283.第六大陸アリアーナ
第五大陸フォカラを何とか脱出し、オレたちはアルゴニオ海族団の船で第六大陸アリアーナを目指す。
気持ちは逸るものの、船上で出来ることは多くない。魔物へ対処すべく交代で警備する以外は、船内で自由に過ごすことになった。
これまで乗っていた海軍船が燃やされたことで、食糧などの物資が足りなくなることは少し心配だったが、この海族船にはそれなりの物資があるようだ。
彼らの人目を避けた航海を、ラークさんが裏で支援していたようなので、定期的に必要な物が届けられていたとのことだった。
これなら二日か三日程度、大人数でも食糧は足りるはずだ。
カールさんもホッと一安心して、夕食を作りに向かってくれていた。
「……異世界ってのは、ホントにあるもんなんだなあ。しかも、古代文明の奴らも異世界へ行く技術を持ってたってなあ凄えもんだ」
「はは……それはオレたちも驚きましたけど」
夕食が出来るまでの間、オレたちは甲板でアルゴニオ船長と交流していた。
ガジェミアで彼の海族団の話を聞いてから、ラークさんの裏切りが発覚するまで。
オレたちはアルゴニオ海族団のことを千年王国の協力者かもと疑っていたし、詳しいことは何も知らなかったわけで。
せめて誤解の解けた今、時間のある内に彼らのことを知っておこうと考えたのだ。
……ただ、王国の残酷な仕打ちによって、彼らはもう海族団と呼べないほどの人数になってしまっているのだけれど。
「ベンの奴にも教えてやりてえぜ。……俺らの中じゃ一番、ロマンを追い求めてた奴だからな」
「ベン……そういえば、螺旋塔で出た名前もその人のでしたね」
イオナに言われてオレも思い出す。
螺旋塔の地下、自らが倒したイレギュラーに向かってアルゴニオさんは謝罪していた。
そのとき、ベンという名前を口にしていたはずだ。……まさかイレギュラーになった人の名前なのかと思ってはいたが。
「あいつは背中にでけえ傷があったからな。バケモンに変えられちまっても、その痕が残ってて分かったんだ。……さっきの話を聞く限り、お前らが倒してきたそのイレギュラーってのは、全員この海族団の船員なんだろう。俺が直接眠らせてやるつもりではあったが、まあ……あいつらを解放してやってくれたこと、感謝してるぜ」
「いえ……そうすることしか出来なくてすみません。あのイレギュラーがアルゴニオさんの仲間だってことも、全然分かってなかった」
「そりゃそうだろ。気にすることじゃねえ」
感謝してる、という彼の言葉は偽りじゃなさそうだ。
本当に良かったのかな、とどうしてもモヤモヤはしてしまうけれど……素直に受け入れておこう。
「……今の話をした上で、お前らに頼みがあるんだがよ」
「それは?」
「俺の仲間が各大陸に置いて行かれたとして、まだ解放してやれてねえ奴らがいるのは間違いねえ。だからよ、アリアーナでもそいつらがいねえかだけ探して、いるなら眠らせてやりてえんだ」
時間がないのは承知しているが、仲間を放置なんかしておけないのだと、アルゴニオさんは悔しげな表情でそう告げた。
「構わない。いずれにせよ封印機構の確認はしておきたいし、王国とそこで決着をつけられるなら一つ問題が減るからね。罠の可能性も高いけれど……そのときは恐らく、君の願いもかなえられるだろう」
甲板にやって来るなりそう答えたのはパレスちゃんだ。
先ほどまでは焦燥感のある顔つきだったが、今は幾分落ち着いている。
焦っていても仕方ないと、気分を整えたようだ。
「……それから、今セイルの方に連絡が入った。首都で起きた暴動は何とか鎮圧出来たらしい。君たちの仲間に感謝しているよ」
「ホント!? 良かったあ……」
ルカが安堵で胸を撫で下ろす。
パレスちゃんの報告の後すぐにエスカーも、
「こちらにもバランから連絡があった。装置の爆発はハニー=デポルのイマジネートである可能性が高いとさ」
バランから伝えられたことをオレたちに共有してくれた。
爆発能力がハニーの能力であり、おまけにそれは条件付けた遅延発動も出来る……そう考えるとかなり恐ろしいものに感じる。
仕掛けられたものにはマナの動きが見られるらしいので、安全確認のためルカを頼ることになるかもしれないな……。
「第六大陸にあるのは敵の本拠地……罠があることを前提にして、最大限注意を払いながら乗り込まねばね」
「……ああ、そうだな」
パレスちゃんの言葉に、オレは神妙に頷く。
「あの、皆さん。夕食がそろそろ出来るようなので、中へどうぞ」
「お――ありがとう、ベルクさん」
確かに船内からは、仄かに良い匂いが漂ってくる。
大事な局面の前だ……しっかり食事をとって、万全の状態で臨まなければ。
*
……そして。
数時間の航海を終え、オレたちは辿り着く。
第六大陸アリアーナ……千年王国の拠点と化したその地へ。
大陸の輪郭が見え始めた頃からもしやと思っていたが、丘陵を削るようにして大きな建物――研究施設が建てられている。
アルゴニオ海族団が初めてここを訪れ、あの施設を見たときの衝撃はさぞ大きかったことだろう。
『さ、着いたよ……戻ってきただけでムシャクシャしてくるねえ、全く』
デイビスさんの声は、確かに苛立ちの混じるものだ。
多くの仲間たちの命を奪われた地に、彼女らはこうして帰ってきた。
ただ、今度はやられる側ではない。
やり返すためにこそ、帰ってきたのだ。
「さあ、いよいよ敵地へ乗り込むぞ……というところだけど」
パレスちゃんは集合したオレたちをぐるりと見回し、
「アルゴニオも付いてくるんだよね?」
「当然さ」
「アタイも付いて行かせてくれ。多少は銃を扱える」
「アルゴニオとデイビスか。となると、リースたちだけを置いていくのも心配だ」
確かに、突入メンバーがかなり大所帯になって、待機メンバーに戦える者がいなくなる。
ラークさんの一件も記憶に新しい。船の方が狙われる可能性は十分考えられるだろう。
「フ……ならば僕たちが待機しておくとしよう……」
「そうですわね。私たちなら、大抵の事態には対処出来るでしょう」
待機組を申し出てくれたのは、ユベールさんとシャーロットさんだった。
船に残ってもらうのは申し訳ないが、正直なところ二人なら安心出来る。
「ありがとう。では、残りのメンバーで上陸だ。千年王国のハニーか、或いはイレギュラーか……何にしたって戦いは避けられない。覚悟を決めておくんだよ」
「ハッ、上等だ。あの女がいてくれりゃあ、仇を討てて嬉しい限りだがよ……逃げ隠れしねえでほしいもんだな」
「ウチの船長は相変わらず悪役っぽいねえ。ま、アタイも心底同意見なんだけどさ!」
「二人は覚悟十分って感じだねえ」
面白そうにエスカーは笑う。
悪役っぽいという意見には何となく賛同したくなってしまうな……きっと心優しい船長なんだろうけどさ。
「行くよ――奴らの研究施設へ」
「ああ」
オレたちは、アリアーナの地に足を踏み入れる――。




