258.魔力の違和感
遺跡の内部も天井の一部が崩落しており、そこから土砂が流れ込んで空間の半分以上が埋まっていた。
まさか封印機構も埋まっていないかと心配になったが、入ってすぐのところに綺麗な状態で立っているのが見える。
「良かった……すぐ見つかって」
「時々小規模な崩落はあるようだから、そこだけは心配だったけどね。杞憂だったようだ」
パレスちゃんはそう言うと、すたすたと封印機構の前まで歩いていく。
「魔物の残骸かもしれないっていう塊も、またここに落ちてるわね」
「古代人、イレギュラーと何度も戦ってたのかな……?」
ルカは誰にともなく問うけれど、答える者は当然ながらいない。
「……しかし、封印機構が埋まってたら、土の中から探す羽目になってたのかねえ」
「まあ、そうなる。崩落の衝撃で壊れていれば別に構わないんだけど」
「でも、壊れているかなんて分からないものね?」
エスカーが問いかけるのに、パレスちゃんは一瞬だけ遅れて、
「あ――ああ、そうだね。結局壊れているかの確認をしなくちゃいけない」
と答えた。……そういう事態のことをあまり深く考えていなかったのだろうか。
「とにかく、封印機構を停止させるからしばらく待っていてくれ」
話を切り上げると、パレスちゃんは封印機構に片手をかざす。
ウルラ大陸でしたときと同じように、魔力を繋げると――大体一分ほどで封印機構は機能を停止した。
「……これでガジェミア大陸の封印も解除完了、だ」
「ああ。お疲れ、パレスちゃん」
「皆の方こそ。魔物やイレギュラーを蹴散らしてくれて、とても助かっているよ」
そう言ってパレスちゃんはにこりと笑んだ。
「戦いが私たちの役割ですから、構いませんことよ。ただ……」
シャーロットさんが、そこで悩む素振りをする。
何だろうと訝しんでいると、
「……僕も薄っすらと感じていたが……どうにも戦闘面で違和感がある……」
「違和感?」
ユベールさんの言う違和感というのに、オレ自身は心当たりがない。
それは先輩二人だけが感じているものなのだろうか。
「……それは、どういう?」
パレスちゃんが促すと、ユベールさんが答える。
「そうだね……自分が思っている技の出力と、現実の威力に少しだけブレがあるような……そんなイメージかな……?」
「ええ。私もそんな風に感じましたわ」
恐らく、先輩たちは余力を残すような戦い方をしていたのだろう。
だから繰り出す技の魔力を調整していたが、それが微妙にズレている感覚がある……と。
「多少疲れていても、そういうことは無いはず。イース・ミュールの風土が特殊ということなのかしら?」
「もしかしたら、そうなのかもしれない。戦闘に大きく影響するものじゃないから、気にしなくても良いけどね……」
二人は特に問題なく戦えていたし、本人がそう言うのなら気にしなくてもいいのだろうか。
イース・ミュールの風土……か。実際、この世界の人は戦闘能力がほとんどない。
それは魔物と渡り合うための力を操り難いからなのかもしれないな。
『……お取込み中のところすみません』
と、ふいにテスタマイザーからマルの声が聞こえてくる。
『今先輩方が仰った件についてなのですが……』
そこでマルは一度言葉を切って、
『エスカーさん。やはり話しておくべきだと私は思います』
「……うん。いいんじゃない?」
何故か話を振られたエスカーは、訳知り顔で肯定する。
……そう言えば、昼食の時にも調査がどうこうという話を二人でしていたが……それと関係があるのか?
「その、話しておくべきことって何なんだ?」
『……恐らく、この世界に住む人々全てに関わる話だと』
「そ、そこまでスケールの大きい話なの?」
世界全体を巻き込む話と聞き、ルカは驚愕の表情を浮かべる。
他の面々も大なり小なり驚いてはいる様子だ。
「……あの、申し訳ないのですが、我々にとっても重要な話となると、場所を変えた方がいいのではと」
『ああ……そうですね。確か、この後船に戻るんでしたか』
セイルさんが言うように、大事な話ならば落ち着いた場所で聞きたいのは道理だ。
船に戻ってから皆で話を聞こう、ということになり、オレたちは早急にバルシック遺跡を離れることにしたのだった。
*
鉱山から出たオレたちは、街を一度突っ切って船へと帰還する。
ラークさんが船の前で出迎えてくれ、簡単に状況を説明してくれた。
「船内に仕掛けられていたのは、やはり小型の爆発物でした。既にベルクが無害化してくれてます」
「そうか……感謝する」
「はい。それから、なんですが……リースが山の方角から北に向かっていく船を見た、と話しているんです」
「山……というと、この港とは反対の方角から、ということだね?」
「そうです。もしかすると……」
バルシック遺跡にイレギュラーがいたことも考慮すると、千年王国がまた接近していた可能性はある。
或いは、その手中に落ちたアルゴニオ海族団ということもあり得るか。
「船を完全に空けてしまうと良くない、か」
「私たち、ここで泊まりましょうか?」
リースさんがそう提案したが、
「いや、次の大陸からはどうせ船を空けることもないし、今日までだ。ここは私が船に残ろう」
「ええ、そんな……」
「もしものとき、ある程度は戦える人間が残った方がいい」
戦闘面で言えば、海軍の中で一番優れているのはもちろんセイルさんだ。
それを言われてしまうと、リースさんも食い下がることは出来ないようだった。
「ありがとうございます、セイル大将」
「お礼を言われることじゃないよ。……それよりも」
セイルさんはこちらを一瞥してから、
「これから大事な話があるそうだ。会議室に集まることにしよう」
「大事な話……分かりました!」
リースさんは綺麗な敬礼を見せると、忽ち船内へ戻っていく。
ベルクさんとカールさんを呼びに行ったのだろう。
走り去る姿を見送ってから、セイルさんはこちらへ向き直り、
「それでは、私たちも行きましょう」
そう促し、船内に入っていった。
会議室に向かい、しばらくして若手三人もやって来る。
全員がきっちり揃い、場に一旦静寂が下りたところで、マルは話を切り出した。
『集まっていただいてありがとうございます。これからお話しすることは、イース・ミュールの皆さんにとってショックなことかもしれませんが……落ち着いてお聞きいただければ』
「ショックって……そんな悪い話なんすか?」
「ま、君たちの常識が覆っちゃうくらいには……かな?」
さも平然とエスカーが言ってのけるのに、海軍の人たちは眉をひそめる。
「それは一体……」
ラークさんが恐る恐る訊ねる。
マルは重い溜め息を一つ吐くと、意を決したように語り始めた。
『イース・ミュールの人々は魔物と戦うのに十分な力を持たないと、パレスさんは話していましたね。そして、それがどうしてなのかは不明なままでした。……ところが、ある調査によって理由が判明したんです』
そこで、エスカーはどこから持ち出したのか……とある物を掌に乗せ、オレたちに提示した。
『人々の力が何故強まらないのか――その原因は、一つの果実でした』




