243.第二大陸ウルラ
始まりの船旅は予定通り二時間もたたず終わりを迎えた。
魔物も最初の襲撃があってからはほとんど現れず、一時間経った頃に二匹だけ飛び込んできた程度。
この海域はまだ平和なのだし、それが普通なのだろうけど。
『皆さん、そろそろ港に着きますよ!』
リースさんも伝声管で間もなく到着することを教えてくれる。
船のスピードもだんだんと緩やかになってきた。
二つ目の大陸ウルラ。
首都との交易も活発な、穏やかな農耕の地だと聞いたが、スムーズに目的を達せられるだろうか。
「おっとと……」
船が接岸し、揺れで少しよろけてしまう。
他の面々は手すりや壁に寄りかかっていたりして何事もなかったので、少し恥ずかしくなった。
次からは気を付けよう、うん。
下船の段になり、またラークさんがレバーを操作して舷梯を下ろしてくれる。
それを伝ってオレたちは、第二大陸の大地へと降り立った。
「お疲れさまでした。ここはウルラ大陸の町シーディラです。この町で育った農作物が首都の食を支えているんですよ」
「首都は人口の増加で、早々に農業から撤退してますからね。自分のところも爺ちゃんの代までは農家だったんですが、今は技術職をしてまして」
ラークさんの両親は共に、水路の設計等を請け負う技師だそうだ。
今やゼフ・ミュールの労働者で農業を営んでいる人は一割にも満たず、農家を続けたいと思った者たちは皆こちらへ渡って来たという。
海を隔てているものの、都会と田舎の関係性という感じに思えるな。
「忘れてはいないだろうけど、私たちの目的は封印機構の解除だ。この大陸の封印機構はウルヴァルト森林内の遺跡にある。そこまで深い森じゃないから、今日中に処理したいところだね」
「ですがその前に、食事は済ませておきましょう。情報収集も兼ねて」
パレスちゃんが目的をおさらいしてくれたあと、セイルさんがそう付け足した。
時刻は十二時半。ちょうどランチタイムだし、探索より先に腹ごしらえはしておかないと。
「おお、パレス様じゃ……!」
「まさかこちらへいらっしゃるなんて、予定でもあったかしら……?」
当然ながらパレスちゃんはこちらの町でも注目の的なようで、道行く人から拝まれたり感謝されたりしていた。
もしもオレがこんな扱いをされたら恥ずかしくて堪らないが、慣れっこな彼女はその全てをさらりと受け流していたのだった。
「ちなみに、どこで昼食をとるつもりなんです?」
「そうですね……」
そこまでは計画していなかったのだろう、考え込むセイルさんに、
「はい! 私の知ってるお店で良ければ行きませんか?」
リースさんが元気良く手を挙げ提案してきた。
「ふむ、リース一等兵のオススメか」
「いいんじゃないかい? 私たちはあまりお店に詳しくないしね」
単なるイメージだが、偉くなるほど庶民の店には疎くなりそうだ。
その点リースさんたち三人はそういう情報をよく知っていそうではある。
結局リースさんの案に乗ることとなり、オレたちは彼女オススメの食堂までやって来た。
木造の素朴な建物だが、中は結構な広さがあり、地元住民もよく利用しているのが分かる繁盛具合だ。
「自分は一度本部に連絡を入れておきますね」
「ああ……頼む」
店に入る前、ラークさんはセイルさんに断りを入れ、通信機を取り出して連絡を取り始めた。
今のうちに席を取っておこうということで、オレたちは先に中へ入る。
「この世界にも通信機があるんですね」
「少し前に開発された革命的な連絡手段なのですが、皆さんの世界ではありふれたものなんでしょうか」
「まあ、それなりには普及してます」
最近の革命的な発明と前置かれると申し訳ないけれど、携帯出来る通信機は割と普及している。
イマジネーターが持つテスタマイザーは、それすら数ある機能のうちの一つだしなあ。
「……っと、話をすれば」
テスタマイザーに通信が入った。
イース・ミュールに来たばかりの時は、人目を引かないか心配で使い辛かったが、通信機が珍しくないならそこまで気にしなくてもいいか。
「はい、こちらダイン」
『バランだ』
こちらの言葉が終わるか終わらないかのうちに、向こうも被せてくる。
渋々連絡した、というのがよく分かる第一声だ。
『ついさっきこちらに到着した。これから教会のアディさんに話を聞かせてもらう』
「了解、便利に使っちまってすまないな」
『フン、謝罪は結構だ。もしお前らがしくじったら、俺たちが代わらせてもらうぞ』
「はは……そうならないよう気を付けるさ」
バランの言葉を発破として受け取っておく。奴としては半ば本気で言ってるんだろうけれど。
『今はその報告だけだ。何かあれば連絡する』
「ああ、よろしく頼んだ」
そこで通信は切れる。
わざわざ報告してくれるんだから、律儀な奴だ。
「凄い装置っすねえ、ソレ」
感嘆のを漏らしたのはカールさん。
他の面々も、興味深げにテスタマイザーを見つめている。
「武器を収納するだけのものと初めは思っていましたが、かなり多機能なようですね」
「これはロウディシアでも最先端の技術です。イマジネーター……オレたちみたいな戦闘員しか支給されないんで」
「我々海軍も、それくらい便利なものを導入したいものですが、他所様の技術をただ羨ましがっても仕方ない。今後も科学の発展に投資していかねばなりませんね」
ロウディシアではコードリオンという魔石が技術革新に大きく寄与している。これが無ければ多くの機械製品が世に出ていないはずだ。
産出量はまだ安定していたと記憶しているが、テイムナー鉱山の魔石が枯渇してしまったら、大変なことになるだろうな。
なおイース・ミュールにおいては、コードリオンと全く同じものは存在しないものの、似た性質を持つ魔石がそれなりに採れているようで、今の技術が成り立っている。
古代文明でもそれを用いていた痕跡があるらしく、金銀財宝でなくとも当該魔石が眠っているのならありがたい話なのだと。
「ひょっとすると、千年王国はそんな資源に目を付けているんでは?」
本部への通信を終えたらしいラークさんが戻ってきて、椅子にかけながらそう推測を話す。
「彼らの技術力も相当のものだと聞くし、資源や資金を求めているというのは確かに考えられる。財宝を奪われて奴らの戦力補強に使われる、なんてことは許したくないね」
「元々デカい組織っぽいし、これ以上力は付けられたくないなあ」
パレスちゃんの言葉に、イオナはそう合わせる。
確かに千年王国が戦力補強を狙っているという仮説も恐ろしくはある。……が、セラフィス教会はこの世界に危機が訪れていると判定しているのだ。
だとすれば本件は財宝の取り合いで終わるような話でも無いはず。それはパレスちゃんも分かっているとは思うのだけど。
「まあ、今は考えても分からない。それより昼食をいただこうじゃないか」
「そうだね、ボクお腹空いてきたし」
彼女がどこまで見通しているのか、真意がどこにあるのかは読めない。けれど、この世界を護りたいというあのときの宣言に偽りはないように思えた。
結局、こちらも今は分からない……聞いても答えは返ってこないだろう。
旅の中で彼女の真意はいずれ明らかになる。この場は無駄に悩まず、食事に集中するとしよう。




