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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第二の巡礼 縦断海域世界_イース・ミュール
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287.古代船の伝説

 古代船。

 それは第三大陸ガジェミアの食堂で、海族たちが交わしていた噂話だったはずだ。

 古代都市や北の海のヌシなど、彼らが話していたことは実際に存在するものばかりだった。

 なるほど、やはり古代船についても噂の出どころとなるものが確かにあったわけだ。


「このアリアーナ大陸が元は造船地域だったことは既に話したね。終末が起きてしまった際、造船所のほとんどは破壊されてしまったけれど、ただ一つ被害を免れたであろう場所があるんだ」

「大陸が割れるほどの災害だったのに?」

「うん。そのプロジェクトは百年祭を祝うもう一つのサプライズとして進められていた。だから、既知の造船所ではない場所で秘密裡に造られていたんだ。その場所は」


 そこまでを言い、パレスちゃんは大陸の北側を指で示す。

 その一帯は緩やかな坂となっており、北端は切り立った崖になっていることが容易に分かる地形だった。


「あの丘……周囲よりも高くなっているあそこの地下に秘密の造船所が設えられ、職人たちは日夜船造りに励んでいた……」


 地下に拓かれた秘密の造船所、か。

 何だか子どもの頃に憧れる秘密基地みたいなイメージが浮かんでしまう。夢を追う人々は皆、そういうのが好きなんだろうか。


「フ……祝祭のために造られ、日の目を見ることのなかった船。時を超えて僕たちがそれを操ることになろうとは……何ともドラマティックなことだね……」

「当時の職人たちが技術の粋を結集して造った船なのでしょう? 永遠に眠り続けるよりも、使われた方が報われますわね」

「ああ、その通りだ。この大一番、最後の航海のためにぜひとも使わせてもらおうじゃないか」


 幸い、アリアーナ大陸はそれほど面積の広いところではない。

 目的地の丘も、急げば二十分はかからないだろう。

 ということで、オレたちは駆け足で北に向かった。


「しかし、百年以上も前の船を今も使えんのか?」

「アタイらも伝説は知ってるけどさ、てっきり豪華絢爛な船の残骸でもあるんじゃないかって思ってたよ」


 そう語るアルゴニオ海族団の二人にパレスちゃんは、


「古代の技術は現代に勝るとも劣らないものだし、素材もすぐダメになるようなものじゃない。それから、これは偶然なんだが、封印機構のエネルギーが古代都市へ向かうルート上にその造船所が位置していてね。おまけに地下にあるものだから、相応に影響が及んでいるはずだ」

「停滞の力か……」


 古代都市が真北にあるなら、封印機構が送るエネルギーも同じ方へ向かっている。

 少なくともこの大陸のエネルギーは造船所のある地点を通っていそうだし、他の機構も線を引いてみればほど近いルートなのかもしれない。


「ちなみによ。報酬でその船をくれっつったらどうするよ?」

「はは、遠慮のない質問だね」


 パレスちゃんは快活に笑うと、


「一度は海軍に管理を任せるつもりだけど、私としては別に異存はないよ。船を壊されたこと、申し訳なく思っているしね」

「軍部で議題に上げさせていただきましょう。船である以前に古代の遺物ですから、学術的な面でも調査が求められたりするかもしれませんし」

「ま、ほどほどに期待させてもらっとくとするぜ」


 もしも実現すれば、アルゴニオ海族団は古代船を操る海族、ということになるのか。

 そうなると、もはや方々から生ける伝説なんて崇められてもいいくらいになりそうだが。


「……ここだね」


 地面に傾斜が付き始めてしばらく行ったところに、石造の小さな倉庫のようなものが建っていた。

 人一人がなんとか入れるか、という程度の大きさだが、もちろんここは倉庫でも住居でもない。


「おお……」


 スライド式の扉を開くと、中の床面に地下へ続く階段が伸びていた。

 石造りのハコは、この階段を隠すためだけの簡素極まる建物なわけだ。

 今は周囲に何も建っていないが、きっと昔は幾つか建物があって、カモフラージュされていたんだろう。


「……船の名前は、パレス号という」

「パレスちゃんの名前が付けられたんだ?」


 ルカの言葉に、パレスちゃんは照れ臭そうに頷いて、


「仮にも女神だからね。百年祭で感謝と敬愛の気持ちをということで、その名を付けられた船が海へ漕ぎ出すことになっていた」

「実現していれば、航海の度に注目されるようになっていたでしょうね」


 フェイがその光景を夢想するように呟いた。


「ふふ、それはきっと、これから実現することだろうさ」

「確かに。アルゴニオさんたちが乗るにせよ何にせよ、パレス号がこの先使われるなら注目の的になること間違いなしだ」


 そうそう、とパレスちゃんは嬉しそうに笑う。


「だからね」


 オレたちが階段を下り始めたところを、パレスちゃんは後方から見つめて。


「これから先のことはどうか、頼んだよ」


 ――え?


 どういうことだ、と声を掛ける暇も無かった。

 刹那、建物は衝撃によって崩され、瓦礫がガラガラと降り注いでくる。

 慌てて奥へ逃げ込んだオレたちに、引き返す道は断たれており。

 何故かこの場に、パレスちゃんだけが存在しないのだった。


「な、何で……?」


 あまりにも突然のことに、誰もが言葉を失う。

 それまでどちらかと言えば和やかなムードが戻ってきていたはずなのに。

 ここにきて、パレスちゃんが急にオレたちを閉じ込めるなんて。

 そんなこと、予想だにしていなかった――。


「パレス様!」


 瓦礫を拳で叩きながら、セイルさんは何度も彼女の名を叫んでいる。

 しかし、その声がもう届かないことは明らかだ。


「……彼女の真意は分からないね。察するしかないけれど」


 エスカーは振り返りながら、


「少なくとも俺たちにはもう、こっちの道しか残ってない」


 淡々とそう語った。


「こんな土壇場で、あの子が罠を仕掛けたってのは……考えにくいもんな」

「そうだね。どちらかと言うと……」


 途中まで言って、イオナはやっぱり何でもないと首を振る。

 でも、オレだって薄々嫌な予感はしているんだ。

 彼女が最後に発した言葉は、まるで……。


「……進もうぜ。とにかく船を見つけて、乗り込んで。海に出たら合流出来るかもしれねえだろ」

「そうだねえ。こんな辛気臭いトコであれこれ考えてたって仕方ない」


 二人の意見はご尤もだ。とにかく、今のところはこの階段を下ってみるとしよう。

 古代船を発進させたら……パレスちゃんを探して、そのおかしな行動の理由を問い質すとしようじゃないか。

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