244.サブチームの動向
ダイン一行が第二大陸ウルラで昼食を取り始めた頃。
イース・ミュールへやって来たバランチームはセラフィス教会のアディに案内され、ドニ国王と謁見していた。
「……うむ、君たちも頼りになりそうで助かる。時間については既に断りを入れられているゆえ、夕刻までで構わんよ。どうか街の警備をよろしく頼む」
「ええ、お任せを」
片膝をついて跪き、バランは恭しく答える。
こういうときの礼儀というか、良く見えるやり口は上手いんだよなあと他のメンバーは皆、心の中で思っていた。
「具体的な巡回場所については、海軍中将のデネルが伝達してくれるとのことだ。彼から話を聞いてほしい」
「了解しました」
特に質問をすることもなく、バランたちの謁見はすぐに終了した。
謁見の間を出たところで、テッドが肩を落としながら溜め息を吐く。
「はー、堅苦しいのはゴメンだから早く済んで良かったあ!」
「せやなあ。バランのことやから、もっとあれこれ聞くんかと思ったけど」
エステルが遠回しにバランのことを揶揄すると、
「こういう場合、トップに聞いても細部まで分からんことが多い。デネル中将とやらに聞けと言われた以上、余計に質問を重ねる必要はないと思ったまでだ」
「ふむ、説得力のある言葉でござるな」
「……別に父のことを言っているわけじゃないぞ」
説得力という表現をサラルがしたので、バランはすぐにそう否定する。
「父はいわゆるキャリアではない、身一つであの地位まで上り詰めた大人物だ。……だからこそ、凡人とは考え方が違うんだろう」
「学園に殴り込みかけるくらいやし、ね?」
「……フン」
バラン自身もあれには流石に参っていたので、エステルの軽口を怒ることも出来なかった。
ヨーゼフ=カーファは息子であるバランに何を求めているのか。世界に何を求めているのか。
それはバランにも分からない。
「あはは……バランくんも苦労してるんですね」
「同情はいりませんよ、アディさん」
冷たく切り返され、アディもそれ以上のフォローを入れることはしなかった。
「それにしても、こんなに早くアディさんとお仕事することになるとは、びっくりだなあ」
「ふふ、そうだね。イマジネーターとして成長中な後輩の力、見させてもらうとするよ」
教会の後輩にあたるエレンの言葉に、アディはにこりと笑んでそう返す。
そのやり取りに、他の面々も二人が良き信頼関係を築いていることを認識するのだった。
「確か事前情報やと、教会の人ってもう一人来てるんやなかったっけ? その人はどこにおるんやろ」
「ニオさんは既に現地調査を開始してるよ。新たな異世界、イース・ミュールについて文章にまとめなくちゃいけないからね」
「で、アディさんの方が俺たちの案内を引き受けてくれたんだな!」
テッドがニンマリと笑い、アディもそうですと請け合う。
バランチームの中で唯一ニオをしっているエレンは、彼が年上で役職も相応の人物ということもあり、アディが案内を買って出てくれて良かったと胸を撫で下ろしていた。
「じゃあ、このまま海軍本部へ赴くとしようか」
特に異論があるはずもなく、バランたちはアディさんに付いて海軍本部を目指した。
その道中、ダインチームがどのような冒険へ繰り出したのか説明を受けながら。
「……北の果てまで航海、か。長旅だな」
「そうなんだ。ダインくんたちはまだ一年目だっていうのに、大変なことになったもんだよ」
「あいつらが音を上げるなら、いつでも代わってやるがな」
「ふふ、そうは言いつつ無事に帰ってくるとは思ってそうだけど」
アディの返答が面白くなかったようで、バランは顔を背けて何も言わなくなる。
やっぱりひねくれ者だなと、アディは苦笑した。
ダインたちが目を惹かれたのと同じように、バランたちもまた街を歩く中でゼフ・ミュールの都市機構に関心を抱く。
綺麗な水だ、面白い発電技術だなどと雑談を交わしつつ、彼らは十分ほどで港へ到着した。
「ここが海軍本部だね。受付の人に言えば、すぐデネルさんに取り次いでくれることになってる」
中へ入り、アディは受付の女性に用件を伝える。すると女性は心得たとばかりに頷き、彼らを関係者用の区画へ誘った。
ダインたちがセイルと話したのと同じ会議室。
そこで五十代くらいに見える年配の男性が待っていた。
「デネルさんですね?」
「その通り、私がデネル=ウッズだよ。どうぞよろしくねえ」
他の兵士たちに比べると、デネル中将はかなり物腰の柔らかい人物に思われた。
ただ、柔和な笑顔を浮かべる顔には幾つか古傷が窺え、おまけに片目は眼帯をしている。
「あはは、気になっちゃうかな。これでも海軍勤めは長くてね、魔物との戦いで傷つくのは避けられない。右目は見えないわけじゃあないけど、たまに痛むもんで眼帯をね」
「それは……苦労されましたね」
「死んじゃうよりはマシさ。私は運が良かった方だよ」
海の治安を護る海軍。この世界において第一線で魔物と戦う組織であるため、犠牲になる者も多い。
定年まで勤め上げられるのは、ほんの一握りの人間だけだという。大半は辞めるか、命を落とすことになる。
その気苦労が現れているのか、黒いはずの彼の髪色は大半が白髪になってしまっている。
「ま、そんな話は置いといて。国王様からの指示だ、君たちにはお仕事の説明をしないとねえ」
「大抵の魔物は問題なく処理出来る。言ってくれればどこでも警備させてもらうつもりだ」
デネル中将にはストレートに考えをぶつけるバラン。
年上に対してはやや失礼にも思える言葉遣いだが、特にデネルは気にしていないらしい。
「こりゃ頼もしい。ウチの若い奴らにも聞かせてやりたいくらいだよ」
「自信過剰な台詞やと思うけどなあ」
「いやあ、それくらいの気概があるほうがいいもんだ。魔物が怖いって若手はどうしても多いからね」
バランの振る舞いを全肯定するデネル。それゆえ、かえってバランは調子を狂わされてしまう。
こういう話術で相手を懐柔しているのだとしたら、案外やり手の人物なのだなとバランは評価を改めた。
「……して、我々はどこを警備すればよいでござるか?」
「そうだねえ。セイル大将とラーク少将が抜けちゃったから、残る戦力はほとんど港を護ることに集中してもらってる。だから君たちは、手薄になった浄水場を護ってくれると嬉しい」
「浄水場、ですね。分かりました」
「案内はいるかい?」
「いえ、僕が一度訪ねているので大丈夫です」
アディの返答に、デネルは満足げに頷いた。
「時間は概ね夕方五時までと聞いてる。私としてもそれで十分だ、まさに襲撃中というわけでもなければ、きっちり定刻で帰ってちょうだいな」
「ええ、もちろん。俺たちも忙しい身なのでね」
実際、学業と仕事を両立しているイマジネーターも忙しい身には違いない。
バラン以外のメンバーも当然、イース・ミュールに留まるのは決まった時間までにしておきたいという気持ちだった。
「他に無ければ、すぐにでも現地へ向かうが」
「そうだね。……いや、もう一つだけお願いしたいことがあるんだけど、いいかい」
「何だ?」
バランが問うと、デネルは多少バツが悪そうな顔をしてから、こう切り出すのだった。
「……出来れば兵たちの様子を気にしてやってほしいんだ。ここのところ、一部の若手たちの士気が下がっている感じがしていてね――」




