百年以上も静かに続いてた終末を、これで止められたんだよ、私たち」
「だな……」
かつては封じることしか出来ず、生き延びた者たちを少しずつ苦しめてきた災厄。
その根源たる終末ノ獣を倒し、全てを終わらせることに成功したのだ。
「……ありがとうございます、皆さん。本当に……」
涙を拭うこともせず、セイルさんはこちらへ頭を下げてきた。
「長い戦いが、ようやく終わりました。パレス様もきっと、喜んでおられることでしょう……」
「……そうですね。きっと」
世界を護ってくれと、命を捧げてオレたちに未来を託したパレスちゃん。
彼女の願いに、ちゃんと応えられたこと。心から良かったと思う。
「……それじゃあ、帰るとしますか。沢山の人たちが待つ首都へ」
「はい。そして伝えましょう、世界を救った私たちの航海を」
セイルさんが手を差し伸べてくる。オレはそれに応じて、握手をした。
そこでアルゴニオさんが近づいてきて、おずおずと口を開く。
「なあ、帰る前に……少しくらい財宝を探したっていいよな?」
勝利の空気を壊すようなその一言に、オレたちは皆、思わず笑ってしまうのだった。




