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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
巡礼の支度 想造育成機関_アトモス学園
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19.想造――イマジネート②

 蛇のアクシデントはあったものの、二列目、三列目は特に問題が発生することもなかった。

 言い換えればそれは、能力としてやや地味なもの、という印象ではあったのだが。

 ただ、本とペンは必ず武器に変わるものだとばかり思っていたオレにとって、様々な能力を目の当たりにするのは多くの発見があった。

 人の想像というのはやはり枠に捕らわれたものばかりじゃない。思考能力が早くなったり、両手両足に水掻きが付いたり……何となくその子が持つトラウマやコンプレックスが透けて見えるのも興味深かったが、多分本人にしてみれば恥部を曝け出すようなものだったりもするから、恥ずかしくて堪らないだろうな。


「では、四列目に移りましょう……どうぞ」


 四列目にはあのお坊ちゃん、バラン=カーファがいた。彼は神妙な面持ちでブースターを見つめ、そして静かに目を閉じる。

 そして、カッと目を見開くと、


「――高貴なる救済(アムネスティ)


 眩い光――ブースターは弾けるように光の粒となり、その動きが反転するようにバランの手元へ還っていく。

 具象化されたのは光がそのまま集まったような、揺らめく槍。

 その全体から、まるで煙のように光が漏れ出ている。


「ほう、見事ですね」


 メルシオネ教官も思わずそう呟くほど、なるほどそれは流麗な能力だった。

 光放つ槍、か。その見た目はイオナの能力、照らし出す光(リベレイション)にも似ていた。

 少なくとも、オレの黒い霧とは真逆だ。


「ふう……当然です。俺は、カーファの一族ですから」


 これくらい出来なきゃおかしい、というニュアンスではあったが、その表情は能力の発動前より少し和らいで見えた。

 心の中では不安を感じていたのかもしれない。カーファの一族ですから、か……大きな肩書が、彼にとってプレッシャーになっているような気もした。


「では、次……」


 能力発動の順番が五列目に回ってくる。その中に一人、ずば抜けて不安そうな少年がいた。かなりふくよかな……ポッチャリ体型の男の子だ。背も低いので余計に丸っこく見える。

 髪は焦げ茶で目の少し上あたりで切り揃えられている。なので垂れ目が若干髪に隠れていて、太っているせいか顎には皺が薄っすら入っていた。

 服装はワイシャツにネクタイ、サスペンダー付きにズボン。綺麗にまとまっていて、全て高級品に見えるので、バランと同じく社会的に地位の高い家ではと推察出来るのだが。


「――あの子はレメディオ=カインズ。ファミリーネームで分かるだろうけど、カインズ家のお孫さんだよ」


 そのとき、まるでオレの思考を盗み取ったかのような的確さで、そう話しかけてきたヤツがいた。

 ちょうどオレの前列にいる、金髪の少年だ。

 髪をワックスで跳ねさせ、片耳にピアスをしていて不良少年といった雰囲気を醸し出している。

 端正な顔立ちで、妖しい笑みを浮かべているところは女子ウケが良さそうだ。オレからしてみれば凄く胡散臭いけれど。


「商工会の孫、か。なるほどバランくんが気にしてるわけだ」

「あの二人、いつも一緒だからね。とは言っても? レメディオがくっついてるだけって感じだけど」

「……で、君は」

「ああ、ゴメン。俺はエスカー=イリオット。どうぞよろしく」


 軽薄な物言いのまま、エスカーくんは手を差し出してくる。

 仕方がないので握手をしつつ、


「ダイン=アグナスだ。ヨロシク」

「昨日の一件で有名になってたからね。ちょっとお近づきになりたくてさ」

「素直だな……いや、本心か?」

「本心だって。そちらのイオナさんにもね?」


 急に話を振られたイオナは驚きつつも、


「あ、うん。昨日はちょーっと目立っちゃったね。よろしく、エスカーくん」

「よろしくね」


 オレと同じように、求められるまま握手を返す。


「……なんか胡散臭いヤツだね」

「……まあな」


 ルカが囁いてきたので、オレも声のボリュームを低くして答えたが、


「ハハ、よく言われる。君はルカさんだったね」

「え――うん。よ、よろしく」


 聞こえないよう気を付けていただろうに、中々の地獄耳だ。ルカは呆気にとられていたものの、エスカーが気にせず握手を求めたのでほぼ反射的に返していた。

 このエスカーという少年、場の主導権を握るのが上手いというか、捉えどころがなくてやりづらいな。

 名乗らなくともオレたち三人のことは事前に知っていたみたいだし、情報を事前に詰め込んで自分がアドバンテージをとるようなことを心掛けているのかもしれない。

 ……けれど。


「ホントにお近づきになりたいだけか? 競争の激しそうなここで背伸びしたい気持ちも分かるけどな……その靴みたいに」

「あは、よく気付くなあ。人の気にしてるコト」

「ちょっと違和感あったからな」


 足元の高さが微妙に変だな、というくらいのハッタリだが、図星だったようだ。

 ルカもホントだ! と声を上げて面白がっていた。


「ちぇっ、一筋縄じゃいかんぞってことね。……ただ、お近づきになりたいのは嘘じゃないよ。加えて君たち皆、強そうだからさ。いざとなれば力を借りれる間柄になりたいワケ」

「はあ。戦力だと思ってくれるのはまあ、悪い気はしないけど」


 正義の仕事とは言われがちだが、イマジネーターも人間だし、こういう打算的なヤツもいて当然か。


「……難しそうですか?」


 ふと気付くと、メルシオネ教官がレメディオくんに向かって話しかけていた。

 他の四人は既に能力を発現している。……ということは、つまり。


「ふぐぐ……! ぐぬぬ、うぅ……!」


 声を漏らしてまで必死に魔力を込めようとしているのだが、その努力も虚しくブースターには何ら変化がない。

 オレたちが話している間ずっとこの調子なら、二、三分は経過しているし……多分、そろそろ限界だろう。


「レメディオくん、残念ですが……ブースターに反応が無いということは、能力を使えないということです。イマジネーターとしての適性が無い、と」

「そんな、そんなはず……!」


 メルシオネ教官に諭されても、レメディオくんは諦めずに力を込め続ける。

 しかし、傍から見ても明らかだ。彼にはブースターを反応させられまい。


「レメディオ。……もう止めとけ」

「アニキ……」


 見かねたバランくんが引導を渡すようにそう告げる。するとレメディオくんは、糸が切れたようにその場へくずおれて、悔し涙を流すのだった。


「……って、ここに来て適性がないとかもあるんだな」

「これは俺の推測だけど、あの子はコネみたいなのもあったんじゃない? それに、オペレーターっていう道はまだあるし」

「コネ、ねえ……」


 アトモス学園にコネがあるというのはあまり考えたくないが、議会だの商工会だの、社会で重要な役割を果たすところの係累だと圧力をかけられるとかが無いとは言えない。

 だから、その上で適性が無いことを知らしめて最善の選択を迫る……学園にとってはそこが落としどころ、というのも有り得そうだ。


「何にせよ、これでレメディオくんがどんな選択をするか、だろうねえ」


 エスカーくん――エスカーでいいか――はさも楽しそうに言う。人の葛藤を目にするのが面白いのだ、という風に。

 ヤな性格だなと思う反面、どこかこいつには別の側面……何というか、自虐的な部分もあるような気がした。

 その表情に、どこか憐憫のようなものが伺えたから。



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