297.古代都市の決戦②――雷光
「もう一回来そうだよ!」
雷攻撃の予兆を感じ、ルカが大声で知らせてくれる。
それに合わせ、左右の陣営が防御手段を講じた。
「――バリア!」
イオナとフェイは二人でランク二の防御魔法を発動させる。
詠唱無しで出さなければ間に合わないため、策としてはこれが最善だ。
「――アダマント・シェル!」
対してシャーロットさんは、ユベールさんの補助を受けつつ宝石技で対処する。
陽光をキラキラと反射させる防壁が、ドーム状に彼女たちを覆った。
ダイヤモンド系統の技は物理全般なのだろう、かなり多様な変化を見せてくれるな。
――っと。オレもまずいか。
感心しながら眺めている場合じゃない。
雷が落ちる前に、オレも黒霧のバリアを張る。
「……ぐお……ッ」
複数箇所に雷は落ちているが、その一つ一つの威力が強烈だ。
オレの張ったバリアは一瞬で弾け飛び、落雷は周囲を分散して地面に着弾した。
攻撃そのものを消せていないということは、バリアの割れ方が悪ければ分かれた雷が当たっていたということ。
それを考えるとヒヤリとしてしまう……。
「ひゃあっ」
落雷に恐怖を感じたのはオレだけではなかった。
イオナたちもシャーロットさんたちも、今の一撃でバリアを崩されている。
魔法が得意な二人や、先輩の防御が貫かれてしまうのだから、よっぽどの威力なわけで。
それが無数に放たれるのは流石に恐ろしい。
「わっと……!」
ルカは紙一重のところで、自身の能力を活かして回避している。ただ、いつ当たるか分からない危うい回避だ。
エスカーは細く高い氷柱を幾つか出現させ、避雷針のように機能させていた。一応その試みは成功しているようだが、こちらもリスクは高い。
「こりゃ長引かせられねえな……!」
そもそも相手は滞空し続けていられるし、こちらが攻撃する手段、チャンスともに少ない。
ならば短期決戦を狙う方がまだ勝算はあるはずだ。
ある程度様子見してから使うべきと思っていたが、出し渋ってはいられない。
「皆、アイツの動きを数秒でも止められるか!?」
オレの問いかけに、
「未知数だけど……拘束手段はあるからね!」
イオナがそう返してくれる。アウレオールを使うとして、さてどこまで通用するかだな。
フェイの補助やイマジネートで底上げを図り、持ちこたえてくれれば万々歳だが。
「僕たちもサポートさせてもらおう……」
「イマジネートで拘束は出来ませんし、私も久々に魔法を使ってみるといたしますわ」
シャーロットさんも詠唱に入る。文言からしてこれもアウレオールのようだ。
終末ノ獣は闇属性も強く有しているので、やはり第一候補として光魔法が入ってくるわけだ。
「それまで攻撃に集中させないよう出来ればいいんだけど、ねえ」
言いながら、エスカーは氷刃を幾つも終末ノ獣へ投擲する。
ダメージが通らずとも、邪魔をすることで落雷攻撃をさせ辛くする狙いだ。
遠隔攻撃の可能なユベールさん、アルゴニオさんとデイビスさんもそれに応じた。
「おらおらッ!」
「海族のカンを舐めんじゃないよ!」
かなりのスピードで滑空しているはずだが、各々の攻撃は半分以上ヒットしている。
皆、流石の腕前だ。
「――アウレオール!!」
そこで詠唱が完了し、光魔法が発動する。
イオナ、フェイ、シャーロットさんの三人が同時発動したアウレオールは、上手い具合に終末ノ獣の肩、腹部、脚部の三か所に出現して収縮、拘束を果たした。
「今だよ、ダイン!」
もちろん分かっている。
光魔法の発動を見届けながら、オレは既にアルニオン=エイヴスの構築に入っていた。
魔力溢れる神々しき武装……現れたる白き弓をこの手に掴み、終末ノ獣を狙う――。
「……白き勝利の弓士!!」
途轍もない衝撃とともに放たれる光の一矢。
久しぶりに使ったこともあり、やはり反動で全身に痺れが走る。
風よりも速く、矢は一直線に終末ノ獣へ向けて突き進んでいく――。
「おお……美しい……」
「凄まじい、ですわね……!」
この大技を見たいと口にしていた先輩二人は、素直に感動してくれているようだ。
それもそうだよなと頷けるほどの威力だと、オレも自負している。
光の矢が、間もなく獣の喉元へ届く。
直撃する――そう確信した、まさにその瞬間だった。
「ああ……!?」
バチンッ、と何かが弾ける音がした。
それは、終末ノ獣が拘束を――アウレオールを破壊した音だった。
まさか、三人がかりで作り出した拘束を、こんなにも容易く破壊してくるなんて……!
『****ッ!!』
怒りに満ちた咆哮を発し、終末ノ獣はあっさりと白き勝利の弓士を躱してしまう。
自由になった獣はぐるりと上空を一周すると、再び地上へ雷光を落としてきた。
「きゃああッ!」
「おわあ……ッ!」
今度の落雷は、直前に全員が魔法や遠隔攻撃をしていたために、防御へ転じるのが僅かに遅れた。
辛うじてバリアは張れたものの、十分な強度を持たせることが出来ず、直撃とともに粉々になる。
バリアの直下にいた者のうち、イオナとアルゴニオさんが分散した雷を受けて悲鳴を上げ、膝を付いた。
「イオナ!」
「大丈夫かい、船長!」
細かく分かれた雷の内の一本だったので、大きなダメージとはならなかったらしい。
……が、それでも二人とも苦しげだ。特にアルゴニオさんはこちらの世界の人間。能力値的にもイオナより多くダメージを受けたはず。
「ごめんなさい、すぐ治すわ……!」
「こちらも治療する……」
フェイとユベールさんがそれぞれ治療に入る。
フェイは普通の治癒魔法だが、ユベールさんはイマジネートによる『癒し』だ。
どうやらあちらは対象の治癒力を高めるような仕組みの技らしく、魔法より治癒速度は遅いものの、疲労も含めて軽減されていくらしいな。
「……くそ……!」
あれほど強固な拘束を易々と解いてしまうなら、オレの大技を当てるのは至難の業だ。
おまけに白き勝利の弓士の残数はあと一回……もう後がない。
『……ダインさん、ぼうっとしてると危険です! 恐らく獣は、ダインさんに狙いをつけていますよ……!』
マルがそんな警告をくれた。……当たらなかったとはいえ、終末ノ獣は白き勝利の弓士の威力を脅威と認識したようだ。
だから、まずは危険度の高いオレから倒そうと、ターゲットに選んだわけだな……!
「……上等だ」
そっちがそのつもりなら、むしろ都合がいい。
オレだけを狙ってくれるのなら、オレもお前に集中出来るということだ。
「イオナ、大丈夫か?」
「う、うん。ちょっと痺れちゃっただけ……」
「なら良かった。……フェイ、治療が終わったところで悪いんだが……かけられるだけの補助をかけてくれるか」
「え、ええ……分かったわ」
オレの頼みに応え、フェイは一つずつ補助魔法をかけてくれる。
この補助が、どれくらいオレを守ってくれることになるか……信じるしかない。
「皆、なるべく防御を重視しててくれ。残り一発の矢――どうにか当ててみせる」




