252.第三大陸ガジェミア
港町シーディラで一泊したオレたちは、午前中に第三大陸へ渡るため朝食をとってすぐ宿を発った。
パレス様一行が出発するということで、噂を聞きつけた人たちが早くから港へと集まっていて、
「パレス様、頑張ってくださいねえ」
「どんな問題でも、パレス様とセイル大将がいれば心配無用ですね!」
などと声援を掛けられた。
昨日、農園を荒らされたガル爺さんももちろん駆けつけ、
「いやあ、昨日は助かったわい。長旅になるんだろうが、気張ってなあ」
「はは……ありがとうございます」
他にも増して熱量のある励ましに、オレも感謝の言葉を返した。
大勢の人に見送られながら、オレたちは船に乗り込む。
リースさんが出発進行を告げ、船はシーディラの港から滑り出していくのだった。
「――さて」
一度会議室へ集合し、パレスちゃんがまず口を開く。
「次なるは第三大陸ガジェミアだね。こちらも航行距離の短いところだから、昼食時には辿り着けるだろう」
「じゃあ、今回も昼食をとったら封印機構のある場所まで?」
「と考えている。ただし今回は、封印機構が少々入り組んだ場所にあるけれどね」
メンデレイア大陸とウルラ大陸は、険しい山や深い森などは無く、人の生活圏として開拓し易い環境ではあった。
しかし、ガジェミア大陸以北は地形の起伏も激しいところが多いようで、前二つとは環境が異なってくるという。
「詳しいことは、港に着いてから説明していこう。実際にその土地を見てからの方が分かりやすいだろうから」
ということで、ガジェミア大陸の情報は到着してから教えてもらうことになった。
この航海中も、オレたちは二度ほど魔物の襲来に対応した。
まだ苦戦することは無かったが、明らかにウルラ大陸へ向かう途中の魔物よりは強い個体が襲ってきている。
北上するほど魔物が強くなる、という情報が事実であるのを実感させられるな。
『もう間もなく到着ですー!』
大陸の輪郭がハッキリしてきたところで、リースさんの報せが聞こえてくる。
予定通り、およそ二時間の船旅。これくらいなら長くて退屈する、ということもない。
「……ふう!」
船が港へ着いたことを、揺れが教えてくれる。
気を付けていたので今度は姿勢を崩すことも無かった。
一人ずつ下船し、地に足を付けて新大陸の景色を眺める。
なるほど、そこは前二つの大陸とは違った光景が広がっていた。
「山……だな」
オレたちが到着した港と街は、大陸の東に位置している。
そこから西を見やると、峻厳な山々がそびえていた。
どうやら街は、この山の中途あたりまで拓かれていて、斜面を削って建てられた家などが幾つも見受けられた。
イース・ミュールへやって来る前に訪れた、ロウディシアの鉱山街アラヴァンを彷彿とさせる場所だ……そんなオレの想像は正しく、
「このガジェミア大陸の西部に広がるのは、バルシック鉱山。現状イース・ミュールで鉱物資源を採掘出来る唯一の場所だ。建物の建材や浄水設備、農耕等の道具に至るまで……ここで産出される鉱物が無ければ、何も造ることが出来なくなる。間違いなく、ここも一つのライフラインなのさ」
「唯一の、か……」
食糧も当然重要だが、便利な生活のためには道具や設備の充実も大事なこと。
特に首都の科学技術は中々の水準だ。今や鉱物資源無しに、社会は成り立たないだろう。
「今では海族のほとんどがガジェミア大陸を拠点としています。海族稼業としては貿易はもちろん、未開拓の大陸が隣接する場所なので探索でも稼げますし、海に出ずとも鉱夫として働くことが出来る。腕っぷしの強い人たちばかりですから適任なのです。そういった理由から、年々この大陸の人口も増え続けていますね」
金を稼いで裕福に暮らしたい、という野心を持った者はこの大陸へ集まるようだ。
国としてもそれを推奨していて、現状はこの大陸の発展に力を入れているという。
早く浄水場を整備したい、と言っていたのもこういう理由からなわけだ。
「海族たちの街とも言えるここガラバールは、情報が集まる街でもある。彼らは同業同士の情報網を築いているからね。だから、ウルラ大陸のときよりも重要な話が聞けるかもしれない。怪しい人物を見たとか、危険な魔物がいるとか」
