296.古代都市の決戦①――飛翔
オレたちが臨戦態勢に入ると、終末ノ獣もいよいよ活発に動き出す。
両翼を広げた体長は控えめに見積もっても二十メートル以上あるだろう。そう……エイヴスで戦った獣と変わらない大きさだ。
初めて終末ノ獣と対峙したときは、こんなの人類に太刀打ち出来る敵なのかと恐怖したものだ。
しかし今回は、恐怖が無いとまでは言えないけれど……震えたりはしない。
立ち向かえる。共に戦う仲間とともに。その自信があった。
「さて……終末ノ獣に挑むとすれば」
エスカーがちらとこちらを見、
「やっぱり切り札はリーダーの技、だろうね?」
「……そうなるのかねえ」
エイヴスで終末ノ獣と戦った際に目覚めた能力、白き勝利の弓士。
ジャンヌさんをして特異な力と評したそれは、未だ確証はないものの、恐らくは世界と繋がる力……世界に眠る力を自身のものへ変換するというものだ。
その力によって実際に獣を倒しているのだし、切り札と言われるのもおかしくはない。
イース・ミュールの獣にどこまで通用するかは不明だが、使うなら必ず直撃させたいところだ。
弾数にも限りがあるのだから。
「実のところ、僕はそれが見たくて来た部分もあってね……」
「ぶっちゃけましたわね……まあ、私も気にはなっていますけれど」
「あはは……先輩方に気にされるのは恥ずかしいんですが」
自分からは吹聴していないのに、学園全体でオレたちの話は広まってるものなあ。
オレの不思議な技が見たい……そう思っている人は、他にもいるのかもしれない。
『終末ノ獣ですが、エイヴスで戦った個体よりも僅かに強い反応が出ています。あのとき天使ルマンは、獣が二割程度の出力でしかないと語っていましたが……今回は三割に届くかどうか、というところなのかもしれません』
「経過時間の他に、個体差も当然あるかもだけどな……分かった。ありがとうな、マル」
獣はあのときより強くなっていても、こちらとて強くなっている。それに仲間だって沢山ついているのだ。
決して状況は悪くないさ。
「なるべくリーダーの手を空けてあげないとねえ」
というエスカーの方針で、彼とルカがいつも通り遊撃はしつつ、後衛からそれほど離れないでおくことで防御にも回れるようにする。
終末ノ獣を見て左サイドをエスカー、右サイドをルカが動き回る形だ。
エスカー側の後方にはセイルさん、イオナ、フェイの三人。ルカ側の後方にはユベールさん、シャーロットさん、アルゴニオさん、デイビスさんの四人。
オレは臨機応変に攻防しろとのことだ。これが一番難しいような気もするのだが……まあ、やるしかない。
「そら……!」
「ていっ!」
エスカーが氷刃で、ルカが石の投擲で終末ノ獣へ攻撃を試みる。
……ただ、さして威力の無い攻撃でダメージは通らない。まずは注意を惹きつけるため、だ。
獣がどんな風に攻撃してくるかと注視していたのだが、
「やはり……飛びますわね」
とシャーロットさんが言った通り、終末ノ獣はその大きな翼を広げ、上空へと飛び立ってしまった。
翼の動きで地上には強風が吹き、オレたちは思わず腕で顔を覆う。
「くっ……」
「気を付けるんだ……敵はかなり速い……」
ユベールさんに言われ、風吹き荒ぶ中なんとか目を開く。
すると、上空を相当な速度で獣が旋回していた。
「飛び回られると厄介だな……!」
前回もそうだったが、空高く飛んで行かれると近接組は手出しが出来なくなる。
そうなると飛び道具や魔法といった遠隔攻撃しか使えないが、相手は強力なブレスなどを使えるだろうから不利だ。
今回の獣は鳥獣型……飛び回るのが得意そうだし、そこをどう対処するかが重要になるだろう。
「前は炎属性だったから、水魔法で戦ったけど……」
「そうね。……この獣は何属性かしら」
炎をまとっているとかではないし、出現時に火山が出来たとか分かりやすい現象もない。
見た目からすれば、風属性という雰囲気はあるけれど。
「火属性でやってみるかー……!」
イオナとフェイの二人はそれで試してみることにし、魔法の詠唱を始める。
反対側では、シャーロットさんも同じく火属性の技を繰り出そうとしていた。
「行きますわよ――ルビー・フレイム!」
「――ヴォルカン!」
左右から挟み込むように、火属性魔法が飛ぶ。
獣はかなりの速度ゆえ、イオナたちが撃った魔法は当たらずに過ぎていってしまったが、シャーロットさんの技は微妙に追尾効果があるようで、尾の付近にヒットする。
しかし、炎は獣の皮膚に火傷すら与えることが出来ず、忽ち消滅してしまった。
「そんな……ノーダメージですの……?」
「今、炎が当たる瞬間に何か見えたな……」
敵を観察しつつ、動き回っているエスカーがそう話す。
オレも当たった瞬間は見ていたが、目立った変化は無かったような。……あえて言うなら、着弾時に少し光った気がするが、炎の明るさかもしれないし。
……と。
「……何か来る!」
ルカがマナの流れから、終末ノ獣が攻撃してこようとしているのを察知する。
ブレスか――? 風属性ならば身を切るような風でも噴いてくるのかと思ったのだが。
事前の予想と、実際の攻撃はあまりにも違っていた。
「きゃあッ!」
「うおお……!?」
まるで、視界を一瞬にして光が包み込んだようだった。
そして、爆発するような激しい音が耳をつんざく――。
何が起こったかを脳が理解するまでに、それはもう終わっている。
運良くギリギリのところで当たらずに済んだが、今のは――落雷だ……!
「雷、だって……!?」
それが落ちた部分の地面は、黒く焦げ付いている。
やはり今のは間違いなく、雷光だった。
つまり、あの終末ノ獣は雷属性を有する存在。
水でも風でもなく、雷と来たか……!
「大丈夫か!?」
仲間が無事かどうか、一先ず大声を出して確認する。
「こっちはオッケー!」
「フ……こちらも何とか当たってはいないよ……」
左右どちらのメンバーも、直撃してはいないようだ。
ルカとエスカーも特に変わりなく動き続けている。
「敵が雷属性なら、火は可もなく不可も無く、ですわね……それよりも」
「攻撃、速過ぎるでしょ!」
ルカが怒ったように叫ぶ。
……全く以てその通りだ。あれだけ速い落雷を、見てから避けるのは到底不可能に思われた。
「マナの流れを読んでバリアを張るくらいしかないぞ……!」
「ボクと……他に出来る?」
「私とユベールなら、多少は出来ますわよ」
ルカの限定スキルほど優秀ではないが、二人も経験値ゆえ、ある程度流れを察知することは出来るらしい。
苦肉の策ではあるものの、気付いた者が伝えて防御役がバリアを張る……そんな風に対処するしかなさそうだな。
『エネルギーの変化なら、レーダー上でも確認は可能ですが……やはりラグがあるので、そちらで見る方が早いでしょうね』
「了解、万が一のときは頼む」
『ええ、分かっています』
上空を飛び回り、雷を落として攻撃してくる敵……か。何ともやり辛い。
どうにか突破口を見出して、反撃に転じなければ。




