220.鉱山街アラヴァン
学園からの列車はアルカード星書院が終点なので、オレたちは一度そこで列車を乗り換えてアラヴァンを目指す。
コーネリア校長が言っていた通り、アラヴァンに到着したのは午後四時十五分。ちゃんと最速で来られたようだ。
駅から降り立つと、眼前には雄大な山々が広がっている。トライ・タワーの効力が及ぶ南ロウディシア大陸、その東端をほぼ縦断するほどに、このテイムナー鉱山は長大だった。
そして、鉱山に張り付くようにして出来上がったのが鉱山街アラヴァン。山の手前側から中腹辺りまで、住居が建造されているのがここからでも窺える。
労働者が拓いた街、という歴史が一目で分かるような、そんな街の景色なのだった。
「オイラの実家も鉱山の裾野あたりにあるんだぞ。けどまあ、今は紹介してる場合じゃないけど」
「時空の歪みを対処するのが最優先、ですもんね」
初めて訪れる鉱山街。観光してみたい気持ちもあるものの、今は仕事での来訪だ。
やるべきことはキッチリやらねばならない。この街の人々を護るためにも。
「ここからどうすればいいんだろ? トバルさん、何か聞いてます?」
ルカの問いかけにトバルさんは、
「おう、校長曰くアラヴァンに来れば教会の人が待っててくれるはずなんだと」
「教会の人……一目で分かればいいけどなあ」
すれ違いになって時間を浪費するのは致命的だ。
そんなことにはならないでほしい……と思っていると。
「あれ? もしかして……」
見知らぬ街で、しかし見覚えのある顔があった。
以前、通信の画面越しに対面したあの人物だ。
「皆さん、こちらです。時間通りに来てくださるとは、流石ですね」
「教会の人ってアディさんだったんですね。お久しぶりです」
オレたちを待ってくれていたのは、エイヴス滞在中オレたちに情報をくれたアディ=メイルさんだった。
確かエレンちゃんの先輩で、役職は司祭だったはずだ。
「その節はありがとうございました。こちらが提供出来た情報は僅かだったにも拘らず、皆さんで懸命に動いてエイヴスを救っていただき……深く感謝してます」
そう言い、アディさんはぺこりと頭を下げる。
情報が少なかったのはアディさんのせいじゃないのだし、頭を下げられるのはかえって申し訳ないんだけどなあ。
「気にしないでいいですよ。そちらも苦労ばかりしてそうですし」
「ってエスカー、失礼だろ」
「あはは……察していただけますか」
エスカーは皮肉交じりに言ったのだが、アディさんはそれを素直に受け取ってしまう。
教会の内部事情は知らないが、比較的下の人間は実際、よく分からないままあれこれ指示されて大変なのだろう。
オレたちが今、コーネリア校長の無茶ぶりでここまで来たのと似ている。
「……コホン、それはさておき。早速ですが皆さんには、時空の歪みが発生する予測地点へ向かっていただきます。恐らくあと数十分も経たないうちに発生するはずなので、到着したらすぐ戦闘になると考えてください」
「分かりました。心構えはしておきます」
オレが答えると、アディさんは頷いて、
「では、僕の後に付いてきてください。街から出て少し歩きますが、疲れるほどではないかと」
街外れに出てくれるなら、戦いもやり易い。
まあ、アトモス学園やセント・ロウディシアで発生したような歪みは異質で、そうホイホイ起こることではないわけだが。
駅から線路沿いを引き返すように、オレたちは歩き出す。
しばらくはこのルートを進み、ある地点で道路から外れての移動になるらしい。
「しかし、今回はすぐ駆けつけていただいて助かりました。時空の歪みはどんな時間でもお構いなしに発生するんで、深夜に兆候が表れたときなんかはいつも困っちゃうんです」
「深夜……そういうときでも、ちゃんと誰か出動してくれてるんですか?」
「その時々ですよ。都合がついて来てくれることもあれば、早朝の出動になることもあったり。学園に連絡がつかない、という事態には幸いなったことはないですが」
……だとすると、アトモス学園は必ず職員の誰かが起きて電話番をしている、ということか。
あまり考えたことがなかったけれど、イマジネーターの責務として二十四時間世界を護らなければならないんだものな。
いつだって要請に応じられる体制であることも、一つの義務だ。その体制を維持している職員の人たちには感謝しなければ。
「緊急事態なら、コンストラクターの方へ出動要請したり、或いは教会だけで片付けることとかは?」
好奇心から深堀りしようとするエスカーに対し、アディさんはやはり素直に受け答えをする。
「コンストラクターへの要請は滅多にないですね。あちらは星定議会と懇意にしているんで、下手に頼むと後々面倒になりかねないそうです。それから、教会の人間だけで処理することですが……これは無いとも言い切れません。戦闘技術を有した者も、一定人数所属していますから」
「へえ……それはエレンちゃんのようなイマジネーターだったり?」
「という者もいれば、コンストラクターのように武器と魔法だけで戦う者もいますよ。ただ、上の方々はちょっと特殊な事情があるようですが……それは学園の生徒さんと言えど、お話は出来かねます」
戦闘に関して特殊な事情があるとは、どういうことだろう。
たとえば高価だったり貴重だったりする装備を貸与されている、とかだろうか。
教えてくれないなら、あまり考えても仕方ないことだが……ちょっと気にはなるな。
「ちなみに、僕も低級モンスター程度なら対処出来ます。イマジネーターではありませんがね」
「ハハ、それなら俺たちが失敗しても安心かな。大先輩もいるし、何だかんだ手厚くて助かりますよ」
「ふふ。そう言いつつ皆さんならきっと、楽々対処するんでしょう。期待してますからね」
楽々対処……出来るかなあ。歪みの向こうから発生する魔物の詳細も分からないし、不安は感じてしまう。
期待に違わぬ活躍を、ちゃんと果たせればいいけれど。
「……もうすぐ予測地点です。まだ歪みは確認出来ませんが、程なく発生するでしょう」
アラヴァンから少し離れた荒れ地。まだ街の輪郭は見えるくらいの距離だ。
ここで時空の歪みが発生し、オレたちが間に合っていなかったら……魔物は容赦なく街へ侵攻していたことだろう。そうならなかったことはまず良かった。
後は、無事に魔物を討伐出来るか否か。大先輩もいるのだし、恥ずかしい戦いは見せたくない。
「――あれです! 時空の歪みが出始めました……皆さん、よろしくお願いしますね!」
「はい、全力であたります!」
気合を入れ直し、前方で空間を裂いて広がり始めた歪みと対峙する。
イレギュラー対策チームとしての、久々の案件。背負う肩書きに泥を塗らぬよう、快勝させてもらうとしよう。




