224.調査要請、来たる②
「はあ、やっぱりこうなっちゃうんですね……」
「ウチらのリーダー、頑固やからねえ」
「とか言いつつ、面白そうだから来たんだろ!」
「拙者としては、また力添え出来るならと考えたわけだが……」
「お前ら、ごちゃごちゃ煩いぞ」
賑やかなやり取りを交わしながら入ってきたのは、他でもないバランチームだった。
最近は突っかかってくることもなく静かだな、と思っていたのだけれど。
「話は聞かせてもらった。……校長、人手が要るなら俺たちも参加させてください。成行きだとしても、俺たちもエイヴス事件でイレギュラー問題に関わった実績があるんですからね」
バランは腕組みをしたまま尊大な態度でそう切り出す。
まるで当然の権利だと言わんばかりに。
「よく嗅ぎ付けて来たねえ、バラン」
「フン。昨日お前たちが校長と話し、その後慌てて列車に乗り込むところを見ていた。何か特異なことが起きたと考えるのが普通だろう」
「それをよく見てたよねって感じなんだケド……」
オレもルカと同じことを言いかけていた。
対抗心というか執着心というか……コイツはオレたちの動きにいつも目を光らせてるよな。
「まあ、リーダーも悪気はないんよ。手伝えるなら自分らが適任やろって感じで」
「同期だと気持ち的にも頼り易い、と踏んでのことでござろう」
「おい、余計なことを言うな」
好き勝手に補足を入れるメンバーを窘めつつ、バランは校長に向き直り、
「……で、どうなんです。俺たちが参加しても不都合は無いと思いますが」
再度の問いかけを行った。
「やれやれ。ついこの間あったことを忘れたわけでもないだろうに」
「それは……」
校長の反撃に、バランは少し口ごもる。
この間のこととは、バランの父親ヨーゼフ=カーファが学園へ抗議に来たことだろう。
確かに、あれは中々の剣幕だった。罵声を浴びせられている校長が不憫になったものだ。
「お前の親父さんを怒らせると怖いんだがな。あの時はこちらの落ち度だったとは言え」
「あれは俺の判断だったと言ったでしょう。……それに、父はどうせ」
言いかけて、バランは緩々と首を振る。
それ以上を自分が口にするわけにはいかない、といった感じに。
「……フ。親父さんは怒らせたくねえが、今回についてはサポートである限り大丈夫だろう。ワールドスクリプトとの行き来に問題が無いと確認出来た上で、拠点造設等の補助役に徹する……それなら参加してくれても構わん。むしろ、手は多い方が助かる」
「始めからそう言ってくれればいいんですよ。……いずれ、イレギュラー対策チームの後続にもなってみせますから」
「そのつもりなら、まずは親父さんを説得してからだな」
また父親のことを持ち出され、バランは露骨に顔をしかめた。
ただ、校長の言葉は尤もだ。バラン自身は良くとも、危険を冒すことで家族が怒鳴り込んでくるようでは迷惑なわけで。
それを御せない限りは、学園のトップとして許可を出すことは出来ないだろう。当たり前の話だ。
バランも父親を丸め込むことは無理だと感じているのか、もう何も言わなくなってしまった。
正直、こうして押しかけて手伝いだけでも仕事を貰えたのだ。十分だとは思う。
「バラン殿の暴走気味な提案、チームの一員として申し訳なく思ってはいるが、同時に喜ばしくも思っているでござるよ。コーネリア校長、かたじけない。これでまた共に戦える」
「サラル……」
そんな風に表現してくれるのなら、こちらとしても嬉しいというものだ。
サラルは自然とこういう言葉が出てくるけれど、バランには難しいだろうな。
「せっかく一度は共闘した仲やしねえ?」
「あの……またよろしくお願いします。それから、コーネリア校長にアディさんも……すみません」
エレンちゃんは全員を代表して頭を下げる。
そうだ、彼女はアディさんとも旧知の仲なんだよな。
「やる気のある人員が多いのはありがたいことだよ。僕もエイヴスでの君たちの活躍、よく知っているしね。……さて、少しばかり脱線してしまいましたが、話を戻しましょう」
アディさんは居住まいを正し、改めて調査の内容を話し始める。
「本件ワールドスクリプトの調査については、ひとまず二週間という区切りを付けさせていただきます」
「区切り?」
「はい。二週間後に根本的な問題が解消されていない場合、人員の見直しを行った上で調査を継続する……という予定です。エイヴスの実績があるとはいえ、皆さんは一年目のイマジネーターですから、あまりに長く関わっていただくのは」
建前は長期間の拘束が申し訳ない、ということなのだろうが、本音は違う。
