23.皆でランチを
測定を終えて戻ってきたオレに、どうだったのとエスカーが感想を求めてきた。と言っても、あの結果でどう答えればいいかも分からず、期待通りとはいかなかったとだけ返すことにした。
「えー、てっきり凄い力を持ってると思ったのにな」
「てっきりって何だ。生憎そこまで特別じゃねえよ」
と言いつつ、決して普通の能力ではないのだろうが、詳しく説明するのも面倒だ。
測定は終了したのだし、後は昼食までゆっくり出来るかな。
終わった人から解散だとメルシオネ教官が説明してくれたので、オレはとりあえず部屋から出ていく。他のヤツらが終わるまで待つかどうかだが……まあ、白状と言われるのもイヤだしちょっと離れたところで待っておこう。
玄関ホールと廊下の境目くらいの壁にもたれかかり、ぼんやりと他の三人を待つ。エスカー、イオナ、ルカの順番に測定を終えやって来て、各々嬉しそうだったり、不満げな顔をするのだった。
「ボク、もうちょっと高いかと予想してたけどな~」
「ハハ、俺もそこまで良くはなかったよ。最初はそんなもんだろうねえ」
「謙虚な方がいいよ、うん」
イオナが謙虚という言葉を使うと、そうか? と首を傾げたくもなったが、自戒の意味合いもあるに違いない。
皆、感想を話し合いたそうにしていたものの、ここで立ち話を続けるのも迷惑だ。オレたちはこのまま昼食をとりに行くことにした。
A棟を出て、キャンパスを北へ進み寮へ。二階に上り食堂の扉を開けると、そこからもう料理の良い匂いが鼻腔を刺激する。
「あ……そういや今からもう自費なのか」
「だねー。支給された三万ペンドの出番だ」
朝まではプレートに乗った料理を提供してくれていたが、ナオさんとルトさんが今せかせかと並べているのは小鉢に乗ったおかずだ。種類の違う総菜が場所ごとに区切られて配置され、手前にはそれぞれ値札が付いている。
総菜だけでなく、器に盛られたライスやパン一切れまでちゃんと値段設定がされており、生徒は自分の財布と相談しつつ食べたいものを選んでいくことになるのだ。実際の光景を見ると、好きなものを我慢するような日も出てくるのかなあと不安になったりもした。……杞憂だと思いたいが。
まあ、始めから遠慮していても仕方がない。オレは気になったものを自由に取っていくことにした。自分の性格上、味で選ぶというよりは手軽に食べられるもの――インスタントヌードルとかサンドイッチとか――を好んで食べていたのだが、この食堂の料理はどれも甲乙付け難いほど美味しいので困りものだ。生野菜のサラダだけはそれでもちょっと手が伸びないけれど。
お試しのつもりで、今日のところは量の少ない総菜を種類多めに取らせてもらった。ほうれん草とポテトのキッシュ、カリフラワー・チーズ、ローストビーフ、白身魚のムニエル……メインとしてはミートソースのパスタを選ぶ。家では食べないくらいの総量になったが、今なら問題なく完食出来る自信はある。
料理を取り、カウンターに向かう。ルトさんが支払の対応を行っていて、始めてこのシステムを利用する新入生のオレたちに簡単な説明をしてくれていた。
料理の乗ったプレートを専用の装置の中へひょいと乗せると、乗っているものをスキャンして合計金額を出してくれる。
後はテスタマイザーを装置のお金のマークが書かれた部分へタッチすれば、支払まで完了するのだと。
持っていたプレートを乗せてみると、ものの数秒で金額が表示される。……ええと、これで四百ペンド。めちゃくちゃ安いな。
そしてテスタマイザーをかざして……電子音が鳴る。これで支払が出来たのか、実感がないけれど。
「おー……」
テーブルに着いてからポータルバンクを確認すると、残高が『29,600ペンド』となっている。ちゃんと支払が完了し、ここからお金が減ったのだ。
本当に便利な機能だな。
「それくらいで足りる?」
「ん? いや、十分取ったつもりだけど……」
エスカーも料理を買って戻ってくる。彼のプレートにはオレのよりも数皿多く乗っていた。しかもこいつ、パスタとピザを両方選ぶとは……良く食えるな。
「体が資本だからね。たくさん食べて体を作ってかないと。きみはちょっと線が細いし」
「お前も背伸ばしたいだろうしな」
