25.実践訓練②
メルシオネ教官の合図とともに、オレたちはブースターを排出して構える。
「昨日の話はすっかり広まっちまってるんだぞ。お前がどういうイカサマで魔物を倒したかは知らないが、その実力を測ってやる」
「まあ、そういうこったろうとは思ったけどさ……」
こいつはきっと、何に対しても自分が勝っていると証明したい人間なのだろう。
そういう生き方を強いられてきたのかもしれないが、突っかかってきてまで証明しようとはしないでほしいものだ。
今回に限っては、甘んじて受けるけれど。
「行くぞ――高貴なる救済!」
「――門を開く者」
互いの能力をイマジネートし、相手を見据える。
……光の槍と、闇の剣か。どうも感覚的には、光の方が強そうなんだよな。
闇だとか黒だとかは、どちらかと言えばネガティブなイメージがある。対して光は、その暗がりを照らし出して世界を拓いてくれるようなイメージだ。
オレの闇が、光に掻き消されなければいいのだが。
「はあぁッ!」
バランが勢いよく突進してくる。獲物を後ろに構え……それを一気に突き出してきた。
オレは臆することなくそれを目で見てしっかり躱す。バランのヤツは、槍というリーチの長さを活かして攻めてくる気だな。
アルニオンによって創り出した黒の両手剣は、やはり初日に戦った時よりもコンパクトになっている。如何に両手剣とは言え、これだと槍に対しては攻撃範囲が狭く、中距離を保たれたら不利になりそうだった。
「ハッ、届かないぞ!」
相手の攻撃の間隙を縫うように剣を振るうが、やはり易々と避けられる。リーチで優位な以上、わざわざこっちのテリトリーに踏み込もうとは思わないよな。
このままだと、少し焦れったい。
――なら。
「――クレイ」
単純に武器を振るうだけじゃなく、魔法や闘技を組み合わせるのがイマジネーターの戦いというものだろう。
残念ながら闘技は何も知らないが、魔法なら本当に初歩的なことだけは出来る。
クレイは土属性の初級魔法。土塊を飛ばすだけのシンプルなものではあれど、飛び道具によって不利な距離感を帳消しにする。
「っとと……!」
不意の魔法に、バランは無理な体勢での回避となって足を取られる。
この僅かな隙を逃さず、オレは一気に距離を詰めた。
「ふっ!」
「うお……っ!」
剣の振り下ろし……それをバランは槍で受ける。どちらも具象化された武器ではあるが、衝突とともに激しい金属音が生じた。……まるで本物の剣と槍。いや、むしろそれ以上なのか。
このままバランが防御に失敗していたら、なんて思うと少し怖くなったが、こいつもそこまでヤワなヤツじゃないだろう。そこは信用している。
「離れろ!」
鍔迫り合いを嫌い、バランは足でオレの腹を思い切り蹴りつけた。予測出来ていたので、オレは蹴りに合わせて後ろに飛び退き衝撃を受け流す。
剣を受け止めたバランの持つ槍からは、光の粒子が絶え間なく放たれていた。綺麗な槍だ――ボンヤリとそんな感想が浮かんでいたのだが。
――ん?
