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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第二の巡礼 縦断海域世界_イース・ミュール
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265.カラカーム大瀑布

「コレ、どうやって向こうに行くの!?」

「飛び越えます」


 慌てるイオナに対して、あくまでも冷静にセイルさんは告げる。

 下を流れる川まで五メートル以上もある崖の上を、オレたちは乗り越えている最中だった。

 対岸までは一メートルもないので、身体能力の高いメンバーは楽勝で跳躍したが、主に女性陣は苦戦している。

 そもそも、高いところを飛び越えるのは恐怖心もあるわけで。


「というかさ」


 怖がるイオナたちをご満悦で眺めていたエスカーが、そこで口を開く。


「何かしらの能力で道を作ってもいいんじゃないの? リーダーのとかさ」

「……あ」


 言われてみればそうだ。別に必ずジャンプして通らないといけないわけでもない。

 オレはすぐさまイマジネートを発動し、黒の霧を足場へと変化させ崖の間に道を作った。


「はー助かった……」


 道幅もかなり広くしたので、残っていたイオナとフェイ、シャーロットさんも安心して崖を渡り切る。

 ちなみに、当然ながらルカは一番にひょいとジャンプして渡っていた。


「実は私も、何も言われなければイマジネートを使おうと思っていましたの」

「えー! 先に言ってくださいよ」


 くすりと笑うシャーロットさんに、イオナが憤慨している。

 イオナって割と怖いものが多いよなあ。幽霊とかも怖がってたし。


「きゃっ!」


 などと思っていると、崖の端に亀裂が入って幾つかの破片が落下していった。

 流石におっかなくなって、イオナは急いでこちらに駆けてくる。


「うう、もっと安全な道を歩きたい……」

「大瀑布の近くまで降りれば安全なので、もう少し我慢してください」


 ラークさんが諭すのに、イオナはがっくりと項垂れる。

 その大瀑布まで、あとどれくらいかかるのやら。


「あっ!」

「わ! 今度は何!?」


 ルカが突然声を上げたのに、イオナはまた驚く。


「ゴメン、何か物陰で動いた気がして……」

「もう、これ以上脅かさないでよお」


 短時間で何度も驚き、疲労困憊な様子のイオナ。

 流石のルカも平謝りしつつ、念のためにと周囲のマナを探る。

 ……すると。


「危ない!」

「わあッ!」


 巨岩の後ろからいきなり魔物が飛び掛かってきた。

 間一髪、マナの流れで気付いてくれたルカがイオナにぶつかって攻撃を回避する。


「はあ……ありがと……」

「深呼吸でもしてて!」


 襲ってきた魔物は今までに出会ったことの無い奴だ。

 素体は間違いなく鮫だろう、鋭い歯と三角形の背ビレが特徴的で、体の両側には胸ビレではなく腕が生えている。

 腕とは言っても鋭利な刃が側面に付いており、それがヒレのようになっていた。ブレードフィッシュの鮫バージョン、という感じか。


『キラーシャークという魔物です。かなりの獰猛さで、自身が傷つくのすら厭わないとのこと。有利だからといって油断しないでくださいね』

「分かった、サンキュ!」


 命知らずな鮫のようだ。こちらが攻撃を決めても、強引に反撃してくる危険性があるし、慎重に……だな。

 前衛が突っ走らない方がいいだろう。ルカもエスカーもそこは理解して、敵とある程度の間合いを維持している。


『シャアアッ!』


 叫び声を上げると、キラーシャークは一直線に突き進んでくる。

 誰に狙いを定めているわけでもない、ただただ無鉄砲な攻撃だ。


「中々、スピードがありますわね!」

「フッ、四つ目の大陸というのは伊達じゃないようだ……」


 先輩二人が回避しつつ、敵の強さを冷静に評価する。

 この大陸からはもう、イース・ミュールの猛者たちでも魔物に敵わなくなっている地だ。

 オレたちにとっても、決して易しい相手ではなくなってくるだろう。


「……けど、多勢に無勢だな」


 命知らずにも程があるというか、これだけの人数がいるところに突っ込んでくるのは自殺行為に等しい。

 案の定、既にキラーシャークには逃げ場など存在しなかった。


「氷弓」

「サンダー!」

「……黒月ッ」


 あらゆる角度から遠距離攻撃が飛んでいき、キラーシャークに命中する。

 貫かれ、感電し、斬り裂かれ……一度にバリエーション豊かな攻撃を喰らったキラーシャークはバタリと倒れ、動かなくなってしまった。


「ビックリはしたが、一匹だけなら手こずることもないな」

