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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第二の巡礼 縦断海域世界_イース・ミュール
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293.立ちはだかる眷属②

「――ヴァリアメンテ」


 ユベールの放った矢は、複雑に軌道を変化させながら眷属に襲い掛かる。

 払い落とそうと前脚を振るうも、矢はその間を擦り抜け脇腹付近の肉を削ぐ。


『**……!』


 傷を負わせたユベールに、眷属の鋭い視線が飛ぶものの、そうしてターゲットを変えた途端に別の攻撃が飛んでくる。


「そらそら!」


 デイビスが周囲を駆け回りながら銃を撃つ。常に遮蔽物を意識しつつの上手い立ち回りだ。

 弾丸自体は眷属の外皮を貫通するに至らないが、目に当たればもちろん潰せるし、傷口ならばダメージは通る。

 眷属とてそれは分かっているようで、完全に無視は出来ない。


「……まずいな!」


 敵が口を開くのを見、アルゴニオとセイルは素早く後退する。

 その直後、眷属は毒々しい液体を口から吐き出した。首を横に振りながらだったので、前方の半面に液体がぶちまけられる。

 幸い当たった者はいなかったが、中々の速さと範囲だ。


「可能な限り、今の範囲内には入らないようにしなさいな!」


 シャーロットはそう忠告しつつ、


「――オパール・ボルダー!」


 強力な技で眷属へ攻撃を仕掛ける。

 地面から突き出す岩の棘。それが眷属の身体に刺さるかというところで、


「なっ……!?」


 地面を力強く蹴り、眷属は跳躍した。

 崩壊した建物の外壁を利用し、方向を変えながら素早く上空を飛び移っていく。


「そんな真似が出来たか……!」


 セイルたちが驚いている間に、眷属はユベールとシャーロットの後方に着地していた。


「なるほど、獣らしい動きだ……」

「言ってる場合じゃないですわよ!」


 シャーロットが言い終わるのと同時かそれより速く、眷属はまた強い蹴り込みで突進する。

 コンマ数秒で二人の間近まで迫り、大きく前脚を振り被り引っ掻き攻撃を行ってきた。


「ふっ……!」


 ユベールもシャーロットもこれを難なく躱すが、敵は流れるように追撃を入れてくる。

 右、左、右……連続での引っ掻きに、カウンターを入れる余裕も無い。

 そのとき、


「ぐう……ッ!」


 間にセイルが割って入り、曲刀で攻撃を防いだ。

 僅かな隙が生じ、ユベールとシャーロットはそれぞれ別方向に遠く離れていく。


「助かりましたわ!」

「それ以上はさせないよ……」


 セイルが吹き飛ばされる前に、ユベールが矢を放って敵に回避させ、引き剥がす。

 何とか攻撃を受け止めたセイルだが、両腕が痺れてしまうほどの衝撃だったようだ。得物を地面に刺し、それを杖のようにして息を整えている。


「ふう……やはり、戦闘能力が違いますね……!」

「気を遣わせたね……すぐに癒すよ……」


 ユベールの能力には回復の旋律もあるらしく、その音色がセイルの痛みを緩和していく。


「ずっと動かないせいで、仮にも獣型ということを忘れかけていましたわ。それなりのスピードですわね」

「言うねえ。俺たちにゃ目にも止まらぬって感じだったがな」

「二度目は通用しませんわ。……ユベール」

「承知しているさ……」


 シャーロットに催促されたユベールは、能力強化の旋律を自身とシャーロットに付与する。

 そして互いに目配せをすると、獣に負けず劣らずの跳躍で素早く移動を始めた。


「肉体派ではないのですけれど、ね」

「せめて美しく踊るとしよう……」


 基本はハープの弓と、宝石魔法とによる遠隔攻撃が主体の二人。

 しかし、彼らはある程度経験を積んだイマジネーターだ。様々な状況に対応出来るよう、基礎的な能力は全て鍛えている。

 こういった、二人が主力になる状況でも臆しはせず、前に踏み出せる。


「――アダマント・カッター」


 ゴシックドレスに身を包んでいるとは思えぬ速さで眷属に接近し、シャーロットは刃を閃かせた。

 忽ち敵の右腕が切断され、その体がぐらりと傾ぐ。恐らく、斬られてようやく何が起きたかを悟ったのだろう。


『***……ッ!』


 バランスを崩しながらも、眷属はシャーロットへ反撃をしかける。

