↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第二の巡礼 縦断海域世界_イース・ミュール
PR
305/315

299.古代都市の決戦④――心象

「……正解、みたいだな」


 見覚えのある空間に投げ出されたオレは、ひとまず安堵する。

 何も起きず獣にやられて敗北……なんて結末にはならなかったようだ。

 少なくとも、今のところは。


 ――まさか、この短期間でまたここに来るとはな。


 エイヴスでの死闘から一ヶ月ほど。ここへ再訪する期間が短いというより、死地へ赴く頻度が多いと言う方が正しいだろう。

 つまり、それが巡礼の旅の厳しさということでもあるけれど。


「さて――」


 訪れたからには、探さなくてはならない。

 世界――恐らく今回はイース・ミュールの力と繋がる門扉を。

 見つけ出すのには、恐らくさほど苦労しないはずだ。

 どちらかというと、オレが気になっているのは……。


「……いるんですか?」


 無限に広がっていそうに思える白の世界。

 その中心に立ち尽くすオレは、虚空へと声を投げかけた。


「……早い再会だな」


 一ヶ月と何ら変わらない姿で、彼は現れた。

 心象世界に住まう謎の男――ユリアンさんが。


「巡礼の旅が順調に進んでいるようで、私としては何よりだよ」

「……貴方もその、巡礼って言い回しを使うんですね」


 巡礼の旅とは、イオナが詠んだとされる預言の中に出てくるワードだ。

 日常使われるような言葉ではないし、それを意識的に用いるのであれば、多かれ少なかれ預言について知っているのではと疑ってしまう。

 天使や千年王国の人間も、巡礼について語っていた。どちらも世界の秘密を握っていそうな者たちだ。

 ならばユリアンさんはどうなんだろう。彼はどうして、巡礼について知悉しているのだろうか。


「フ……お前が一つ失念していることがある。ここはどこだ。お前の心象世界だろう」

「……え」


 まさか。


「あの、もしかして……オレの記憶と直結してる……?」


 待て待て、それは流石にまずいだろ。

 オレの体験が全部この人に筒抜けだとしたら、恥ずかしいなんてもんじゃないぞ。

 今はまだ辛うじてセーフだとしても、これから先ずっとそう言う状況なんだとしたら。

 あり得るかもしれない青春のアレコレが、全部この人に見られるってことになるのでは……。


「……ははは! いや、茶化してすまない。お前の体験が私に共有される、などということは無いから安心してくれ」

「……あの、本気でビビったんで止めてくれますか……」

「ふざけ過ぎないようにしよう、ほら、この通り……申し訳なかった」

「はあ……」


 初めて出会ったあの瞬間だけは、風格と神秘性を兼ね備えた格好良い人物だと思った者だが。

 実際に話してみると、調子の良いおじさんという感じなんだよな。


「成長を感じる……というのは、嬉しいものだな」

「何ですか、それ。まるで保護者みたいな……」


 と、そこまで言って思い出す。

 この男の名はユリアン……オレの父親の名前と同じなのだということを。

 あのときは否定されたし、もう一度聞いたって答えは変わらないのだろうけど。

 どうにも偶然じゃない気はする。ただの勘だが、偶然だと簡単には片付けられない相似だった。


 ――本当に、何者なのやら。


「あの――それよりも」

「……ああ。ここへ来たということは、力を求めたということ。それは分かっているとも」


 一つ頷くと、ユリアンさんは踵を返してゆっくり歩き始める。


「付いて来るといい」

「……ええ」


 以前と同じように、オレはユリアンさんと並んで歩き出す。

 何一つ標の無い、白紙の世界を。


「また、少し話がしたいんですね」

「フ、話が早くて助かる。ちゃんと前回のことを、覚えているんだな」

「そこまで昔じゃないですし……」


 ユリアンさん曰く、求める者に道は開かれる。

 力が欲しいと念じれば、必要な門がこの世界に現れるということだ。

 彼がまた歩こうと告げてきたなら。

 それは話をしようという迂遠な提案なのに相違なかった。


「……ねえ、ユリアンさん。貴方はオレの力を『繋がり』だと言ってましたよね」

「ああ、その通りだ。お前の想い次第で門は開かれ、世界に眠る力と繋がる……」

「それはつまり、世界自体から力を借りるようなものだろうと、ジャンヌさん――教官みたいな人がそう仮説を立ててくれたんですけど。オレみたいな一介のイマジネーターが、そんな大それた能力を持ってるなんて変だなと思ってるんですよ」


