264.第四大陸ボルノア
朝がやってきた。
一階が海族たちのたむろする食堂ということもあり、階下では遅くまで騒ぐ声が聞こえていたが、何とか眠ることは出来たな……良かった良かった。
他のメンバーも大体は眠れたが、シャーロットさんだけは気になって寝が浅くなってしまったようだった。
綺麗な髪が少し乱れているのが分かる。苛々してるんだな……。
「君、それだと船で寝れるかが不安だね……」
「うるさいですわよ、ユベール。……私、こう見えて人より繊細ですの。それでもワガママは言いませんわよ」
貴族と言われて想像するのは、確かにワガママな性格かもしれない。
そんな奴らと一緒にされたくない、とシャーロットさんは暗に言っているわけだ。
「皆、準備は大丈夫かな。そろそろ出発するとしよう」
昨日、隠してきた真実を話すと口にしたパレスちゃん。
パッと見はいつもと変わりなく思えるものの、どこかしら緊張感はある様子だ。
第三大陸を出発し、今から目指すのは第四大陸ボルノア。
あと数時間もすれば、彼女の口からこの世界の謎が紐解かれるはずだった。
船に戻ると、船内で一泊したセイルさんが出迎えてくれる。
……もしかしたら、セイルさんの方が静かに眠れたのかもしれないな。
「おはようございます、皆さん。いよいよ出発ですね」
「はい! 第四大陸……私たちは初めてなのでドキドキですが、しっかり舵を取らせてもらいます!」
リースさんはじめ、若手三人は第四大陸に向かったことがないらしい。
事前知識があるのはパレスちゃんとセイルさん、ラークさんの三人だけということか。
乗員が配置につき、いよいよ第三大陸ガジェミアから船が出航する。
北東に薄っすら見える第四大陸へ向け、ゆっくりと海へ滑り出した。
「第四大陸以降は、間隔が少し遠いんでしたっけ?」
オレが改めて確認をすると、セイルさんは首肯して、
「はい。それでも到着までは四時間ほどですが」
「距離ではなく、単純に力不足ゆえに開拓することが出来ていないんです」
ラークさんは悔しそうに語る。
その力不足は、人々がずっと口にしてきたヤーシャルの実によるものだと昨日明らかになったわけで。
後ろでパレスちゃんが申し訳なさそうにしているのにラークさんはハッとして、
「申し訳ありません、当てつけというわけでは」
「いや、いいんだ。ちょっと気にし過ぎているね」
パレスちゃんの芝居がかった口調も、だんだん控えめになり始めている。
まるで被っていた仮面にヒビが入ってしまったかのような。
『――皆さん、早速ですが魔物です!』
伝声管から、リースさんの警告が飛ぶ。
パレスちゃんのことを心配している場合ではないか。航海中も、役割をちゃんと全うしなくちゃな。
「……よし、迎撃するぞ!」
船上へ飛び込もうとする魔物どもを迎え撃つため、オレたちは戦闘態勢をとるのだった。
*
……海上を進むこと約四時間。
セイルさんの説明通り、船は第四大陸ボルノアがもう目前のところまで近付いていた。
遠くからだとあまり判然としなかったが、ここまで来ると島の地形が見て取れるようになる。
ボルノアもまた、ガジェミアのように起伏の激しい地形をしていた。
「島全体がゴツゴツしてるね……」
「この大陸も鉱山だったりするのかしら?」
イオナが感想を呟き、フェイが質問する。
答えたのはセイルさんで、
「いえ、ボルノア大陸で鉱脈は発見されていません。あの一帯はカラカーム峡谷と呼ばれていますが、大きな滝が幾つもあって、そうした水の流れなどで自然に出来上がった地形のようですね」
切り立った崖に、無数の瀑布。山というわけではなく、元々台地だったところが削られていき、この峡谷が形成されたのだろう。
大自然の神秘というか、力強さを感じさせられる景色だ。
「過去の調査で、峡谷の中央付近にある大瀑布の裏が洞窟になっており、そこに封印機構があるのを突き止めていますが」
そこでセイルさんは一度言葉を切り、
「……目的地はひとまずそこで大丈夫でしょうか、パレス様」
「ああ。封印機構は必ず止めなくてはならないからね」
「承知しました」
過去の秘密が明らかになるからといって、やるべきことに変更はないのだ。
ここボルノア大陸でも、まずは封印機構を停止させなくてはならない。
『きちんと泊められる場所がないんで、ちょーっと揺れますよ! 気を付けてくださいね!』
リースさんの注意から数秒後、船がガタンと揺れる。
オレたちにとっては初めてとなる無人の大陸だ。当然港も何も整備されてはいない。
上手く接岸し、ハッチを開いて外へ出る。
船が着けたのは比較的起伏の少ない岩礁地帯だったようだ。
「船から見た感じ、大陸の規模はガジェミアより小さそうでしたけど……」
「ええ、面積としては小さめです。ただ、ご覧の通り地形が入り組んでいますので、機構のある場所までは多少骨が折れると」
「もう少し動きやすい服装の方が良かったかしら」
「シャーロット、そもそも君は動きやすい服なんて持ってるのかい……?」
「ある……かもしれませんわ」
……今の間からすると、無い可能性の方が高そうだな。
「とにかく、足元と魔物に十分注意して進むとしよう。さあ行くよ、皆」
パレスちゃんが号令をかけ、オレたちは歩き始めた。
目指すはカラカーム峡谷の大瀑布、その裏にある洞窟だ。