二週間で解決出来ないのなら力不足。もっとベテランのイマジネーターに任せるべき案件だった……となるわけだ。
別に怒るつもりもない。仮にそうなってしまった場合、力不足だったのは事実だし、最初に任されているだけでも光栄なことなのだから。
ただ……。
――これが預言絡みの事件だとすれば。
力不足と判断された場合、オレたちとイオナはどうなるのだろうか。
色々と理由を付け、引き離されてしまう可能性も考えられなくはない。
正直……それは嫌だ。
「……難しい顔してやがるな」
その言葉に顔を上げると、コーネリア校長がこちらを見つめていた。
「力が及ばなかったらどうしようってのが透けて見えるぜ」
「……校長」
まるでジャンヌさんのように。……心を見透かされているみたいな指摘をされてしまう。
この人はもしかして、オレがイオナから預言について明かされたと、察しているのか。
「やる前から弱気になるもんじゃねえさ。慎重なのはお前の長所かもしれねえが、同時に短所にもなる。やるとなったら、不安を枷にしちゃいけねえ」
慎重すぎるきらいがあるのは、自分でも理解している。それがよく二の足を踏む原因になっていると。
指摘されたとて一朝一夕に変わるものではないが……それこそエイヴスの時に感じはしたのだ。
覚悟を決めれば、案外なんとかなるものだというのは。
「はは……難題ですけど、オレも前向きな性格にはなりたいとはね。二週間、上等です。全力で頑張って、今回も問題の解決まで達成してみせますよ」
「その意気だ」
調子が戻ったなとばかりに、校長は笑う。
百パーセント自信を持って言い切ったわけではないけれど……実際、校長の発破で気持ちは切り替わった。
それには感謝しなくちゃな。
「しっかりやれなければ、こちらが手柄をもらうだけだ」
「だから危険なことし始めるとお父上に怒られるんじゃないの?」
エスカーが呆れ調子で言うのに、バランはフンと鼻を鳴らした。
……恐らく今のは本気の台詞じゃなく、あいつなりの発破な気はする。
というか、自分でも応援したいのか貶したいのか分からないのかもしれないな。悩み多き若者だ。
「やはり皆さん頼もしいですね。教会として常に色々なパターンを想定しておかなければならないので、長期間の調査を前提としましたが……早急に解決出来るなら当然その方が良い。期待させていただきますよ」
「ま、ほどほどに……」
「上等って言ったばっかだろうが」
オレが結局控えめな返事をしたので、校長はそう突っ込みを入れて笑う。
何と言うかまあ、少し格好付けた部分もあったので、こういうオチにしたかったのだ。
「フフ、ダインくんには一番期待していますからね。……さて、最後に調査の開始日ですが、これは明日からを予定しています。当教会からは私ともう一名、ニオ=ハンニス大司教が同行いたしますので、ご了承ください」
「教会から二人もか、珍しいな?」
「ええと……こちらはこちらで、私の実地訓練というのもあるんですよ。コーネリア校長」
「ハッ、なるほど」
恥ずかしそうに頭を擦りながら言うアディに、校長は合点がいったと頷く。
大司教という役職は恐らくかなり上位。アディさんも大先輩に教わりながら、異世界調査のいろはを学んでいかなければならないのだな。
学園は学園で、教会は教会で。新人はしっかり見守られながら育成されていく。
「出発は午後一時半、アルカード星書院に集合してから向かいます。ふう……これでお伝えすることは全てですかね」
やっと一仕事終えられたと、アディさんは疲れた様子で息を吐く。
教会の人間として、一人でここへ来て長々と説明しなくてはならなかったのだから、彼の心労は良く分かる。
オレなら胃が痛くなっていそうだ。
「丁寧な説明、感謝するぜ。教会も良い若手を育ててる」
「いやあ、まだまだですよ。日々精進です」
校長の賛辞に、そう謙遜するアディさん。なんか感情移入してしまうな……似ているのかねえ、性格とか。
「ここまでお時間をいただき、ありがとうございました。明日からの調査、どうぞよろしくお願いしますね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
こうして、事前の対談は終わる。
明日からはまた、異世界の冒険に繰り出すことになるのだ。
しかもお次は、まるで中身の分からない新世界ときた……不安も大きいが、ワクワクする気持ちだって大きい。
そう――たとえこれが二番目の巡礼であったとしても。
エイヴスと同じように、オレたちで世界に訪れる危機を振り払ってやろうじゃないか。