「む……」
売り言葉に買い言葉となって、エスカーが怒るやら笑うやら微妙な顔をしてこちらを睨んでくる。
こいつのやり込め方は何となく分かった気がするが、ううむ。強かな性格してるし、すぐ効かなくなるかもな。
「仲良くなったね?」
「「どこが」」
帰ってくるなりそう言うルカに、つい反論するとエスカーと被ってしまう。
ほら、とルカは笑ったが、それにはもう反論出来そうになかった。
「話せる人が増えてくのはいいことだよ。イマジネーターとして、孤立しちゃうほど怖いことはないだろうしさ」
「まあ、一人で出来ることには限度があるもんな」
イオナも帰ってきて、これで四人揃う。……たった一人でのイマジネーター活動か。想像だけでもそれは心細すぎる。
そのうちこの世界の中だけでなく、ワールドスクリプト……異世界にまで行かなくてはならないわけだから。
「……しかし君らもあんまり食べないね。デザート系が多いけどさ、そういうの以外もしっかり食べた方が」
「ん? ……大丈夫だよ?」
「あ――ゴメン」
ハッキリとしたイオナの返しに、流石のエスカーもこれはまずいと平謝りする。
女子に食事のいろはを説こうとするのはまずいよなあ、そりゃ。
「で……今回の測定だけどさ」
さっきから聞きたそうにしていたエスカーが、ようやくとばかりに切り出す。
「自分の中で良かったとことか悪かったとことかあった? 俺は魔力面が低かったのが悲しくてさ」
「私は特に可もなく不可もなく、かな。最初はこんなもんって思ってるし。あ、物理的な攻撃よりは魔法攻撃の方が強いよ?」
「ボクはエスカーと同じで魔力の方がダメ。魔法バンバン撃てるようなのが良かったんだけどなあ」
「でもよ、ルカ。イマジネートしたのは身体能力向上の力だし、魔法が強いより良かったんじゃないか?」
「まあね、噛み合ってはいそうなんだけど……それでもロマンってヤツがさあ……」
理想と現実の齟齬、というやつだ。魔法への憧れがあったなら、イマジネート能力くらいは魔法寄りでも良さそうだが、ルカの能力はあんな肉体派だったんだよな。
女の子っぽい体つきだし、心の奥底では力強い男になりたいって意識でもあったんじゃなかろうか。……推測の域は出ないけれど。
「ダインは期待通りじゃなかったって言ってたけど?」
「ん……能力値は平凡だったけど、限定スキルってやつ? あれが謎でね。敵の能力をコピー出来るけど、一度使うと無くなるとか……」
「無くなる? へえ……そんな厄介なスキルが」
エスカーは、そこまでじゃじゃ馬な限定スキルは持っていなかったらしい。じゃあどういうスキルだったのかと聞くと、
「一秒か二秒だけ加速できるってスキルだね。でも、限定スキルってメインのイマジネート能力に比べるとかなり劣ってて、再使用に十分くらいかかっちゃうみたい」
「あくまでサブ能力なわけだし仕方ないだろう」
実はもう一つ、七化という使い勝手の良さそうなスキルを持っていたことは面倒臭いことになりそうだから言わないでおこう。
「ボクはどうも、マナの流れとか濃淡が感じられるスキルだったみたい。どこまで役立つかも分かんないなあ」
「私はその間だけ魔力を練る時間を短縮出来るスキルだったな。これは当たりだったかも」
ルカとイオナもそれぞれのスキルについて話してくれた。イオナは場面問わず使えるものだし、ルカも光る場面はありそうなスキルだ。
「納得行ったかはさておき、これで自分の力も知れたわけだし? 実際に使ってみたくもなるよね」
「安全なレベルで一つ一つ確認していきたいところだけどな」
いきなり実戦だと言われて戦地に投げ込まれる……そういうのだけは勘弁してもらいたいところだ。
……などと思っていると。
『新入生の皆さん、お疲れ様です。午後からはイマジネート能力を使った訓練を行いますので、午後一時までに演習場へ集合してください』
メルシオネ教官の放送だ。……まさに実戦の話をしているときに来たもんだな。
「どうやら、早速使ってみるチャンスが来たみたいだね」
「無難に乗り切りたいもんだ」
どんな訓練なのかは分からないが、能力を使う以上は何かと戦うことになる。
その相手がなるべく害の無いようにと、オレは祈っておくことにした。




