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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第二の巡礼 縦断海域世界_イース・ミュール
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288.この世界にどうか、祝福を

 アリアーナ大陸に長く眠っていた古代船の元へ、ダインたちを導いてから。

 七天使の一人パレスは、崩れた建物の前で静かに微笑んでいた。

 それは、ようやくここまで来ることが出来たのだという安堵と。

 未来が希望に溢れたものであることを想像してのものだった。

 自身が見ることのない未来を。


「……予定外のことはやはり起きるものだけれど、何とかここまで漕ぎ着けることが出来た。皆には感謝しないといけないな」


 彼女の言う皆とは、決してダインたちだけのことではない。

 これまで彼女を支えてくれた多くの人々……イース・ミュールに生きる、或いは生きた全ての人々に対する感謝だった。


 ――さて、行こうか。


 重たい身体を何とか動かして、パレスは向かう。

 自分が最期の役目を果たすための場所へ。

 来た道を引き返す間にも、身体がだんだん鈍くなっていくのを彼女は感じる。

 だからこそ、この選択に間違いは無かったのだと自身に言い聞かせた。


「いやあ。……これでも十分に耐えた方だ」


 天使の魔力は当然ながら無尽蔵ではない。

 エイヴスにおいて天使ルマンが、人々の信仰を力に変換していたように、パレスも信仰によってその力を維持してきた。

 しかしながら、封印機構を稼働させ続けるのに消費する魔力に対し、得られる魔力の方がどうしても少なかった。

 信仰が無いわけではない。やはり停滞の力で終末ノ獣を押し留めておくのには、膨大な力が必要なのだった。


 ――本音を言えば、もっと格好良くサポートしたかったものな。


 パレスが戦闘にあまり加わらなかったのは、怠惰だったからでも必要を感じなかったからでもない。

 万全の状態で戦うことが、彼女には既に不可能だったからだ。

 停滞能力をフルパワーで乱発することが出来ていたなら、これまでの戦闘など全て赤子を捻るようなものになっていただろう。

 しかし、一度としてそのような力を発揮することは出来なかった。


「……よし」


 彼女は帰り着く。千年王国の研究施設まで。

 厳密に言えば、彼女の目的地は施設そのものではない。

 停止した封印機構――それこそが、彼女の役目を果たすのに必要なものである。


「木端微塵、なんてことがなくて良かったな」


 パレスは寂しさを紛らわせるように独り言ちる。

 仮に機構が粉々になっていたとしても、まだ目的達成に必要な機能は残っていたのかもしれないが、壊されていない方が良いのは至極当然だ。

 一度呼吸を整え、彼女は魔力の流れを――パスを感知する。


 ――大丈夫、まだ繋がっている。


 パレスの停滞能力を送り込む機能が停止しても、送り込んでいた道が閉じることまではない。

 何らかの問題が発生しても、再起動出来るように作られていたからだ。

 一度停止すると二度と使えない、などという仕様では粗悪に過ぎる。

 その点はかの魔術卿、スレイマン=ヘリングもきちんと考慮した上で造り上げていた。


「それじゃあ――始めよう」


 ゆっくりと、封印機構に手を這わせ。

 彼女は自身の魔力を注ぎ込んでいく。

 信仰によって得られてきた余剰だけでなく。

 己を構成する魔力までを含めて、全て。


 ――はは、身体が軽い。


 意外にも、恐怖は感じなかった。

 この終点を何度も思い描いては、震えた夜もあったというのに。

 その時が来てみれば、案外すんなり受け入れられるものだと。

 パレスは肝の据わった自分自身に驚き、苦笑する。


 イース・ミュールを護るため。

 既に魔力が枯渇し始めていた彼女は、これを計画していた。

 子羊たちの巡礼については認識しているものの、それが上手く運ぶ保証もない。

 ならば自分は、試練を見届ける監督者ではなく、共にそれを乗り越える立場になったって構わないじゃないかと。


「どうせ私たち天使は、最後には……」


 彼女の呟きには、存在に対する諦念があった。

 ……封印機構は、注がれる魔力によって再び光を取り戻していく。

 魔力の強度ゆえ、僅かながら進んでいく道筋も照らし出されていた。

 対照的に、少しずつパレスは実体を維持することが出来なくなり。

 その姿がだんだんと、半透明に変化していった。


 天使パレスの持ち得る、全ての魔力を捧げることで。

 浮上した古代都市で活動を始めつつある終末ノ獣を再停止させる。

 こればかりは、流石の千年王国も予期していないことだろう。

 ハニー=デポルはパレスに魔力が残っていない事実を見抜いていたし、そもそもそんな手は取れないと踏んでいるはずだから。

 この世界を護るためならば。

 いずれ消えゆく命を今投げ出すことくらい、訳ないことだ。

 むしろ私は、それを誇りにすら思う。

 怠惰の権能を持つ自分が、こんな大役を果たせるのだから……。


「じゃあ……申し訳ないけれど。後はお任せするとしよう」


 子羊たちの巡礼が、無事に終わりますように。

 そしてこの世界にどうか、祝福をもたらしてくれますように。


 七天使の一人、怠惰のパレスの姿は、そんな願いを遺して霧のように消え去った。

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