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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第二の巡礼 縦断海域世界_イース・ミュール
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256.バルシックの大穴

 坑道は、初めのうちだけある程度壁や天井が整えられていたのだが、数分も歩けば自然そのままといった様相になってきた。

 これではどちらかというと、洞穴というのが近いかもしれない。


「毎度助かるよ、イオナ」

「へへ、どういたしまして」


 光の届かない場所は、変わらずイオナがイマジネートで照らしてくれる。

 非戦闘面でも便利に使えるのはありがたい能力だ。


「……おや……」


 何かに気付いてそう呟いたのはユベールさん。

 それに少し遅れて、オレも気付く。


「行き止まり?」


 前方には壁があり、道は途切れてしまっている。

 これまでに分かれ道は無かったし、突き当りにも曲がるようなところはない。


「一件そう見えるけど、よく確認してみてほしい」


 パレスちゃんに促され、近づきながら目を凝らしてみると、


「……ああ。同じもので扉を造ってるのか」

「正解。中で発生する魔物に、ここが出入口だと分からせないための工夫だ」


 下級から中級あたりまでなら、魔物の知性もさほど高くない。

 シンプルなカモフラージュでも、十分に効果があるようだな。

 こう暗い場所だと、オレたちでもすぐには分からなかったし。


「では、扉を開きますので」


 セイルさんが前に出て、窪みに手を掛ける。

 力を込めてぐいと引くと、岩に見えていたその扉はガラガラと横にスライドした。


「……おお……」


 隠し扉の先にある光景を目にしたオレは、思わず声を漏らす。

 そこに待っていたのは、先ほどまでの狭い通路ではなく、縦にも横にも広がる大空洞だったからだ。


「ここは『バルシックの大穴』と呼ばれています。ほとんどが自然に出来上がった空間ですが、時折古代文明の痕跡等も発見されていて、機構が設置されていたのもそうした遺跡の中でした」

