20.想造――イマジネート③
六列目には、何となく見覚えのあるような少年がいた。
見覚え、というか……似ている、というのか。
「彼はサラル=ムツキ。入学式で話をしてくれてたセアル=ムツキ先輩の弟だよ」
「ああ、だからか」
適切な説明をくれるのはエスカーに感謝だ。言われてみればハッキリと、セアルさんに似ているなと思える。
セアルさんよりも短く刈り上げられた黒髪、比べると僅かに小柄だが、平均よりはがっしりめの体格。何より独特の……イザヤ風というのだったか、ゆったりめの衣装を纏っている。
彼が能力を発動すると、ブースターは剣の形へ変化した。それも、一般的な剣ではなく片側だけに刃の付いた……あれはカタナというやつだな。
「くっ……こんなものか。これから精進せねば……」
見事な具象化だったというのに、サラルくんは悔しげだ。こんなものか……という表現からすると、もっと大きかったり、派手だったりしてほしいと思っていたのだろうか。
「お兄さんと比べちゃうんだろう。セアル先輩はもっと巨大なカタナを出せるんだって。自分で大きさを変えられるところも凄いところだね」
兄弟でイマジネーターになると、他人からも否応なしに比較されるだろうし、自分もそれを意識せざるを得なくなるわけだ。
せめて兄と同等にはなりたい。可能ならば上を目指したい。そんな思いを抱いているがゆえの悔しさ、というところかな。
そんなわけで六列目も終わり、次は七列目……ということで。
「俺の番か。どんな能力になるのやら」
エスカーは余裕綽々といった様子でテスタマイザーを操作し、ブースターを取り出した。
「さあ、能力を発現させてみてください」
メルシオネ教官の合図で、各人が魔力を放つ。
皆それぞれに特徴的な能力を発現していく中、エスカーの発動した力は。
「――氷霧幻影」
彼の宣言とともにブースターが霧散し、それと同時に空気が凍り付いたような感覚が襲った。
……いや、錯覚ではない。彼の周囲にキラキラと光るのは微小な氷の結晶に違いなく。
まるでそれが霧のように彼を取り囲み、周りから熱を奪い取っていたのだ。
「いやあ……面白いね、この力」
エスカーはニコリと笑い、魔力の繋がりを断ってブースターを元に戻す。
冷たい氷の力……クールを気取った彼にはなるほど、ピッタリのようにも思えるものの。
イマジネートが反映しているのは、彼の心の奥底だ。……それが氷か。ただのキャラ付けではないらしい。
「フ……後は三人の能力を鑑賞させてもらうとするかな」
ブースターを格納し終えたエスカーはそう言い、もう一度気障な笑みを浮かべる。
それだけで落ちる女子もいることだろうが……生憎オレたちにとっては変わらず胡散臭いだけだった。
「では、八列目――」
心なしか、エスカーだけでなく他の生徒やメルシオネ教官も注目しているような気がする。
誰に、どこまでの話が伝わってしまっているのかは分からないが……まあビビらず、落ち着いてやるのみだ。
焦れば多分、また力を暴走させてしまう。今回はちゃんと、己の力を支配してみせなければ。
「――門を開く者」
しっかりと、意識を集中させる。ブースターが黒い霧へと変化していき、オレが頭の中に明確なイメージを模ると、手の中にそのままの形を作り出した。
黒き剣――あれ? 最初に出したときよりも少し縮んでいるような。
立ち込めていた霧の総量も、どうやら前回より少ない。制御に重きを置いたがゆえ、かなり力がセーブされてしまったかもしれないな……イマジネートは難しい。
隣を見ると、イオナは昨日見たのと寸分違わぬ杖を召喚している。今にも迸りそうな光の集う、杖。
そして……ルカは。
「――勇猛たる翼」
ブースターが粒子化したかと思うと、それはルカの全身を包み込むように集束していく。
ルカは淡い光を纏った状態のまま、状況が飲み込めずにしばらくの間オロオロしていた。
「えーっと……?」
特にブースターが武器になるわけでもなく、自身に謎の光が付与された――まあ、混乱するのも無理はない。
ただ、何となく察せられることはある。
「あっ」
思いついたように足を曲げ、そのままジャンプするルカ。
すると、彼は明らかに常人では不可能なほどの跳躍を見せた。……体二つぶん、三メートル以上は跳んだぞ。
「身体能力強化って感じかあ……」
軽やかに着地してみせたルカは、それから高速でオレたちの周りを走り回り、再び元の場所へ戻ってきた。
明確な武器が現れたわけではないが、これはこれで汎用性の高い能力じゃないか。
イオナも凄い凄いと褒めているし、エスカーもニヤついている。あいつのお眼鏡に適ったということらしいな。
……とりあえず、これでオレたちの番は終わりだ。少しは緊張したが、無事に済んだしルカもイマジネートを会得出来て良かった。
それから九列目、十列目と滞りなく実技は終了し……最終的に、イマジネートがてんで駄目だったのはレメディオ=カインズくんだけだった。
彼の進退を憂う気持ちもあるが、イマジネーターの道は甘くないのだ。むしろ痛い目を見ない内で良かったはず。
彼の泣き腫らした目は次にどこを見るのやら……だな。
「お疲れさまでした。今年の新人イマジネーターも個性的な能力ばかりで頼もしい限りです。皆さんの中にはもしかしたら、自分の力はこんなもんじゃないと思っている方もいるかもしれませんが、当然能力とは育っていくものです。皆さんの努力次第で、その力はどんどん成長していくはずですよ」
メルシオネ教官は、実習の締め括りとしてそんな言葉をオレたちに投げかけた。サラルくんなんかは、今の言葉が特に沁みたんじゃないだろうか。
「……さてと。無事にイマジネート実習も終えましたので、ここからは皆さんの能力測定に移っていきますね。中等学校でもあったような体力テストをしてもらって、後は特殊な装置による能力値の計測です。この二つが終われば午前の部は終了ですので、もう少し頑張ってください」
体力テストか、懐かしい響きだ。あんまり自信はないのだけれど、やるからには全力で臨まないと。
オレたちはメルシオネ教官の指示に従い、演習場の整備など測定のための準備を始めるのだった。