「そうだねえ。こんなヤツだと、群れで生息してるって可能性も低そうだし」


 エスカーが言いながら、手際よく戦利品を回収してくれる。

 群れていないのなら、猪突猛進な攻撃で不意を突かれないようにだけ気を付ければ何とかなりそうか。


「ここから少しずつ下に降りていけば、大瀑布に着きます。……ほら、もう下に見えるでしょう」

「え? ……あら、本当だわ」


 セイルさんが手で前方の崖下を示す。

 その先の景色を見て、フェイは驚いていた。

 ……と。


「……あの、エスカーさん」

「ん?」


 イオナが余所余所しくエスカーの名前を呼ぶ。

 何だろうと首を傾げる彼に、


「魔物……結構いますよ」

「おや……」


 オレも崖下の光景を見やると、なるほど川の中や川べりには、今しがた戦ったキラーシャークの他にも魔物が複数徘徊している。

 瀑布の下がちょっとした湖になっているので、恐らく水棲魔物が集まりやすいのだ。


「なるべく見つからないよう、進んでいきましょう。群れているところで出くわすと、周りの魔物も寄って来そうですからね」

「ですね……大所帯なのが怖いですけど、慎重に行くしかなさそうだ」


 デコボコの岩石地帯を、オレたちは少しずつ下降していく。

 先人たちが整備した道なんてものはないため、どこが進める場所かは常に手探りだ。

 彷徨う魔物どもに発見されないように、岩や土壁に隠れながらゆっくりと進む。

 そうして十分ほどを費やし、オレたちは何とか不要な戦闘を避けて大瀑布付近まで辿り着くことが出来た。


「ふう、緊張したあ……」


 魔物がいないことを確認し、ルカがぐいと背伸びをする。

 好きなように動けないのは、特に彼女にとっては苦痛だろうな。


「この裏ですね。自分も入るのは初めてです……」


 ラークさんの声も、不安を孕んでいるように感じる。

 これまで封印機構の中にはイレギュラーが潜んでいたし、強い敵が待ち構えているのではと警戒しているのだろう。

 たとえイレギュラーでなくとも、こういう場所にはヌシのような魔物がいてもおかしくはない。


「……行こう」


 パレスちゃんの言葉に皆頷き、大瀑布の裏手へ回り込んでいく。

 人一人が通れるくらいの細い足場は何とかあって、湖に落ちないよう気を付けながら進んだ。

 瀑布は相当な高さから落ちているので、歩いていると水がどんどん跳ねてくる。

 洞窟の中へ入れた頃には全員、服のいたるところが濡れてしまっていた。


「嫌な水でしたわね。後で乾かさないと」

「全くだね……帰りは別の道があれば嬉しいところだが」


 ユベールさんはそう言うが、残念ながら帰りも同じルートとのこと。

 もう一度濡れ鼠にならなければいけないようだ。


「……で、封印機構はっと」


 イオナがすかさず光を灯してくれ、エスカーが装置の位置を確かめるため前方を見やる。

 洞窟の中は広場のようになっていて、一番奥に封印機構が佇んでいるのが分かった。


「あれだね」

「……でも、やはり何かが待ち構えているようだ……」


 ユベールさんが言うように、封印機構の前には魔物らしきシルエットが見えるが、しかし。


「……どういうことかしら?」

「何だ、あれは……」


 シャーロットさんが怪訝そうな表情をし、パレスちゃんは絶句している。

 オレから見ても、洞窟内で起きているのはこれまでと違う、異様な事態に違いなかった。


「イレギュラーが……二体?」

「しかも、片方がもう片方を倒してるらしいねえ」


 目を凝らして確認すると、床に倒れ伏した人型のイレギュラーを、獣型のイレギュラーが踏みつけているような恰好だ。

 倒れたイレギュラーは既に事切れており、獣はそこからマナを奪いたいのか、鋭い牙を突き立て胴体を貪っている……。


「ひえ……」


 グロテスクな光景に、ルカは短く悲鳴を上げる。

 他にも何人かは顔をしかめたり、声を上げたりしていた。


「……状況はよく分からないけど、そこにイレギュラーがいる以上やることは一つだ」


 パレスちゃんが言い、


「立ち塞がる敵は倒す……それしかないわね」


 フェイがそう請け合う。

 イレギュラーのいる場所までは相応の距離があった。しかし、気配を敏感に察知したのかイレギュラーはいきなり顔をこちらへ向ける。

 ……バレてしまったなら、作戦を決めている暇もないな。あちらさんも、すぐに敵意を剥き出しにしてきたし。


「ふう……そんじゃやるとするか」

「はい。さっさと片付けてしまいましょう」


 オレたちは広場まで下り、獣型のイレギュラーと対峙する。

 そして戦闘態勢をとり――戦いが始まった。


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