246.詩人の戦い方
ガル爺さんに別れを告げ、オレたちはウルラ遺跡を目指して森の中へ入っていった。
パレスちゃんも海軍の二人も、遺跡の場所は覚えているというので、先頭を歩いてもらっている。
封印機構があり、且つ魔物の出没地帯でもあるので、海軍が定期的に安全管理をしているからとのこと。
大陸が幾つも分かれているから大変そうだと感じたが、海軍の詰所は三番目の大陸までそれぞれに建てられているらしい。
駐留のシフトもあり、一応はちゃんと回っているそうだ。
「この一帯はウルヴァルト森林地帯と名付けられています。大陸の東側半分ほどを占める森で、魔物も生息していますが、人の生活圏と住み分けが出来ているので基本的には襲ってこないのです」
「さっきも言ったように、ヤーシャルの実の効能だね。果樹園が森林との境近くに配置されているから、魔物たちもやって来ないのさ」
セイルさんとパレスちゃんがそれぞれ説明をくれる。戦力が心許ない代わりに、こうした工夫で魔物の被害を防いでいるわけだ。
『残念ながら、その守りが今は機能していないわけですね。また、前方から魔物が逃げてきてます』
話の途中で、マルが魔物の到来を教えてくれる。
がさがさと草を掻き分ける音……お次は結構な数が向かって来ていそうだな。
『敵性反応は五体……複数種いるようですね』
「了解」
まず姿を現したのはさっきと同じワイルドボア。奴らが一番俊足なのだろう。
一匹だけだったので、斥候役に出たエスカーが即座に斬り捨ててしまう。
「ボクは……そいつだっ!」
続いて飛び出してきたのはシックルミンク。鎌状の尻尾を振り回す危険なイタチ型魔獣だ。
ルカの接近を察知し、くるくると回転して彼女を斬り裂こうとするも、冷静に回避した彼女に重たい一撃を喰らって吹き飛んだ。
一匹を倒した直後、もう一匹のシックルミンクが背後から襲い掛かってくる。
そいつはオレがすぐさま側面に回り込み、鋭い突きで串刺しにした。
「ちぇっ、見えてたんだけどな」
「はは、仕事を奪っちまったか」
軽口を言い合っているところに、ドシンと一際大きな音が響く。
音がした方へ目を向けると、そこには残りの二匹――ワンランク上の魔物がいた。
「こいつは……ブラッドベアか!」
異世界コリンシアでの訓練を思い出す。
あの時は先手を取れたから有利に戦えたが、堂々とやるとなれば苦戦するかもしれない。
「フ……ここは僕に任せてほしい……」
オレたちの前に出ていったのはユベールさんだった。
正直なところ従っていいものか迷ったが、後ろにいたシャーロットさんは見てなさいという顔をしている。
なら、ここはお言葉に甘え任せてしまおう。
「――凱旋に至る詩」
初めて目にする、ユベールさんのイマジネート。
光に包まれたブースターが変化していき、それは一メートルほどある眩い竪琴になった。
否、ただの竪琴ではない……あれは弓だ。
竪琴と弓とが一体になった、まさに吟遊詩人らしい武具なのだった。
「この美しき音色とともに逝くがいい……」
弦に指を這わせると、優雅な手つきで音色を響かせる。
そして一番端の弦を引き絞り――放たれるのは魔力の矢。
狙い定めた様子は無かったのに、一度に二本発射された矢は、真っ直ぐ二体のブラッドベアへ飛んでいく。
『グォオオ……ッ!』
直撃……断末魔の声を上げ、ブラッドベアたちは地面に倒れ伏す。
正確に急所を撃ち抜かれており、どちらも起き上がってくることは無かった。
「ひゅう……鮮やかですねえ」
「凄いな……」
皮肉屋のエスカーも素直に称賛したし、オレも凄いという言葉が口を衝いて出てくるくらいだった。
流石はユベールさんと言うべきか、その戦い方は強いだけでなく魅せるものだと感じる。
「ふふん、まあまあですわね」
「おや、手厳しい……」
辛口コメントを発したのはシャーロットさんだけだ。
まあ、この中でまあまあなんて言える実力があるのは彼女と……パレスちゃんくらいなんだろうな。
「ありがとうございます、迅速に片付けていただいて」
お礼を述べるセイルさんに、
「なに、僕もそろそろ体を動かしたいと思っていたところだからね……」
なおも音色を奏でながら、ユベールさんはそう返した。
この人、ハープを持つと音を鳴らしたくなって仕方がないんだな、きっと……。
「フフ……今は一矢で仕留められたけれど、僕の技は弓を引くことだけではないよ」
「えっと……」
「詩人の肩書きに恥じない能力でね。この竪琴が奏でる音色は、様々な効力を発揮するのさ……」
聞くところによると、主に補助魔法のような効果が竪琴の音色にはあるらしい。
攻撃だけでなく補助も出来る、サポート役として大変便利な能力を有しているわけだ。
「これでも彼、チームに誘われることは多いのですわよ。対話の難しさに目を瞑れば、優秀な戦力には違いないからと」
「またしても心外だね……」
シャーロットさんの褒めているやら貶しているやら分からない評価に、ユベールさんは遠い目をしながら呟く。
……先輩同士のやり取りだから、どう反応したらいいのか困るんだよなあ。
兎にも角にも、無事に魔物を倒したオレたちは戦利品を回収して、また森の奥地へ歩き始める。
鬱蒼とした森林地帯ではあるものの、エイヴスのクレイス原生林に比べればまだマシだ。
あそこは樹木の一つ一つが相当な大きさを誇っていたからな。
「……お、見えてきたね?」
「あれ、もう?」
パレスちゃんが見えてきたと口にしたのに、オレは思わずそう返してしまった。
やはり個々の大陸は小さめなので、地上を長く移動することにはならなさそうだ。
「ああ。ちょうど目の前に現れたのが、封印機構のある目的地――ウルラ遺跡だ」
崩れた石造りの建造物。蔓が這い、木々が育ち、森林と一体化した古代の遺跡……。
神秘性すら感じさせるその遺跡の中へ、オレたちは足を踏み入れるのだった。