「遺跡があるのはだいぶ進んだ先だから、そちらは元々古代人の生活圏だったのが埋もれたんじゃないかと考えられてるね」


 この洞穴はやはりかなりの大きさで、今オレたちがいる空間の奥には何本もの枝道が伸びているらしい。

 幸い、過去の調査で遺跡までの道には目印が付けられているとか。そうでなければこんなところ、迷ってしまうに決まってるよな……。


「分かれ道にさしかかるまでは、このまま直進で大丈夫だ。と言っても、だだっ広い空間だから不安になるだろうけども」


 真っ直ぐ進むとなると、左右の壁も見えなくなるほど。方向感覚を失わないようにしないとな。

 人の手がほぼ入っていない場所なので、地面もごつごつしている。段差もあるのでつまづかないよう気を付けて歩く。

 天井から水が滴っているらしく、それが地面に落ちる音がやけに響いて感じられた。


「……この音は……」


 水滴の音に混じり、何か違う音も聞こえ始める。

 だんだんと音が近づいてきて、それが羽音であることが分かった。


「もしかして、コウモリ?」


 イオナが顔を強張らせながら呟く。どうもコウモリは苦手な部類らしい。

 いや、こういう暗がりで急に飛び掛かってくるかもしれないことに恐怖心がある、という感じか。

 幽霊も怖がっていたし、ビックリ要素が苦手なんだろうな。


「ただのコウモリではないかもしれません。皆さん、警戒を」

『セイルさんの仰っている通り、上部を飛んでいるのはコウモリ型の魔物ですね』


 そこでマルの通信が入る。こんな洞穴の中でも、ちゃんと連絡が取れるとは。

 以前のハッキングのようなことさえ無ければ、大抵はどこでも通じそうだ。

 ……などと感心してる場合じゃない。


「イオナ!」

「はいはい!」


 分かってますとばかりに、イオナはすぐさま周囲に光球を出現させる。

 天井までハッキリと目視出来るような明るさが確保されると、魔物の姿もまた光の下に曝け出された。


「うひゃあ……!」


 思わずルカが驚きの声を上げる。

 無理もない、見上げた天井には十匹以上の魔物が潜んでいたからだ。


『デスモドンという魔物で、鋭い牙を突き刺して吸血攻撃をしてくるようです。素早いので接近には気を付けてください』

「分かった!」


 吸血コウモリか……体長は羽を広げても一メートルに届かないくらい。普通のコウモリよりはもちろん大きいものの、魔物という物差しでは小型だろう。

 可能であればまとめて倒したいところだが、反撃を喰らう危険性も高い。数が多いうちは遠隔攻撃を主軸にした方がいいかもな。


「来るよ」


 パレスちゃんの視線の先、一匹のデスモドンが飛び出してきた。

 それに続いて、左右の数匹も突っ込んでくる。


「速い……!」


 天井の高さは五メートル以上はありそうだが、デスモドンは一瞬でオレたちの距離まで接近してくる。

 これがもしも暗闇の中だったら、回避するのは至難の業だろう。


「すばしっこいなあっ!」


 ルカは何とか拳や蹴りでデスモドンを捉えようとするが、上手くいかない様子。

 接近戦はやはり分が悪そうだ。


「目障りなコウモリですこと……墜ちなさい!」


 シャーロットさんがトパーズの宝石を掴むと、その手中から雷が迸る。

 パッと手を開いた瞬間、暴れ狂うように電撃が閃き、飛翔するデスモドンを一気に三匹も撃墜した。

 ……凄まじい技だ。


「――そこだ」


 彼女の後方では、ユベールさんが二連続で矢を放っている。

 どこまで正確に動きを予測しているのか、放たれた矢はどちらもデスモドンの体ど真ん中を貫いた。


「流石は先輩方、だねえ」

「ボクらも貢献したいんだけどさっ」


 広い空間を縦横無尽に飛び回るデスモドン相手には、ルカもエスカーも中々攻撃を当てられない。

 オレもいつ突撃されるかと思うと、下手に動けない状況だ。


「だったら私が……!」


 戦況を注視していたフェイは、詠唱していた魔法を発動させる。


「――ストーム!」


 ランク三の風魔法。空洞全体を包むような風の流れが生まれ、中心部に全てのデスモドンが引寄せられる。

 その流れから逃れようと魔物どもも必死に羽をバタつかせるが、上手くいかないどころか風の刃が体中を傷つけていた。


「ナイスだよ!」

「ありがと、フェイ!」


 コウモリ魔獣どもは、烈風に弄ばれて墜落する。

 さっきまでは攻めあぐねていた前衛二人も、ここぞとばかりに攻勢に出た。


「氷刃」

「ええいっ!」


 地面に伏したデスモドンを、突き刺す、蹴り抜く。

 それでも倒しきれなかった残り二匹が、ふらふらと上空へ飛んでいこうとする。


「セイルさん!」

「ええ!」


 ちょうど同じタイミングで走り出したオレとセイルさん。

 綺麗に合わせて跳躍し、残敵めがけて剣を振り抜く。

 左をオレが、右をセイルさんが。スッパリと魔物を縦真っ二つにして、着地を決めるのだった。


「……片付きましたね。本当に心強い」

「セイルさんの剣技も流石でした。とんでもないのはあの二人なんですよねえ……」


 当人たちには聞こえないよう、オレは先輩二人の方を見ながら言う。

 セイルさんも、全くですねと微笑む。案外冗談の通じる人だ。


「フフ、皆ご苦労だった。あの程度なら、何匹いても脅威にはならなさそうだね」

「かといって、油断は禁物だけど。……ほら」


 エスカーがそう言った途端、ヒュッと風を切る音とともに何かが飛んできた。

 こいつもデスモドンだ。群れからはぐれていた奴が、最後に出てきたらしい。


「わっ!」


 仲間を全て殺されたデスモドンは、がむしゃらにパレスちゃんの方へ突っ込んでいく。

 その動きを予測していたのか、寸でのところでエスカーが氷刃を閃かせ、敵の体を斬り裂いた。


「あ――ええと、ありがとう……助かったよ」

「どういたしまして。ふむ、天使サマだってのに危なっかしいねえ」

「わ、私は怠惰の天使だからね。はあ……反省するよ、油断はしません」

「よろしく頼むよ」


 エスカーの注意に、しおらしく反省するパレスちゃん。

 ……ううむ、こういうところもルマンちゃんと比べて天使らしからぬ、という感じだよな。

 気に食わなかったら天使の力を見せつけたりしてきそうなものだが、する素振りも無い。

 本当に、考え方も力量も天使ごとに大きく違うものなのかね。


「ええと。気を取り直して、進んでいくとしようか」

「あんまり気にしないでいいからねー」


 イオナに慰められてしまうパレスちゃん。気恥ずかしそうに顔を背けつつ、頷いている。

 変な天使だなとオレは苦笑し、それから大空洞を前進し始めるのだった。


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