255.仕掛けられた罠
管理事務所に向かったオレたちは、特に問題も無く入坑許可証を得ることが出来た。
通常、鉱夫以外が入るにはそれなりの審査が必要らしいが、そこはパレスちゃんの権力が全てを解決してくれたのだった。
「まだまだ鉱脈は潤沢ゆえ、誰でもある程度は鉱石を採れてしまうからね。無許可で採掘をするような不届き者が出ないよう、ちゃんと管理されているのさ」
バルシック鉱山の入口には常に警備の者がいて、許可証無しには入坑出来ないようになっている。
違法採掘者の排除が主な目的だが、そもそも鉱山が危険な場所ゆえ、軽々しく近づく者がいないようにするという側面もあった。
「主要な坑道は、人の出入りも多いから比較的安全なのですが、枝分かれしている細い道には魔物が潜んでいることもあります。自力で倒したり、追い払ったり出来るのはごく一部の者だけですから、安易に鉱山へ近づかせないというのは重要なことなのです」
適正に管理されているおかげで、鉱山での事件は年に数度あるかどうか、という程度らしい。
この大陸にいる者だと手に負えないレベルの魔物が出た際は、海軍が出動して対処にあたるのだそう。しっかり連携がとれているんだな。
「封印機構のあるバルシック遺跡は、メイン坑道から外れたルートになります。魔物はもちろん、道そのものが進み辛く危険になっていますので、注意してください」
「分かりました」
注意事項を聞きつつ、鉱山の入口前までやって来たところで、ラークさんの通信機に連絡が入る。
彼は慣れた動作で素早くボタンを押し、通話を始めた。
「こちらラーク。……何? 分かった、自分も一度戻って確認させてもらう」
声色と内容からして、あまりいい連絡ではないようだ。通信を切ったあと、ラークさんは眉をひそめて、
「船に戻ったベルクからの連絡でした。何でも、船内に不審物が置かれていたそうで」
「不審物?」
セイルさんが聞き返すのに、ラークさんはこくりと頷き、
「貨物に紛れ込ませていたようですが……爆発物の可能性がある、と」
「何だって?」
思わずオレも声を上げてしまう。乗っていた船の中に爆発物が仕掛けられていたなんて。
それが本物だったとして、仕込まれたタイミング如何では最悪の状況に陥っていた可能性もある……。
「いつ仕掛けられたのかは分からないそうです。ベルクが備品のチェックをした際、見覚えのない箱があるのに気付いたと」
ベルクさんは几帳面な性格なので、自身の関係する範囲内のものはこまめにチェックをする性質らしい。
それが不審物の迅速な発見に繋がったようだ。
「不審物はひとまず船外に運び出したようですが、念のため自分も船へ戻って対応にあたろうかと思います。戦力は十分でしょうから」
最後に付け加えた一言が少し自虐気味に感じられたが、その心中は分からない。
ただ、船のことは事実心配だ。ラークさんにもチェックしてもらえた方が心強いとは思う。
「……そうだな。ラーク、船の方は君に頼む」
「はい! 行って参ります」
ビシッと敬礼をして、ラークさんは港の方へ引き返していった。
その背を見送ってから、
「予想外の問題が発生しましたが……上手く対処してくれるでしょう。我々はこのまま鉱山に入ります」
「なるべく早く用を済ませて、船に戻ってあげたいところだね」
ラークさんの能力を信用していないわけではなく、気持ちの面でということだろう。
パレスちゃんの言葉に、オレたちもそうだなと首肯した。
「パレス様! それに、セイル大将も」
バルシック鉱山の入口には、警備の男性が二人立っていた。
彼らはパレスちゃんとセイルさんという国のお偉方が並んでいるのを見て驚く。
「あはは、そう固くならない。ちょっと必要な調査があって、鉱山に入らせてもらいたいんだ。ほら、許可証もある」
「あ、ありがとうございます。どうぞお通りください」
男たちは左右に退いて、オレたちに道を開ける。ペコリとお辞儀までしてくれた。
「道中、お気を付けて」
余計かもしれないと思いつつの一言だったのだろう、申し訳なさそうな表情をしていたが、実際それは嬉しい心掛けだとオレは思った。
「……だけどさ」
警備員二人の姿が見えなくなった辺りで、ルカが口を開く。
「船に不審物って……誰がやったんだろうね」
「考えられるとしたら、千年王国の奴らなんだろうけど」
第二大陸で、ハニー=デポルとの接触があった。
あの時彼女が船へ忍び込み、爆弾か何かを仕掛けたのかもしれない。
気になっていることでもないか、エスカーの方を見やると、
「俺も怪しい動きがないか、アンテナは張ってるけどねえ。現状は何とも言えないや」
「アンテナ?」
パレスちゃんが訝しげに問いかけたが、エスカーはただ肩を竦めるだけだった。
「ま、こいつは細かいことによく気付くからな。不審なヤツを見つけ出してくれることには期待しとこう」
「そうだねえ、乞うご期待ってとこかな」
他人事のような口振りだが、ちゃんと期待に沿う活躍はしてくれるはずだ。
「……ま、今集中すべきはこちらだね」
そう言って、エスカーは前方の薄暗闇に目を向ける。
どこまで続いているかも判然としない、未整備の坑道。
「突然魔物が飛び出してくるかもしれない。気を引き締めて進んでいこう」
「はいっ」
封印機構は、坑道のかなり奥地にあるという。
これまでのように苦労なく辿り着けはしない……そう肝に命じつつ、オレたちは坑道深くへ潜っていった。




