219.同行する技術者
オレたちが慌てて乗り込むと、まるでそれを待ってくれていたかのようにすぐ扉が閉じ、列車は走り出した。
揺れ始めた車内を慎重に歩きつつ、オレたちはまとまって座れる空席を探す。
中途半端な時間ということもあり、乗客はさほど多くない。特に問題なくどこにでも座れそうだ。
……などと思っていると。
「おい、こっちだこっち!」
どこかから元気な声が聞こえてきた。……オレたちに向けての言葉だろうか?
「お前たちのことだぞ、ダインチーム!」
勘違いではなかったらしい。声のする方を見てみると、ぶんぶんと手を振ってくれているのが分かる。一体誰だろう?
「……あれ?」
振られた手の主を発見したオレは、つい呆けた声を上げてしまった。
そこにいたのは、予想外の人物だったからだ。
「えっと……トバルさん?」
「おう、そうだぞ! いやあ、お前たち間に合って良かったな」
席に一人座っていたのは、四年生のトバル=ファインさんだった。
部活歓迎会のとき、美術部の部長ということで登壇していたのを見たきりだから、久々の再会だ。
それに、あのときは別に話したわけでもないので、ほとんど初対面といってもおかしくはない。
「ギリギリでしたけどね……というか、トバルさんはどうしてこの列車に?」
「ん、校長から聞かされてないのか? オイラが同行すること」
そんな話は一切聞いていない。校長め、結局話は全部伝えきれてなかったんじゃないか。
心の中で悪態を吐いていたとき、テスタマイザーの通知音が聞こえてくる。
まさかと思いながら画面を見ると、そこには校長からメッセージが来ているというお知らせが表示されていた。
『列車には無事乗れた頃か? 伝えられてなかったが、本件の処理についてはトバルが同行してくれることになった。車内で合流してくれ』
……一歩遅かったな、校長よ。
「今メッセージで来ました。もうちょっと余裕を持って話を持ち掛けてきてほしいんだけどなあ……」
「アハハ、仕方ないんじゃない? 校長も校長だけど、お前たちも毎日忙しく働いてるだろ?」
「俺たちのこと、知ってるんですね?」
「そりゃ学園内で知らないヤツはいないだろー。オイラもお前たちとすれ違うときは、今日も頑張ってんなあって思ってるぞ」
知らないヤツはいない、か。大先輩がそこまで言ってくれるのは嬉しいが、同時に気恥ずかしくもある。
有名になっていくのを日に日に実感させられるなあ……。
「トバルさんが来てくれるってことは、危険度の高い案件なんですか?」
ルカが訊ねると、トバルさんは首を振って、
「いんや、今回オイラは技術者として呼ばれたんだ。ま、よっぽどお前たちが危なくなったら助けに入るだろうけどな」
「技術者……?」
言っていることの意味は分かるが、俄かには信じられなかった。
だって、コーネリア校長がさっき愚痴っていたばかりだ。イマジネーターだけで処理出来るようになれば楽なんだが、と。
「……これから向かう街、鉱山街アラヴァンのことはどれくらい知ってる?」
ふいに、トバルさんがそんなことを聞いてきた。
答えあぐねるオレに代わって、テスタマイザー越しにマルが答えてくれる。
『アラヴァンは隣接するテイムナー鉱山から鉱石を採掘するため、集まった労働者たちが造り上げていった街ですよね』
「うんうん、それがアラヴァンの成り立ちだな。んで、ただ鉱石を掘って売るだけじゃ儲けが少ないからと、街の人たちは生産から加工までアラヴァン内で出来るよう、技術を磨いたんだ」
「あ……確かにアラヴァン製の武器だとか、電化製品まであるくらいだもんなあ」
オレもそれは見たことがある。鉱山街と言いつつ、機械製品自体がそこで造られているんだなあと感心したはずだ。
「アラヴァンに住む住民の約六割はドワーフ族。これは元々採掘のため集まったのが、当時から技術力の高かったドワーフ族だったからだ。そしてオイラもドワーフの血を引いてるし、アラヴァンに実家があったりもする」
「つまり……トバルさんも専門技術を有している、ということなんですね」
「そうだぞ! 意外に思われるかもしれないけど、オイラは学園を卒業したら魔術工房に就職する予定なんだ。工房長とも仲良くさせてもらっててな、時々出張所でバイトもしてるんだぞ」
ということは、もう既に魔術工房の見習いとして働き始めているようなものなのか。
C棟の出張所に行くと、あの寡黙な職人マルゼスさんと一緒に仕事をしているトバルさんの姿があるかもしれない、と。
その対照的な組み合わせは、想像してみると何だか面白かった。
「じゃあ、今回俺たちに同行してくれるのはバイトの一環というわけですか」
「そういうことになるな。アラヴァン住みのオイラに、工房長が行ったらどうだって提案してくれたのもあるけども」
工房長……確かイスト=アーベルという人物だったか。一つの組織のリーダーにしては、案外気さくな人柄のようだ。
「ちなみに、コイツが時空の歪みをワールドスクリプトにする装置だ。固定器って言うんだぞ」
「へえ、これが……」
装置は長方形をしており、一辺が開いていて中が空洞になっているのが分かる。
外側は無数のボタンと何かを表示するモニターがあって、歪みに対して細かな確認や制御が必要そうなことが何となく察せられた。
ワールドスクリプトへの固定化というのがどんなものなのか具体的には知らなかったが、こういう装置を使って書物の形に変換するんだな。
「素人のボクらにはチンプンカンプンだなあ……」
「アハハ、そりゃそうだろー。けど、コイツをいつか誰でも扱えるようになれば、歪みの処理もグッと楽になる。オイラが工房に入ったら、そういう便利な技術革新をドンドンやっていきたいもんだ」
「凄い夢ですね……便利なものが出来たらオレたちも嬉しいですし、応援してますよ」
「おう! 楽しみにしててくれな」
まだ先の話ではあるけれど、この人ならばと思わせられる雰囲気はある。
イマジネーター兼技術者のトバルさん、か。彼が将来どんなものを世に出していくのか、今から楽しみだ。