ただの視覚効果かとばかり思っていた光の粒子。しかし、改めて見ると斬撃を防いだ場所から一段と濃く溢れている。
であれば、あれは溢れ出す力を表しているというよりは……。
「ちょっと試すか……」
オレの限定スキル、七化。用いる武器によって――つまりはその戦闘スタイルによって自身の能力値が変化するという。
今は黒霧を両手剣の形状に固定しているが、これを変化させたとするならば。
――念じろ。
手にしていた両手剣がさらさらと崩れていく。
一度霧に帰した闇の力は、オレの想念によって再び形作られていく。
「何がしたいか分からないが、生憎隙だらけだッ!」
バランはここぞとばかりに急接近してくる。確かに、そちらから見れば今が攻め時だろう。
だが、オレが今から生み出すのは……。
「むっ!?」
片膝を地面につき、右腕を前に出して肘を曲げる。
黒い霧はその腕に集束していき――そして、大きな盾を形作った。
「そんなもの――!」
さあ、果たして《《そんなもの》》なのかどうか。
試してみろ、バラン。
「うおぉおッ!」
全力で槍を突き抜いたバラン……しかし、その瞬間耳が痛くなるほどの金属音が鳴り響く。
眩い光が迸り、瞼を開いているのも辛かったが……オレはその瞬間をハッキリと目にした。
バランの槍が、真ん中からポッキリと折れ、空中に投げ出されるのを。
「なっ……」
「今だ……!」
防御を完遂した今、盾はその役割を終える。
オレは即座に武器を切り替え――形になるのもそこそこに、腕を横薙ぎに振るった。
「――そこまでです」
……まさにギリギリ。メルシオネ教官もよく見ていたものだ。
再構築された剣はバランの横っ腹を斬り裂く寸前で、ピタリと動きを止めていた。
「勝負あり、ですね。ダインくんの勝ちです」
その宣言で、あちこちから歓声が轟いた。……いつの間にか、生徒のほとんどが試合の手を止めてオレたち二人を観戦していたらしい。そんなのアリか?
大勢の視線に気付かないほど集中していたわけだが、こうして意識させられると途端に恥ずかしくなってきた。……ただの訓練で見せものじゃないんだって。
「ぐっ……そんな馬鹿な……! 第一何なんだそれは、武器の形状が変わるだって……!?」
「オレも変えたのは初めてだよ。ただ、剣を創り出したときもそういうイメージを思い浮かべたから、同じようなもんだろってな」
「ぶっつけ本番でそれを……?」
自分の能力だからある程度確信はあったが、言われてみると危ない橋を渡ったかもしれない。
盾が構築出来なかったら槍でグサリだったし、盾の強度が弱くとも同じくだ。
上手くいって良かった、と思うべきか。
「剣を受けた所から光が漏れてたし、お前の槍はまだそこまで強度がないんだろ。そのおかげで今回は勝てたってだけさ。高貴なる救済だったか……その能力もかなり優秀なんだし、次にやったらどうなるか分かんねえよ」
「……くうっ……!」
称賛も織り交ぜておいたからか、バランは悔しそうにしていたものの、それ以上突っかかってくることはなかった。
ただ、滅茶苦茶悔しそうだ……こういう正面切っての敗北というのが、今まで経験してこなかったのかもしれない。
あまり彼の心に傷として残ってほしくないんだけど……なあ。
「アニキっ!」
心配して駆け寄るレメディオを、しかしバランは迷惑そうにあしらい、
「覚えておくぞ、ダイン……次は必ず勝つからな!」
そんな捨て台詞を放つと、プイとそっぽを向いて遠くへ離れていってしまうのだった。……まあ、講義中だから演習場からは出れないわけだが。
「……はあ。やっぱ面倒なことになるよなあ」
「ふふ、災難でしたね」
メルシオネ教官が、そんな言葉をオレに投げかけてくる。……災難というくらいなら止めてくれれば良かったのに。
口では言わないものの、少し恨めしそうな表情で彼に視線を送ると、
「いや、申し訳ない。彼が増長してしまわないためには、ダインくんが適任だと考えまして」
「教官が直接相手した方が良かったんじゃ……」
「それだと、どうせ教官だからと言われそうですからね」
生徒の中から、ヤツの抑止力になるような人材をあてがいたかったというわけだ。光栄なような、迷惑なような……。
「素晴らしかったですよ、ダインくん。自身の能力を短期間でよく理解し、運用出来ている。お世辞抜きで一番の有望株だと思っています」
「……そりゃどうも」
あまり買い被られたくはないけども。良い評価を付けてくれるなら、まあこちらにもメリットだから構わないか。
「……はい、皆さん! 注目の一番が終わったんですから、各々の手合わせに戻ってください」
まだこちらに目を向けている生徒たちに、メルシオネ教官は訓練続行を促す。
そう言えば、皆試合そっちのけでこちらに注目してたんだった。
教官の一声で、再び時間が動き出したかのようにドンパチが始まる。
今度はオレが、その数々の戦いをのんびりと観戦させてもらう側に回るのだった。