 ユリアンさんはただ無言でこちらを見続け、先を促す。


「オレがこの力を手にしたのは、たまたまなんでしょうか。それとも何か、意味があるんでしょうか」

「……ふむ」


 彼は少しだけ考え込むような仕草をして、


「その問いに答えを出すのは少々難しい。だが、意味の無いことなど無い……とだけは言える」

「……それは」

「お前の力は世界を繋ぎ、そして世界を救うために求められた力だ。その役割を果たす中で、真実というのは自ずと明らかになっていくだろう」


 ――この長き巡礼の中で。否が応でも真実というのは……明らかにされていくものなのだろう。


 あのとき、ジャンヌさんも似たようなことを口にしていた。

 オレの力に、何らかの秘密があるような仄めかしを。


「ユリアンさん、ひょっとしてジャンヌさんのこと知ってます?」

「……フ。古い知己だ」


 やはり、知っているのか。……古いというのがどれほど昔のことなのか、正直さっぱり分からないが。

 だとするとこの人は過去、現実世界に存在し……何故か今、オレの心の中に居座っていることになる。

 とんでもなく謎だらけの男だな、この人は。


「ジャンヌは武芸に優れ、話術にも長けている。人を先導していく役割は適任だろう。ただ、彼女に教えを乞うているなら、気を付けておくといい。互いに妥当な着地点を出したと思っていても、いつだってそこが彼女の考えるベストなのだ」

「……何かイヤですね、それ」

「だろう? だから少しくらい、彼女を困らせてやってもいい」


 ……困らせるといったって、どうしたら困るかも分からないし、怖いからやりたくはないけれど。

 まあ、無茶な要求に対してはもっとこちらが有利になるよう、言ってみてもいいのかもしれないな。


「旧友の話を聞けたところで、門を開くとしようか」

「はあ。ええと……念じればいいんでしたっけ」

「大切なのは心だ。何のために力が欲しいか……それが明確であれば、問題無い」


 オレが力を求める理由は決まっている。

 世界を、皆を護るためだ。いつだって、そんな戦いの中に身を置いているのだから。


「労せず門を呼び起こせる……それだけの確固たる意志が築かれていること、嬉しく思うぞ」

「褒められてるならこちらも嬉しいですけど……実感は無いなあ」


 意志が強くなければ門は出ないのかどうか。参考例などあるはずもなく、そうなのかな、としか思えない話だ。

 まあ……すぐに門が現れてくれたこと自体は良かった。これならすぐ、皆の元へ戻れる。


「……ふう」


 門扉の前に掌を向け、静かに念じ続ける。

 すると扉はギイイ……と軋む音を立て、緩慢に開いていった。


「……世界に眠りし力って、何なんでしょう。大気に溢れるマナのことなのか、それとも……」


 口にした仮説は、違うような気がしていた。

 何故なら前回、ユリアンさんはこう語っていたからだ。幾多の世界……そこに秘められた遺産、と。


「……かつて、始まりの都市があった。遥か昔の話だ。今やそれは跡形もなくなり……幾つもの世界に、力だけが眠っている」

「始まりの、都市……」


 それは、イース・ミュールでいう古代都市のようなものだろうか。

 栄華を極めた文明……その力だけが遺産として、無数のワールドスクリプトに散らばった。

 ワールドスクリプトは独立しているようで、その実繋がりを持っている……でも、それって……。


「難しく考える必要はない。いずれ分かることだ」


 ユリアンさんはあえて思考を遮るように呟き、


「さあ、その力を持って戻るといい……仲間たちの待つ場所へ」


 門の向こう――赤く滾る光と繋がったオレに、優しくそう告げた。


「ユリアンさん――」


 まだまだ話したいことはあるのだが、ここでの時間は限られているようだ。

 既に世界は白く霞んでいき、彼の姿も判然としなくなる。

 知りたいことはまだ霧の中……そして、この場所で楽して聞くのはご法度ということなのか。

 いずれにせよ、彼らの言うように真実がやって来るまでは……待つことが唯一出来ることなのかもしれない。


 心象世界が消えていく。

 オレは力を手にして戻る――世界と仲間の命運をかけた、戦いの舞台へ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。