21.測定の時間
体力テストについては、メルシオネ教官の言う通り中等学校でやって来たのとほぼ同じものだった。
腹筋、腕立て伏せに五十メートル走。それに時間無制限のマラソンもあった。
唯一特別だったのはクライミングくらいか。演習場の隅にクライミング用の壁があり、左側はロープ、右側は石に似せた突起が付いていて、その両方で壁の上まで登り切る時間を計測した。
マラソンが最後の種目だったのだが、やはり時間無制限となると普段鍛えているかどうかが如実に表れる。全力でやり切ったつもりだったが、エスカーやサラルくん、それにバランくんよりも先に離脱してしまう結果となった。順位としては、一位がバランくん、二位がサラルくん、三位がエスカーといった具合。前二人はほぼ僅差で、エスカーは涼しい顔のまま離脱したので限界を出し切ったのかどうかが分からなかった。……底が見えないな、あいつは。
このテストの評価は、後で行う能力測定の結果と合わせ、今日中にテスタマイザーで送られるとのこと。全生徒中何位だったかも出るらしい。中の上くらいには入れると思っているが、果たして。
「これで体力テストも終了です。久々に体を動かした方もいるかもしれませんね……少しだけ休憩を入れましょう。今が十時四十分なので、能力測定は十一時からとします。二十分の間に息を整えて、そのままA棟の測定室前まで移動してきてください」
休憩が入るのはありがたい。正直、走り過ぎて足が棒のようになっている。
イオナもルカもオレと同じく余裕がなさそうだ。あるのはエスカーくらい……って、まだ一緒にいるつもりか。
「やあ、バランくんもやるねえ。凄い足震えてたけど」
「あいつ、二十分で回復するか……? んで、お前の方は全然ノーダメージに見えるのがムカつく」
「俺も辛いってば。ああいう風になる前に上がらせてもらっただけだよ」
まあ、男として意地を見せるのも一つの生き様なのだが、その後地面に仰向けになって完全にダウンしてるのはな。
バランは意地を取り、エスカーは面子を保つ……似ているようで、少し考え方は違う二人だ。
「それじゃあ行くとしようか、測定室」
「仕切り始めた……」
「いつの間にかしれっと真ん中にいるなあ、この人……」
イオナも苦笑しながら言い、ルカも本当だよと同意する。
何だか賑やかなパーティになってきたもんだな。
足の痛みは易々と取れてくれなかったが、一応歩くことくらいは出来る。オレたちはエスカーを先頭にして、A棟の測定室へと向かった。
測定室の前には既にメルシオネ教官が待機しており、オレたちを室内へと誘導する。ここは構造的に三つの区画に分かれていて、まずは準備室で待っていてほしいとのことだ。
測定は一人ずつなので、呼ばれた生徒から装置のセッティングされた区画に入る。そして制御区画にいる事務員が装置を作動させ、能力値を読み取るという流れのようだった。
十一時になった段階で、メルシオネ教官はオレたちを点呼しアルファベット順に整列させる。それから一人ずつ順に名前を呼び、測定区画へ入るよう指示していった。
一人あたりに掛かる時間は、大体五分ほどだった。待機中のオレたちには事前に教えてくれたのだが、装置での読み取りには一分も必要ないらしい。中で自分の能力値について説明もしてくれるので、結果的に五分ほど掛かっているということだった。
「ダイン=アグナスくん、どうぞ」
イニシャルがDなので、オレの番は早めだ。女の子を挟んで二つ後ろにいるエスカーが、いってらっしゃいとばかりにニコリと笑う。いや、笑われてもな。
頭を掻きつつ、オレは促されるまま測定区画へ。……中は無機質な四角い部屋と言うべきか、何も余計なものが置かれていない空間になっていた。
壁面や天井は賽の目状に線が走っており、四角い面の真ん中に黒いレンズのようなものが埋め込まれている。……無数の目に見られているようで、あまり居心地の良い空間ではないな。
『それでは、測定を開始しますね』
事務員の女性の声が聞こえる。オレが一つ頷くと、装置の作動を示す電子音の後、レンズの一つ一つから細い光がオレに向かって照射された。
『眩しければ目を閉じていても大丈夫です』
眩しいというか、光線があちこち動き回って目がくすぐったくなる感じなので、オレは素直に目を閉じていることにする。
そうして一分が経ち、光が消えて再び電子音が鳴った。……これで測定終了か。
『お疲れさまでした。これより測定結果を表示します……』
微かにカタカタという音が聞こえる。向こうの区画で事務員の女性が機械を操作している音だ。
すぐに音は止んだが、中々能力値が能力値が表示されない。やけに時間が掛かるなと訝しんでいると、
『あれ……うん……?』
むしろあちらの方が困惑しているらしい声が聞こえてきた。
「どうしました?」
『え? いや、あのー……とりあえず表示しますね』
表示が出来ないエラーとかではないらしい。ボタンを押し込む音の後、オレの目の前にウインドウが出現し、詳細な能力値が表示される。
「……ん……?」
『すいません、こんな表示になってしまっていて……』
事務員の女性が困惑するのも頷ける、不思議な表記がそこにはあった。