「今回も昼食がてら、そういう情報収集にあたるって感じだね」
「そうしたい。ある程度話が聞けたところで、封印機構のある場所へ赴くとしよう」
ウルラ大陸でもそうしたし、同じ動きをすることに別段異存はない。
オレたちはパレスちゃんの提案に賛成し、まずはこの街……ガラバールの食堂を目指した。
「ここ、確か美味いって評判っすよ」
幾つかある食堂のうち一つを、カールさんがオススメしてくれた。
料理人の薦めでもあるし、ここは皆素直に従うことにした。
店に入る段になると、ラークさんはまた本土との定時連絡を入れにいく。
そして適当に料理を注文し、揃ったところでラークさんが戻ってきて、全員で和やかな昼食を楽しむのだった。
「カールさんの前評判通り、美味しかったー! ありがとうね、カールさん」
「へへ、喜んでもらえて良かったっす。こういうところで役に立つしかないっすからね」
「私たちはまだまだ新米ですからねー。これから成り上がっていくつもりだけど、今はしっかり下積みを頑張りますよ!」
「ぼ、僕もその所存です……」
若手三人組が各々に意気込みを語る。一番熱意があるのはリースさんのようだ。
その熱量を表すように、階級が一番上なのはリースさんで一等兵。ベルクさんとカールさんは二等兵らしい。
歳も近いし予想はしていたが、三人は幼馴染とのことで、同じ夢に向かって進んでいきたいとの思いで海軍に入ったそうだった。
「海軍や海族はやっぱり、あこがれの職業ワンツーですから。親も喜んでくれたし、皆で上手くやっていきなさいねって」
「リースんとこは良い人見つけなさいとかも言われてたっしょ。全く気にしてなかったけど」
「もう、それは言わないでよカール。そりゃ、いつかは結婚するかもしれないけれど、いまはキャリアアップが大事なの」
「まあ、リースの気持ちが大事だと思う……」
傍から観察していて何となく察せられるが、リースさんは今のところ仕事一筋。もっと上の階級を目指したい気持ちが溢れている。
他方でベルクさんとカールさんは順当に昇進していければそれでいい、くらいの感じ。
あとはどうも、微妙にリースさんのことを気にしているような、そういう雰囲気だ。
幼馴染同士、絶妙な関係でやって来ているんだなあと思う。
「どうしたの、エスカー? また考え事?」
若手たちの関係性にしみじみしていたところに、ルカの声が聞こえてくる。
料理を食べ終えた皿に視線を落としながら、エスカーが難しい顔をしていたので気になったらしい。
「ん? いや、ここでもヤーシャルの実は活躍してるなあと思ってねえ」
「ああ……そう言えば、ここに浄水場や果樹園は無いのよね」
フェイが思い出して呟くのに、
「そりゃあ、食料としての輸出はしているからね。イース・ミュールの人たちにとって、ヤーシャルの実は食べ慣れた味だから」
とパレスちゃんは答えた。
『……エスカーさん。前に調査をお願いされた件ですが……』
そこでエスカーのテスタマイザーから、マルの通信が聞こえる。
しかし、エスカーは話を遮るように、
「いや、今のところは聞かなくて構わない。また後でいいよ」
『そうですか?』
「ああ、その方がいい」
やや不服そうだったが、マルはこれ以上食い下がらなかった。
本人が後で言いというのだから、今はいいやと諦めたのだろう。
もしかしたら、前回テスタマイザーで連絡していた相手はマルだったのかもしれない。
バランチームを動かしてたんじゃないかとも予想していたんだが。
「この食堂は情報の宝庫だろうしね。今はそちらを優先するとしようよ」
「そうですわね。昼間から結構な盛り上がりですし」
シャーロットさんの言うように、食堂は盛況していて、木のビアジョッキで酒をぐいと煽る男たちも多い。
海族たちの溜まり場という雰囲気で、情報集めには持ってこいだ。
「フ……では、調査を始めるとしようじゃないか……。この街に息衝く海族たちの伝承をね……」
「伝承だけに限らないけどね、ユベールさん……」
イオナの突っ込みに何人かが笑い、落ち着いたところで行動を開始する。
はてさて、この海族たちの街では、一体どんな話が聞けるのだろうか。




