222.ひとまず任務完了
セラフィス教会の本部はセント・ロウディシアにあるため、アディさんとはアルカード星書院で別れた。
列車を乗り換え、オレたちは午後六時過ぎにアトモス学園へ帰り着く。
普通の依頼をこなしてから舞い込んだ追加の仕事だったから、今日はかなり遅くなってしまったな。
「お前たち、お疲れ!」
「トバルさんこそ、お疲れ様でした」
オレが労いの言葉を返すと、トバルさんはにひひと笑う。
「期待の新人の戦いぶりを見れるかと思ってたんだけど、ちょっと変なことになっちまったなあ」
「あはは……そうですね。私たちも、どれくらい強い魔物が出てくるかなって緊張してたんですけど」
ボトリと落ちてきたのが、海でしかまともに活動出来ない海洋系の魔物だったとは。
「次の機会があれば見せてもらいたいもんだな! ……あ、それからダインくんよ」
「はい?」
「他の新入生から、お前が絵を嗜むらしいって聞いたんでなあ。美術部に入ればいいのにって思ってたんだ」
もしかしたらそういう話をされるのでは、と予想はしていた。
オレの大して突き詰めてもいない趣味について教えたのは、多分サラルかエステルちゃんだろう。二、八くらいでエステルちゃん優勢だ。
「オレが絵を描くのは趣味というか気持ちを落ち着けるためのルーティン、みたいなとこがありますから。最近はイマジネーター稼業が忙しいのと、あまり悪夢も見なくなったんで描かなくなったし」
「そっかあ……ま、無理強いするわけにもいかないからな。でも、興味が湧いたらいつでも見に来ていいんだぞ!」
「そう言ってくださるなら、どこかで一度くらい覗きにいかせてもらいますかね」
待ってるぞ、とトバルさんは満面の笑顔を浮かべる。
「そんじゃ、オイラはこれで帰るかあ。またな、お前たち!」
「はい、ありがとうございました!」
会ったときと同じくらい元気に手を振ってから、トバルさんは去っていった。
もういい時間だが、向かったのは寮ではなくD棟の魔術工房のようだ。
多分、バインダーを返却しに行ったのだろう。
いやしかし、イマジネーターと技術者を兼任するような人だったとは驚きだ。
「大先輩からラブコールをいただいちゃったねえ?」
エスカーがニヤリと笑いながらこちらを見てくる。
オレは溜め息混じりに、
「どこの部も、部員は増えてほしいんだろうさ。この学園はそもそも生徒総数が少ないんだし」
「そうだねー。生徒会から言わせてもらうと、人数によって部費も増えるから実際に有益なんだよ」
イオナがそんな情報をくれる。大規模な勧誘会が毎年行われるのも、部員を獲得したい切実な思惑があるわけだ。
「それよりも。帰って来たんだしさっさと報告に行くとしよう。流石に腹も減った」
「賛成! ボクももう腹ペコだよ……」
エイヴスの一件以外では、こんな時間まで活動していたことはない。
今日は中々に忙しい一日だった。
オレたちはそれ以上駄弁ることもなく、B棟の校長室に直行する。
そして扉をノックし、返事が聞こえてから中へ入った。
「……よう、お疲れさん。ちょうど教会の方からも報告が来たところだ」
「大慌ての移動でしたけどね。何とか無事に終わらせました」
エスカーじゃなくとも皮肉の一つは言いたくなる。
校長も流石に悪いと思っていたか、
「メッセージでもいいから先に伝えとくべきだったな。すまんすまん、俺も気が回ってなかった」
軽薄に笑ったままではあったけれど、そう謝罪はしてくれた。
「アディさん……教会の方の話だと、私たちの力をまた借りることになるかも、という話でしたけれど……そのときも校長から連絡をくださるのかしら?」
「ああ。あちらさんから要請が出れば、今度こそすぐ伝えさせてもらうさ。持ち帰ったばっかりだから、今日ということはねえだろう」
審査がどの程度かかるかは規模等にもよってまちまちらしいので、一概には言えないようだ。
ただ、早ければ明日には結果が出るかもしれないとのこと。
「異常が観測されなきゃそれが一番良いんだが。イレギュラー反応の出てる歪みな以上、なあ」
「俺たちが必要ないことを祈ってはおきますけど、望み薄ですかねえ」
あの歪みの中にある異世界が、平和であってほしいというのは当然の気持ちとして。
向かわなくてはならない未来に、心積もりしておくこともまた当然の義務だ。
「とりあえず、今日の依頼はここまでで完結だ。教会から謝礼も入ってるし、渡しておこう」
「お、やったねっ」
校長が手際良く端末を操作し、オレたちにお金を振り込んでくれた。
一人あたり千ペンド……昇級してから報酬単価が上がったこともあるし、収支はプラスを継続出来るようになっている。ありがたいことだ。
「つーわけで、次の要請が入るまでは普段通りに活動しててくれ。余裕は残しといた方がいいだろうが、な」
「了解です。いつでも出られるよう、依頼は軽めのものにして過ごしますよ」
オレが言うと、コーネリア校長は助かると頷いた。
これにて報告は終わり、オレたちは校長室を後にする。
……明日以降、新たな異世界調査に繰り出す可能性が現実味を帯びてきた。
エイヴスのときみたいに、何日も必死で戦い抜くような場所じゃないといいけれど。
――ま、今は考えなくてもいいか。
「よし、自由の身になったしメシを食うとしますか」
「はーい!」
ルカ以下数名、やっと腹を満たせるという嬉しそうな声が返ってきて。
オレたちは心なしか速足で、食堂へと向かうのであった。