 後ろから尻尾を振るい、彼女の背中を狙ったのだ。


「気を付けなよ」

「分かっていますわ!」


 跳躍し、ぶつけようとしてきた尻尾を踏み台にして、シャーロットは更に高く跳び上がる。

 くるりと中空で一回転をしてから、勢いをつけてアダマント・カッターを振り抜いた。


『***!』


 だが、これは空振りに終わる。動作が大きかった分、眷属に回避の猶予を与えてしまったようだ。

 ……それでも、シャーロットは構わなかった。攻撃の第二陣があることは分かっていたからだ。


「――セグエンテ」


 上空に放たれた矢が、十本以上に増えて眷属の頭上へ降り注ぐ。

 その一つ一つにしっかりと魔力が込められており、硬い外皮を貫通して何本も突き刺さった。


『**……***……ッ!』


 矢の一本一本は細いが、深々と突き刺さればそれなりにダメージはある。

 複数本刺さっているのだから余計に、だ。

 最初に貫通させた部分や肉を削いだ部分、細かな蓄積ダメージがそろそろ眷属を苦しめる頃だろう。


「む……!」


 焦燥が激高へと変化したか、眷属は怒りを発露するような咆哮を一つ轟かせると、高速移動を始める。

 今度は連続攻撃ではなく、ヒットアンドアウェイの要領で迫り、すぐに離れていく。

 片側の前脚を斬り落とされているため、攻撃方法は噛みつきだ。

 範囲は狭いものの、喰らいつかれてしまえば最後、命はないだろうという恐ろしさがあった。


「甘いですわ……オパール・ボルダー!」


 飛び込んでくる眷属の前に、シャーロットは岩の壁を生成する。

 眷属はそのままぶつかるのではなく、その壁に噛みついて粉々に砕いてしまった。


「くっ……」


 着地した眷属はそのまま勢いよく回転、尻尾を振り回してシャーロットを吹き飛ばそうとする。

 自身が生み出した岩壁の、無数の破片に視界を奪われていた彼女は、尻尾に気付いて避けようとするも完全には躱し切れなかった。


「ああもう、お気に入りの服が台無しですわ……!」


 とは言え、右腕の一部の布が裂け、僅かにかすり傷が生じただけなのが彼女の強さを表している。


「許しませんわよ――アダマント・ハンマー!」


 巨大、そして鈍重なる金剛の槌を手に、彼女は疾駆する。


「止められるかしら!」

「フ……やってみよう」


 相棒からの頼みに、ユベールは挑戦的な笑顔で応える。


「――ヴェラート」


 何本かの矢を放つと、それらが眷属の周囲をぐるぐると飛び回る。

 光の軌跡を描きながら少しの間飛んでいた矢は、いつの間にか魔力の糸のようなものに変化し、眷属を縛り付けた。


『***……!?』


 思うように身体を動かせなくなり、敵は一瞬困惑する。

 しかし、すぐに糸を引き千切ろうと力を込め始めた。


「終わりですわ――」


 シャーロットがハンマーを振り被った瞬間。

 左腕の糸だけが引き千切れ、開放される。

 まずい、と思ったときにはもうハンマーを打ち下ろすタイミングであり、回避も間に合わない。

 シャーロットは自分へのダメージを覚悟する――が。


『**ッ!?』


 何かが当たり、眷属の左腕が動きを止めた。

 それは、弾丸――デイビスの放った一発の弾が、ユベールが最初に開けた風穴に見事命中したのだ。


「どんなもんだい!」


 してやったりと、デイビスはガッツポーズを決めてみせる。

 それを視界に収めて笑顔を浮かべたシャーロットは、後は躊躇うことなくハンマーを振り下ろし。


「はああッ!!」


 眷属の頭部を、一振の下に叩き潰した。


「……ふう! やりましたわね……」

「ハハ、ド派手な一撃だったなあ!」


 一仕事終え、息を吐くシャーロットにアルゴニオが声を掛ける。


「しかし、いいとこをデイビスに取られちまったぜ」

「アタイの射撃術は船長にも負けないんでね」


 誇らしげに銃をクルクルと回しながら、デイビスは言う。


「皆さん、流石でした。やはり私はまだまだだと痛感させられます」

「フ……そんなことはない。状況判断と行動力……素晴らしかった」


 やや落胆気味のセイルに、ユベールはそんな励ましの言葉をかけていた。


「貴方の発破もあって、迅速に眷属を倒すことが出来たのだし……」


 死骸に対し、手慣れた動作で収集機能を使いつつ、彼は続ける。


「合流するとしようか。この世界を救うことになる英雄たちと……ね」

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