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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第二の巡礼 縦断海域世界_イース・ミュール
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249.眠る残骸

 広間の奥にあるもう一つの区画に、封印機構は置かれていた。

 こちらはまだ破壊されていない。長方形の白い石碑は、込められた魔力によってか仄かに発光している。


「これが作動してる封印機構なんだ。綺麗だね……」

「神秘的、ですわね。インテリアとして飾ってみるのも面白いかもしれませんわ」

「フ……やめておきたまえ、シャーロット……」


 自制を促すユベールさんに、冗談ですわよとシャーロットさんは返す。

 そんなやり取りをスルーしつつ、


「パレスちゃん。これの解除方法は?」


 オレは隣に立つパレスちゃんに訊ねる。


「求められる種類の魔力を正確に込めなくちゃいけない。だがなに、私なら造作もないことだからね」


 あっさりとそう言ってのけると、彼女は一歩前に踏み出した。


「皆は見てくれているだけで大丈夫さ。ほんの一分ほどで終わる」


 封印機構へ向かって片手を突き出すようにすると、パレスちゃんは静かに目を閉じる。

 そして掌から仄かに青く光る魔力が放出され、機構と繋がった。

 その光景を見守ること、およそ一分。彼女の言った通りの所要時間で、封印機構はその輝きを失った。解除されたのだ。


「……よし、完了だ。これでウルラ大陸での目的は達成だね」

「お疲れ様です、パレス様」

「別に大量の魔力を使ったとかでもないよ。むしろスッキリしたくらいさ」


 スッキリした、は言い過ぎだろうが……注いだ魔力量は確かに微々たるものに見えたし、疲れてはいなさそうだ。

 封印の解除で毎回パレスちゃんが疲労していたら申し訳ないので、楽な作業であってくれるのは良かった。


「さて、解除も終わったしここに長く留まっても仕方ない。街へ戻って宿をとるとしよう」

「そうね。魔物が襲ってこないとも限らないし、さっさと離れましょ」


 さっさと遺跡から退散しようと、オレたちは入口の方へ踵を返す。

 しかし、そこで一人だけはたと足を止めた者がいた。


「ん? どうした、エスカー」


 振り向いたエスカーが、何かに気付いた様子で立ち尽くしている。

 気になったオレが声を掛けたものの、彼は何秒か口を開けたまま呆けていた。


「……うん? ああ、いや」


 答えてから暫く、エスカーは考え込む仕草をして、


「ねえ、天使サマ。あの奇妙な岩みたいなの、何だろうね?」


 彼が視線で示す先には、紫色をした奇怪な物体が床と壁の境目あたりに張り付いていた。

 毒々しい色をしているし、確かにあれは目につく。自然なものだとも思えないし、疑問に思うのも納得だった。

 日陰になっているから、良く気付いたなとは感心したが。


「あれは……」


 パレスちゃんは言葉を選ぶように、何度か間を開けながら、


「かつて存在していた、魔物の残骸と推測されているものだね。各地に点在しているけれど、特に害のあるものじゃあない」

「魔物の残骸、ね」


 返答を聞いてエスカーは考え込む。

 害は無いと言うものの、オレも少しばかり気にはなるところだ。紫色の物体……これが魔物の一部というなら、その魔物もこんな色をしていたわけで。

 それは今しがた相手にしていた、イレギュラーの色合いにも似ていた。


「もしかすると、この残骸はイレギュラーだったものかもしれない。まあ、現代の私たちに影響するものではないさ」


 気にしなくても良いと、パレスちゃんはそこで話を切り上げ歩いていく。

 海軍の二人も、黙って彼女に付き従った。

 あの紫の残骸からは、確かに怪しい気配も感じないし、魔力が残っているようでもない。

 ただ、遥か昔にイレギュラーが発生していたのなら、その過去は気にかかることではあった。

 ……そして、過去に関連してもう一つ疑問に思うことがある。

 パレスちゃんが天使であるなら、この世界で永い時を生きてきたはずであり。

 謎に包まれたこの世界の過去も、知っているはずなのではないか――と。





 ウルラ遺跡を出て、港町シーディラに戻ってきたのは午後四時頃。

 オレたちは町で唯一だという宿に向かい、宿泊の手続きを済ませた。

 この間に、ラークさんはまた本部への報告と、船に残っているリースさんたち三人の招集も行ってくれていたらしい。


「意外に早かったんで、次の大陸へ出発するのかと思ったっすよ」


 合流した際にカールさんがそう呟いたのを、


「遺跡内で交戦もあった。彼らのおかげで幸い苦戦はしなかったが、疲労していないわけではない。海を渡るのはなるべく万全な状態にしておこう」


 と、セイルさんが諭した。

 正直オレたちは元気だが、こと航海に関してはあちらの方がプロだ。

 船の操舵やメンテナンスも全て彼らがやってくれているし、スケジュールは一任すべきだろう。

 リースさんやベルクさんは凄くホッとした表情をしているしな。


「けど、さっきのヘンテコな物体、良く気付いたね?」


 ラウンジのテーブル席に座って落ち着いたところで、ルカがエスカーに切り出す。

 エスカーはと言うと、何やらテスタマイザーを操作しながら彼女に返事をしていた。


「視野は広い方だからさ。まさか魔物の残骸なんて言われるとは思ってなかったけど」

「あれがイレギュラーだったとしたら、古代の人はイレギュラーと戦っていたのかしらねえ……」


 フェイはそう呟いて小首を傾げる。

 古の時代にイレギュラーとの戦いがあったなら。人々はそれを倒せていたのかどうか。

 現代の人の強さだと、まずイレギュラーには勝てないだろうが……古代の人たちが強かった可能性はある。

 

「……というかエスカー、何してんだ?」

「ああ。ちょっと野暮用だよ」


 そう言ってテスタマイザーの操作を終えると、


「ちょいと駒を動かしておこうと思ってねえ」

「うん……?」


 そのうち分かるさとばかりに笑みだけを返し、エスカーは具体的な中身を語らなかった。

 ……まあ、コイツのことだから悪いことはしないはずだ。多分、ハッキリしないうちに考えを喋るのが嫌だとかそう言う感じだろう。


「よく分からんけど、プラスになることだと思っとくよ。何だかんだ、お前のやることは信頼出来るからな」

「……そ。誉め言葉としてありがたく受け取っとくよ、リーダー」


 思いがけない言葉だったか、少しばかり反応に困っていたエスカーだが、素っ気なく返事をして席を立つ。


「じゃ、夕飯まで時間を潰そうかな。また後で」

「ああ、後でな」


 宿の外へ出ていくエスカーの背中を見送りながら。

 アイツには、皮肉を言うより褒め殺しの方が効くのかもな、などと思ったりもするのだった。

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