235.女神と呼ばれた少女
予想以上にあっさり自らの身分を明かすと、パレスちゃんは肩を竦めてみせた。
「別に隠すつもりはなかったんだけどね、いずれは気付くと思っていたし。ただ、セラフィス教会の方々が同行しちゃってるものだから、やっぱり一瞬で看破されちゃったな」
ニオさんとアディさんが教会所属の人間というのもちゃんと分かっているらしい。
なら、オレたちがアトモス学園のイマジネーターというのも当然把握しているんだろう。
「私は天使としてこの世界を監視しているわけだけど、何故か人々に気に入られてしまってねえ。女神様と持ち上げられ今の地位を貰ってしまったんで、悠々自適に暮らしつつ、最低限の恩返しをさせてもらってるというわけさ」
「じゃあ、王様と同率どころかもっと上……神様として崇められていたわけね……」
出会う人が皆、パレスちゃんを様付けで呼んでいたのはそういう理由だったのだ。
ヒトならざる存在として。イース・ミュールを見守ってきた女神として。
幾分勝手な尾ひれもついたことだろうが、とにかく……この世界の人々に敬われてきたのである。
「とすれば、天使である貴方には最初から、我々の目的などお見通しだったのでしょうな」
「ごめんよ、民衆の手前こちらが召喚したという体にしてしまって」
実態としてはロウディシア側からワールドスクリプト内に接続しているのを認識している。
しかし、イース・ミュールの民にはそれを事実のまま伝えられず、こちらの世界が術を行使して呼びこんだということにしたわけだ。
「ちょっと待ってよ。ボクら、エイヴスでもルマンって子にしてやられたけどさ……天使は人に試練を課すとか言って、終末ノ獣を呼び寄せたんだよ? だったら、君も同じことをしようとしてるってことじゃないの?」
ルカの疑念も尤もだ。前回の異世界エイヴスでは、天使ルマンが千年王国という組織と結託し、あの世界に終末ノ獣を産んだ。
それが人類が乗り越えるべき試練だから、と。
ならば、目の前にいるこの天使もまた、イース・ミュールに終末ノ獣を産み落とさんとしているのではないのか。
彼女に従ってしまうと、再び終末の災禍が訪れてしまうのではないか……。
「君たちが『暴食』……ルマンに会ったことも知っているよ。まあ、あの子は真面目な性格だ。自身の役目をしっかり果たそうと頑張っていたみたいだけど……私は生憎と『怠惰』でね」
どうやら天使たちにはそれぞれ二つ名らしきものがあるらしい。
エイヴスのルマンちゃんは暴食で、ここにいるパレスちゃんは怠惰か……どちらかと言えば、天使と対極にあるような呼称だが。
「この世界で持て囃され、何不自由なく生活出来ることに満足してしまったんだよ。だからね、この世界を滅びの危機に晒したくはないのさ」
「ホントかなあ……」
正直オレも、パレスちゃんの言葉を完全には信じられない。
隣を見ると、イオナも疑いの眼差しを向けている。
異世界を巡り、危機を払っていかなければならないという預言。
その預言が現実のものとなるなら、イース・ミュールもまた終末の危機に見舞われる公算が高いのだから。
「残念ながら、今は言葉で信じてもらうほかない。私は心から、このイース・ミュールを護りたいと思っている」
ただ、とパレスちゃんは続ける。
「君たちも結局のところ、手ぶらで帰るわけにはいかないんじゃないかい。私を信じるにせよ信じないにせよ、この世界でやるべきことは決まっているはずだ」
「……ふむ、そう開き直られてしまうと、こちらもその通りと答えるしかありませんがね」
口元の髭を撫でながら、ニオさんはそう答え、
「たとえ何を企んでいようとも。我々は必ず、世界を救わせていただきますぞ」
「……うん。それでいい」
ほんの僅かだけ、寂しそうな笑みを浮かべたパレスちゃんは、すぐさまその表情を潜めて。
ようやく話がまとまったと、また仮面のような笑顔を張り付けるのだった。
「よし! 君たち風に言えば、依頼も引き受けてもらったことだし、王宮へ戻ることにしょうか。ドニ国王にも伝えなければいけないからね」
「そうしましょう。貴方が天使であれば、報酬については勝手に決められないでしょうからな」
「フフフ、それもお見通しだったか。財務的なところに私はノータッチだからね、それは彼らと相談してほしい」
というわけで、オレたちは一度王宮へ帰ることになった。
あれやこれやと説明され、最後には彼女が天使であるという爆弾が落とされたわけだが……そう、目的が変わることは特にない。
この世界を襲う危機がどんなものであれ。
オレたちはそれを払い、護るだけなのだ。
*
「おお、そうか……引き受けてくれるか」
承諾の旨を伝えると、ドニ国王は安堵したように呟いた。
周りの兵士たちも、心なしか緊張感が解れたように見える。
「見ず知らずの星へ召喚され、その上危機を救ってほしいなどと虫のいい話ではあるが……恩に着る、勇者たちよ」
……そう言えば、こちらへ転移してきた際にもパレスちゃんはオレたちを勇者と呼んでいたな。
異世界の英雄を呼ぶぞ、みたいに説明していたんだろうか? 少しむず痒くなる呼称だ。
「君たちに参加してもらう調査計画については、後ほど海軍を交えて話させてもらおう。君たちからも必要があれば意見を出してもらって、細かな調整を加え最終決定し、その後出発……こういう流れを予定している」
ドニ国王の隣席に着いたパレスちゃんがそう告げる。
しかし、何度見ても不釣り合いな光景だな……少女が王座に腰掛けているというのは。
「長く、困難な航海となるだろう。だが、数々の星を救ってきたそなたたちであれば、きっとこの世界も救ってくれる……そう信じておるぞ」
「は……はい」
数々の星を救ってきたって、どれだけ誇張したんだよパレスちゃんは。
恨むように視線を向けると、彼女はペロリと舌を出して誤魔化すのだった。……なんて天使だ。




